第五話 「始まる共同生活。」
店を追い出された後、他の店にも行ったが
持っているお金を見せると同じように追い出されてしまった。
気付けば日も落ちてきて、流石に疲れたので川沿いの土手に座り込んだ。
「どこの店に行っても同じことを言われてしまった。本当にこの世界は俺のいた世界とは違うんだな。」
この時初めて、「孤独」を感じた
元の世界でも一人で過ごしていたが、目的があった
やれば何でもできた
街を歩けば、勇者ともてはやされた
しかし
ここには魔王がいないらしい
買い物すらできない
誰も俺のことを知らない
元の世界に戻れるのか?
このままこの世界で暮らすのか?
急に色々な不安が押し寄せてきた
こんな気持ちになるのは初めてだ
いっそこの川に飛び込めば元の世界に戻れるのでは?
急にそんな気にさえなってきた
どうせ一度魔王に敗れて死ぬはずだったんだ
試してみる価値はある
仮に死んでも、この世界に俺を知る奴もいないしな
「試してみるか。」
そう言って立とうとした時、声が聞こえた。
「おーい、リルドー!」
声の主は、和馬だった。
「なんだ、貴様か。」
「なんだって酷いな!というか、そろそろ和馬って呼んでくれてもいいんですよ?」
「……」
「どうしたの?なんか元気なさそうだけど。」
「やはりここは俺のいた世界とは違うようだ。」
和馬は、さっきまでの顔とは違い急に真剣な顔になった。
「どうしてそう思ったの?」
「色々と店を周ったが、買い物一つろくにできなかった。俺のもっている金では駄目だそうだ。」
持っているお金を和馬に見せた。
「確かに、初めて見るお金だ。これじゃどこの国でも使えないね。」
「やっぱりそうなのか。」
「もしかして、落ち込んでる?」
「そ、そんなわけないだろ!俺は勇者だ!」
「まぁまぁ、とりあえず落ち着いて。暗くなってきたし、僕の家に帰ろう?」
「いや、俺はこのまま川に飛び込んで元の世界に戻ろうとしていたところだ。」
「何言ってるの?そんな鎧着たまま飛び込んだら溺れて死ぬだけだよ?」
「仮に死んでも構わん。どうせ俺を知っている奴はこの世界にはいないし、元の世界にも悲しむ奴なんかいない。」
「ばかたれ!」
僕は、リルドの顔を思いっきり引っ叩いた。
「っっ?!」
「少なくとも、元の世界の人達はリルドが魔王を倒すのを信じているんだろ?それに僕は、もうリルドのことを知っている!このまま死なせられるわけないだろ!」
俺は驚いて何も言い返せなかった。元の世界にすら、ここまでハッキリ言ってくる奴はいなかった。
それなのに一晩共にしただけの和馬がこんな風に言ってくれるなんて。
「リルドのいた世界のことは分からないけど、きっと何か理由があってこっちの世界に来たんじゃないかな?だから、そんな投げやりな方法じゃなくてちゃんと元の世界に戻れる方法を考えようよ。僕も協力するし、見つかるまではあの部屋に住んでくれていいから。」
初めて嬉しいと思った。
「ありがとう、和馬。」
不思議と自然に言葉が出た。
「改めてよろしく、リルド。とりあえずご飯でも食べて帰ろう。」
「肉がいいな。」
「じゃあ焼肉にしよう。お金は僕が出すから。」
「俺だって金はある。」
「使えないでしょ、それ?」
「……っち。」
「え、今舌打ちしなかった!?」
「気のせいだ。早くしろ、置いていくぞ。」
「いや、場所知らないでしょ?っておーい、リルドさーん、待ってーー」
―こうして、二人の共同生活が始まった―