62話 人が消える森
ミリリにレンタルされて、彼女の長らくの敵・ゾリアルを討つ。
そう決まったはいいが、ただ斬れば済むような話でもなさそうだった。
ミリリとの話し合いののち、俺たちはソフィアにも彼女を狙う敵の話を打ち明けた。
もう、三人まとめてレンタル冒険者なのだ。誰かが困っていたら、お互い助け合うべきだろう。
ソフィアも即答で頷いてくれて、仲間も増えた。
そうして準備を整え、いざ敵の屋城へと向かったのだが…………
「…………人が消える森?」
「そうなの! ゾリアルたちが拠点にしているのは、その奥って言われてるの。だから、全容不明なんだ。
あっ、ヨシュアもソフィアちゃんも、疑ってるでしょ!? むぅ、ほんとのほんとなの!」
そう言われてもなぁ……。
と、俺は幼馴染であるソフィアと無言で視線を交わし合う。
この状況でミリリが変な冗談を言わないのはわかるが、にわかに信じがたくもあった。
ただの噂におびれがついたと考える方が、筋は通る。
「うーん。まぁあくまで噂話だろうけど、とりあえず警戒だけはしておこうか」
不吉な噂を持つ森に、どんどんと近づいていく。
たしかに不気味な雰囲気だった。
ギルドの発行するマップによれば、魔物が住み着く場所ではないはずだが、いつ出てきてもおかしくない雰囲気だ。
やがて、足元の小道すら蛇行し、大粒の石が増えはじめる。
「こ、こ、怖いねぇ。雰囲気あるよ、やっぱり。人が消えてそうな雰囲気!」
「どんな雰囲気だよ、それ。そんなもの感知できるミリリが怖いよ」
しがみつくミリリに揺すられながら、俺はひたすら足元を見て歩く。
「だってぇ〜! きっと亡霊が醸してる空気だよ、ここで首を吊ったりして消えた人の亡霊が私たちを眺めて笑ってるんだよ! 『また道連れができる〜』とか言って」
うーん、妄想エスカレートがすぎるというものだ。
ひとりでに恐怖を膨れ上がらせていく典型的なタイプらしい。
「ソフィアもなんとか言ってやってーー」
黙って隣を歩いていた幼馴染に話を振る。
振ったつもりが、空振りだった。
「ソフィア……?」
「えっ、ソフィアちゃんどこに行ったの!!」
忽然とその姿は消えている。
周りを見ても、どこにも見当たらない。
「ど、ど、ど、どうしよう!! 私の問題なのに、ソフィアちゃんが!!?」
手をワナワナ振るわせ、脂汗をデコに浮かべて、ミリリは元来た道をすぐに戻ろうとする。
俺は袖を引いて彼女を止め、同時に広範探知魔法を使った。
しかし、ソフィアの居場所がひっかからない。
こんなことは初めてだ。
動揺したくもなるが、こんな時こそ落ち着かねばならない。
はたして、違和感は見つかった。
分かりにくいよう工作こそされているが、妙な魔力が壁のように、小道の至る所に仕掛けられている。
「よ、ヨシュアっ!! どうするの」
「もうすぐまた会えるよ。分かったんだ、人の消えたカラクリが」
俺は、剣を抜いて、その魔力の壁を横から薄く切り落とす。
と、そこに続いていたのは、森ではなかった。まるで中庭のようだった。奥には屋敷らしい建物も見える。
どうやら、この森は視覚魔法により、その範囲を広く見せていたらしい。
妙な魔法である。こんな魔法は、聞いたことがない。
怪しさ満点だが、仲間を取られているのだ。
「い、いくの?」
俺は決意のうえ、ミリリの手を引き、中へと入る。
「かかったな、馬鹿野郎め!! 全員でかかれ!! 必ず、あのレンタル冒険者二人の首を取るのだ!!」
その時のことだった。
大量の槍が俺の心臓を狙って、円状に差し込まれる。
ついで、火属性魔法によるものか、爆発と煙まで巻き起こった。
「ふん、俺様の視覚魔法を見破ったことは、褒めてやろう。だが、これで終わりだな。
情に流されて死ぬ。レンタル冒険者らしい最後じゃないか。なぁ、人質弓女?」
「よ、ヨシュア……! ミリリ!」
主犯格らしき男の高笑いする声が、庭に響き渡る。
ソフィアの悲鳴がこだます。
だが、次の瞬間だ。
「『回転・焔斬り』!!」
バタバタと倒れて行ったのは、俺たちを刺しに来た敵兵の方だった。
俺は倒れた彼らの身体を乗り越え、剣を納める。
横ではミリリも余裕の着地を見せていた。
「き、貴様ら、いまなにを!」
「避けて、斬った。それだけだよ」
「そんなはずがない! 簡単に言うが、お前らは槍に囲まれていたはずだっ。もう少しで殺せるはずだったのにーーーー」
「うるさい、そろそろ黙ろうか。それからソフィアを離せ。さもなくば……」
俺は再び剣に手をやり、その根本だけを見せる。
ぎらつく刃の光に、
「ひ、ひぃっ!? 分かった、分かったから!!!!」
男はなにか仕掛けるまでもなく、腰を抜かすのだった。
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たかた




