第二十話「ザック。」
リルドは、三度目の魔王城へと到達した。
「イベントもなく到着してしまったな……。」
少し不安げなリルド。
「あとは、この魔王城の中しかないね……。」
「とにかく入ってみるか。」
魔王城の扉を抜けると城内の画面に切り替わった。
「特に変わりはなさそうだが……。」
広間を歩き回りながら、見渡していく。
「ちょっとストップ!そこの角、何か変じゃない?」
違和感を感じた和馬が、広間の角を指さす。
「言われてみれば、ここだけ色が違うな?」
「調べてみて!」
ーーリルドは、色の変わった床を調べた。
ーーなんと、階段が出現した。
「隠し階段か!」
「絶対この下だね!」
階段を降りると、中央に宝箱のある小さな部屋だった。
「開けるぞ?」
「うん!」
ーーリルドは、宝箱を開けた。しかし、中身は空だった。
「む?」「え?」
キョトンする二人。
すると、黒い画面が表示された。
ーースライムに名前を付けますか?
「来た!」
「来たね!」
リルドは操作を続ける。
ーーはい。
ーーでは、名前を入力してください。
「もちろん、”ザック”だ。」
入力を終えると、画面が切り替わりスライムが点滅しだした。
次第に点滅が早くなり、パシッと消え一瞬光った。
光が消えると、そこには黒髪の青年が立っていた。
その瞬間、和馬は気を失った。
《……》
「村長!リルドに一体何があったの?」
慌てた様子で、村長の元に駆け寄る。
「ザックか。その様子じゃと、やはり覚えておらんかったか……。」
村長は杖を握りしめ、続けた。
「お主が居なくなってから、しばらく引きこもってのぉ。
突然出てきたと思ったら、既に今の状態だったんじゃ……。
恐らく、あまりのショックで記憶に蓋をしてしまったんじゃろう……。」
静かに目を閉じた。
「じゃろう……って、村長はこのままでいいと思ってるの?」
どこかやりきれない怒りがこみ上げる。
「……実はの、一つ考えがあるのじゃ。」
「考え?」
「うむ。そろそろリルドは旅に出る頃じゃろ?
そこで、一芝居売ってやろうかと思っとるんじゃ。」
村長は、不敵な笑みを浮かべる。
「芝居って……?」
いつの間にか、怒りは不安へと変わっていた。
「そうじゃ、お主も協力してくれぬか?」
(全然話が見えてこないけど……)
「リルドの為なら、もちろん協力する……けど、一体どうしたら?」
静かに頷き、トンっと杖を地面に突く。
「お主たちが初めて倒した敵を覚えておるか?」
「覚えてる……、スライムでしょ?」
「そうじゃ。リルドにとっては、お主が居なくなる直前の記憶じゃ。
そこで、お主をスライムに変化させリルドの最初の敵として現れるのじゃ。」
「それで、リルドの記憶が戻ると?」
「上手くいけばじゃな。ダメならそのまま一人で先に進むじゃろう。
その時は、わしが魔王に扮しリルドを異世界に送り込む算段じゃ。」
ザックは目を丸くする。
「い、異世界ってどうして!?」
「全くの別世界なら、一人でどうにかできることは少ないじゃろ?
誰かを頼り、仲間を信頼することを覚えれば、おのずと記憶も戻るはずじゃ。」
驚きのあまり反応に困っているザックをよそに、さらに続ける。
「じゃが流石にそう上手くいくとは思っとらん。
そこで、お主にも異世界に行ってもらうつもりじゃ。」
「え、僕も!?」
「うむ。ただし、自然に振舞えるよう記憶は封印し、異世界人としての記憶を与える。
戻ってこれる装置も用意するでの、まぁそう心配するでない。」
(いや、不安しかないけど……。)
「と、とにかくリルドの為に頑張るよ。」
未だに状況が掴めないが、決意を固めた。
「その意気じゃ、ザックよ。リルドを頼んじゃぞ。」
《……》
「おい、和馬!しっかりしろ!」
(和馬……?あぁ、今は”和馬”だっけ。)
目を開けると、目の前にでかでかとリルドの顔があった。
「うわ!びっくりしたな、もう。」
「びっくりしたのは俺の方だ!急に倒れるから心配しただろ!」
(……あぁ、スライムがザックに戻った瞬間に倒れたんだっけ。
でも、全部思い出した。)
「ごめんごめん!でも、大丈夫だよ。」
(今はまだ、リルドには黙っておこう。)
「本当か?」
「うん。平気!それより、ザックの封印が解けたね!」
誤魔化す様に、画面を指さす。
「あぁ、そうなんだ!これで、魔王を倒せるな!」
「三度目の正直だね!”一緒に”倒そう!」
(村長の言ってた戻る装置が、"RPG"だったとは……。
てことは、この魔王も……?)




