第十一話「リルド、バイト始めました。」
「いらっしゃいませ~!」
「らっしゃい。(ボソッ)」
「リルド、声小さい!あと、八百屋じゃないんだから“いらっしゃいませ”ね!」
(八百屋ってなんだ?)
「それと、どうしてまた鎧着てるの?」
以前着ていた鎧とは別の鎧に見える。腰には、立派な剣を下げていた。
「勇者なら着るべきだ、と店長に。変か?」
(あぁ、お店の宣伝になるからかな。)
「初めて会った時も着てたし、特に変じゃないよ。」
「やはりそうか!」
そんなやり取りをしつつ、接客を教えていると
「あのー、このゲームソフトを売りたいんですけど……。」
いつの間にか、カウンターの前に人が立っていた。
「なんだきさー」
「あ、すいません。こちらですね?(リルドは、黙って見てて!)」
差し出されたゲームソフトを手に取ると
”Road to Peace Guide"というタイトルだった。
(見たことあるパッケージな気が……)
「割と面白くて続けてたんですけど、中々クリアできなくて……って店員さん?」
《……》
「……ザックよ……ドを…………ぞ……」
《……》
「和馬!どうした、ぼーっとして!?」
一瞬意識が飛んでいたのか、リルドの声で我に返った。
「え!?そんな、リルドじゃないんだから!えーっと、500円になりますがよろしいですか?」
「え、あ、はい、大丈夫です。」
「では、こちらの用紙にお名前とご住所をお書きください。」
(一瞬年寄りみたいな声が聞こえたような……?)
「リルド、さっき何か言った?」
「それは、和馬がぼーっとしてたからだ。」
「いや、その前……」
「あの~、書きましたけど?」
「あっ。ありがとうございます。では、500円になります。またのお越しを!」
頭を下げつつ、リルドにも同じようにさせた。
「勇者の俺が、なぜ頭を下げなければならないんだ!」
「お仕事です!リルドも、武器とか買ったとき頭下げられたでしょ?」
「あれは俺が勇者だったからでは?」
(それだと、買い物した人みんな勇者だよ、リルドさん。)
「とりあえず、後で動作確認とかするからこのゲームソフト奥に置いといて。」
「な、なぜー」
「これもお仕事です!」
何か言いたげな目をしつつ、しぶしぶカウンター裏の部屋に消えていった。
(和馬はあれか、鬼の魔物の生まれ変わりか?)
(そもそも、奥とはどこだ?わからんし、この辺で……いや、)
(無くなっても怒られそうだし、ここに入れとこう。)
部屋の角にある机の引き出しの中にしまった。
(しかし、さっきの和馬は一体どうしたんだろうか?)
(腹でも減ってたのか?)
「リルド~?何ぶつぶつ言ってるの?」
「な!?何も言っていない!次は、どうしたらいいんだ?」
「そろそろ閉店だから、外の看板しまって帰ろうか。」
「やっと終わりか!」
先ほどとは違い、駆け足で表の方へ向かった。
(やっぱり気になるから、もう一度見てみるか。)
…………
…………
…………
(あれ?リルドのやつ、どこに置いたんだ?)
「帰るぞ和馬!」
(っ!)「ちゃんとしまった?」
「無論だ!」
ドンと胸を張る。
「じゃあ、帰ろう……って、鎧着たままじゃん!」
「なぬ!?」
慌ててロッカーの方へ駆けて行った。
少し呆れつつも笑いながら、走っていくリルドを目で追った。
(そういえば、ザックってどこかで……?)
***
(どこかで聞いたような気がするんだけど……)
(……そもそも本当に聞こえたのかな?)
明かりの消えた天井の模様を目でなぞりつつ、バイト中のことを思い出していた。
すると、急に押し入れの方から声がした。
「和馬、あの時何があったんだ?」
「えっ?いや、それが急に……」
(変に話して、リルドに気を使わせても悪いか。)
「急に?」
「急にお腹すいちゃって笑」
「やはりか!だらしないな!」
「リルドには言われたくないです!」
「なっ?!」
「明日も早いし、もう寝るよ!」
「……ZZZ。」
(って寝てるし!というか、隣の部屋で寝てると思ってた……。)
***




