第十九話「和馬とザック。」
「そろそろ崖のイベントシーンだね。」
「あぁ。三度目はどうなるんだ?」
画面が切り替わり、イベントシーンが流れた。
ーーリルドは、足を滑らせた。
……が、スライムがとっさに足を掴んだ。
軽く額を打ったが、落ちずに済んだ。
「ん?二週目と同じだな。」
予想と違い、不満げなリルド。
「まだザックの封印が解けてないからかな……。」
(封印を解くイベントはもっと先ってこと……?……あ!)
「そういえばリルド、記憶戻ったんだよね?」
「そうだが、どうした?」
「今のイベントシーンも実際にあったんじゃない?」
画面に映る崖を指さした。
おぉ!と小さく漏らしたリルド。
「確かにあったな!ザックと初めてスライムを倒したとき、
浮かれて落ちそうになったのを助けてもらったんだ!」
「やっぱり……。でも、ゲームの中で助けてくれたのはスライム……」
「そうか!ザックは、封印されてスライムになってるのか!」
「ちょ!僕が言いたかったのに!」
軽く頬を膨らませる。
「はっはっは!良いじゃないか!」
一つ謎が解けて上機嫌のリルド。
「全く……。」
少し呆れた様子で見守る。
(やっぱりあれはザックの記憶だったんだ。でもなんで僕に……?)
「しかし、和馬はよく見ているな!」
「え?」
「記憶は戻ったが、言われるまで思い出さなかったぞ。」
「ん~、客観的に見てるからかな?リルドは、実際に操作して集中してるしね。」
「冷静なところも、ザックみたいだな。」
「そんなに似てるの?また冗談言って……」
ふとリルドを見ると、さっきまでの浮かれた様子はなく真剣な表情だった。
「ど、どうしたの?」
「いや、魔王が俺をこの世界に飛ばした理由があるんだとしたら
和馬と出会ったのも偶然ではなかったんじゃないかと思ってな。
現に、和馬のお陰で記憶が戻った。その和馬が、ザックと瓜二つ。偶然だと思うか?」
「そ、それは……」
(確かに、リルドと会ったのは偶然だと思ったけど……
僕の知ってるRPGの世界とそっくりな世界から来たリルド。
流れで助けることになったと思ってたけど……。
突然聞こえた声とザックの記憶……。
ザックと瓜二つ……?
じゃあ、僕は……”和馬”っていったい何なんだ?)
今までの出来事が頭の中を駆け巡り、混乱する。
「大丈夫だ、和馬。この”ゲーム”をクリアすればきっと分かるさ。」
”大丈夫”この言葉が、なぜか自然と溶け込み頭の中の混乱をかき消してくれた。
(……今は考えてもしょうがないよね。まずはリルドを元の世界に……。)
「うん!イベントも終わったし、もう少しで魔王城だね。」
「そうだな。どうせなら、スライムの名前をザックにできればいいのにな!」
「?!」
何気ない一言に、ハッとする和馬。
「名前か!普通のRPGなら、仲間にしたときに名前を付けられるのに、
付けられないからおかしいと思ってたんだ。」
「む?そうなのか?」」
「封印を解くカギは、名前かもしれないね!」
「しかし、未だに名前は付けられないぞ?」
リルドは画面内を操作するも、名前を付けられそうになかった。
「多分、この先に名前に関するイベントがあるんじゃないかな?」
「そういうことか!ならば、先を急ぐとするか!」
画面内のリルドが、再び動き出した。




