57話 間一髪?
お仲間というのが誰のことを指すのか。
そこまでは、その男も知らないらしかった。
もしかしたら土壇場で口をついた、虚言かもしれない。
そうは思うのだが、胸に走った嫌な予感が、俺をかき立てた。
すぐに『広範探知(高)』を使うと、仲間たちの居場所を把握する。
一つ一つ、候補を潰していくような時間はない。
誰の元へ向かうべきか選択しなければ、全てが中途半端に終わって、最悪の結果になる。
そして俺が向かったのはーーーー
♢
まさか、こんなところに監禁されようとは、思いもしなかった。
私は口に巻かれた縄を噛みちぎろうとするが、失敗する。両手首を結んだ紐も、簡単には千切れてくれない。
どうやら、【強固】の魔法がかけられているらしかった。スキルの一つで、物体を壊れにくくする。
数分前までは、観客席で試験の模擬試合を見ていたはずだ。
大好きなヨシュアが敵をころっと倒すのを見て、ミリリちゃんと一緒に歓声を上げ、そこまでだった。
彼女が少し席を外した際に、警備員の服装をした男に呼び止められ、連れて行かれる。
そうと思えば、身体を拘束されてしまった。足も縛りつけられて、立つこともできない。
(……うちを捕まえて、どうするつもりなの)
私は身をよじり、唯一自由のきく目で、監視員を睨みつける。
「ソフィアだっけ、あんた。そう怖い目をしないでよ。女のそういう目が一番嫌いなのよっ」
女だった。
腕が立つのは、先ほど戦闘を交えたので知っている。
抵抗にならなかった。悔しいほどに打ち負かされて、弓をずたずたにされた。
「最悪あんたは殺してもいい、って聞いてんだよ、あたいは。質問に答えなよ、じゃないと本当に殺すよー」
私はただ、視線をきっとすがめて答える。
足手まといはもういやだった。
これ以上、ヨシュアにとっての枷になりたくなかった。
自分がヨシュアやミリリと比べて、弱いことは知っている。でも、心まで負けているわけじゃない。
「ミリリって冒険者が、手を貸した冒険者の名前を教えるだけでいいんだって。早く教えてくれよ」
女は、ばさばさの髪を振り乱して、あぁもう! と悪態をつく。
「あたいだって、馬鹿な話だと思うよ。昔の腐れ縁にこだわって、こんなしょうもない復讐するなんて、うちの大将らしくもない。
汚いことやって、とんとん拍子に成り上がったのくせに、なにに囚われてんだって思うさ」
女は、床に唾を吐き捨てる。そのあとすぐ、短剣をこちらへ向けてきた。
「でも、命令は絶対だから。答えないなら、あんたとはここでお別れさね。ばいばーい」
手首が返される。
短剣が首に向かって弧を描くので、私はギュッと目を瞑る。
怖くないわけがないし、死んだらダメだとも分かっていた。
でも、それでも、それで好きな人たちを守れないのは嫌!
だからこれで終わりになっても、それはそれでしょうがない。
ぎりぎりのところでそう納得しようとしていたのだが、痛みがなかなかやってこなくて、目を開ける。
「お、お前は!! なんで、あたいの前にいるんだい?」
首元で刃が止まっていた。押し返していたのは、小さな魔力の塊だった。
女が、立ち上がって後ろを振り返る。
その隙に、私は自由になっていた。半ば混乱して、呆然と私は上を見上げる。
「もう大丈夫だぞ、ソフィア」
そこには、ヨシュアが立っていた。
彼はそっと私に微笑みかけてくれる。じわりじわり目元が熱くなってきて、泣きそうになるがそこで堪えた。
今は、戦わないと。
ヨシュアに守られてばかりにはなりたくないのだ。
自由になった足を使って、えいと女の足を蹴り上げる。
よろめいた結果、女は地面に這いつくばった。
「く、くそっ。あんた、いつの間に!?」
「さて、どういうわけだか教えてもらおうか」
ヨシュアが、女に刀を向ける。
「こ、こ、答えるものかっ!!」
「知ってたか? レンタル冒険者は、殺しも請け負ったたりするんだよ、裏稼業で」
嘘もいいところの大ハッタリがかまされる。
しかし、それを信じたらしい女は、白目を剥き泡を拭いてしまった。
…………逆に、話を聞けなくなってしまった。
「ヨシュア、脅しにしたってやりすぎ」
「…………だったみたいだな。えっと、怪我は?」
「ない。ありがとう、本当にありがとうね、ヨシュア」
私は我慢ならず、彼に抱きつく。
「間に合ってよかったよ。…………というかソフィアさ」
「なに?」
「匂い嗅いでただろ、今」
バレてしまったらしょうがない。いっそ振り切って、肩に思いっきり顔をうずめた。
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