53話 依頼完了です!
本当に辛々。どうにかもぎ取ったというべき、団体試験突破の権利であった。
互いの労をねぎらいつつ、俺たちは、ライトシティへと帰ってくる。
昼食ののち、午後からの個人戦へ向けて、エントリーを済ませれば、
「本当に助かったよ〜、なんてお礼したらいいか分からないくらい」
ここで手を取り合うターンは終わり。
あとは、一人一人の実力を問われる試験となる。
つまり、依頼の終わりだ。
名残惜しさもあって、ぎりぎりまで三人誰も言い出さなかったが、それでも別れはやってきてしまう。
モニカさんは、深々とお辞儀をした。
「二人がいなかったら、絶対クリアできなかった。本当、全面的に感謝してる!」
その頭が上がるのを待って、俺もミリリも首を横へ振る。
「モニカさんがいたから突破できたんですよ」「そーですよ! 私なんて、サポートしただけですっ」
実際、誰か一人欠けていれば突破はなかっただろう。物理的な話だけではない。
三人の間に信頼関係ができていたから、合格に手が届いた。
たぶん、心を合わせて特訓した時間がなければ、こううまくはいかなかった。
「ううん。ソフィアさんもいれて、三人のおかげ。みんなと一緒じゃなかったら、絶対にダメだったと思う」
だが、頑としてモニカさんは主張する。
「みんなとだったから『仲間だ』って心から思えたんだ〜。こんな短期間なのに不思議な話だけど。
私、もう仲間とか作らないつもりだったから、余計に驚いてる」
「えっ、なんで……?」
ミリリが、目を何度かしばたく。
モニカさんは、やや目尻を下げて遠い目になった。
「昔はちゃんと私もパーティー組んでたんだ〜。
メンバーみんな目的は違っても、それなりにまとまってた。パーティーのためになにができるか、ってみんなが役割を果たしてた。
うん、思い返しても悪くはなかったとおもう」
でも、と話がひっくり返される。
「ある時クエストに失敗してね。魔物に襲われたことがあったんだけど、もー大分裂。完全壊滅だよ。
みんなバラバラに逃げ出して、何人かは大怪我もした。命の危機だったから、仕方なかったのかもしれないけど……。なんだ結局自分が可愛いんじゃん、って冷めちゃってね。
こんなことになるなら、もうパーティーなんて組まなくてもいいや、って思って、そこからは一人で活動してきたんだ〜」
口調は軽いが、語られた内容はかなり重かった。
あの卑劣な集団に襲われた時、モニカさんが一人で先頭に立ったのは、つまりそういう理由だったのだろう。
たぶん、その過去を繰り返したくなかったにちがいない。
仲間を守らなければ。そんな強迫概念が、彼女を駆り立てたのだ。
「おかしいよねー。パーティー組まないでも昇格できるように、ってレンタル依頼したのにさ。
今、私、真逆のことを考えてる。もう一回。ちゃんと仲間が欲しくなってる。パーティー組みたい、って思う」
「どこもおかしくなんてないよっ!!」
「……えっ、ミリリさん?」
モニカさんの身体が、ミリリの腕の中へと引き込まれる。
「仲間がほしい、って当たり前のことだよ! 私、レンタルでもモニカさんと組めて、すっごーく楽しかった。だから、きっとモニカさんならいい仲間が見つかるよっ」
ずっとパーティーを組んでこなかったのは、ミリリも同じだ。
だからこそ、モニカさんの気持ちが彼女にはよく分かったのかもしれない。
ミリリにはどんな理由があったのだろう。
そう疑問に思いつつ、二人を眺める。
モニカさんが、ミリリの肩口で頬を緩めていた。ぱちん、片目が閉じられる。
「ヨシュアさんも混ざる?♡」
魅惑たっぷりの誘いを受けたが、どうにか固辞した。
飛び込む勇気があろうはずもない、うん。だいたい、ここは試験会場。
……試験前に、また無駄な嫉妬を買うこともあるやもしれないし。
と、ちょうど鐘が鳴る。
個人戦参加者の集合時間が来たらしい。
二人の抱擁が解かれる。モニカさんが、くるりこちらを振り向いた。
「ねぇヨシュアさん。個人戦、頑張ろうね? もし当たったら、手加減無用だから!」
「うん、もちろん。でも、当たらないことを祈ってます」
「たしかに〜。たぶん当たらないだろうけど。
個人戦だけの参加者もいるって考えたら、早々ないよねぇ」
個人戦は、ランダムな相手三人と戦って、その内容次第で合否を決められる。
モニカさんとマッチする可能性は、限りなく低い。
「これで当たったら、もはや数奇な運命ってやつかも。巡り合わせ、ううん、奇跡ってやつかも。だからねぇ、もし当たったら、さぁ」
「…………なんです?」
「私とパーティー組んでよ! 二人で旅に出よう!」
なーっ! とミリリが蒸気を吹くように声を上げる。
どういう意図だろう。
戸惑っていたら、くすくすと笑い声が漏れる。
「冗談、冗談。欲張ったら、ミリリさんに怒られちゃうし。たぶん、ソフィアさんに呪われる〜。釘でワラの人形トントンされそうだし」
「そーですよっ、ミリリおこですよっ。レンタル冒険者になってくれるってなら歓迎しますけどぉ。引き抜きはダメ!」
「奪わないってば〜。もー、可愛いなぁ」
またしても二人がじゃれ合う。
別れ際、俺はモニカさんと握手を交わした。
思いがけず、その手を後ろへ引かれる。
すっぽり収まったのは、胸の中だ。首元を右手で優しく押さえられる。
ミリリよりは控えめな大きさで、ローズさんと比べても弾力はやや落ちる。
けれど、肌から漂うフローラルな香りがーーーー
いや、なに胸の批評してるんだ、俺。
今日は刺激の強い出来事が多すぎて、おかしくなってるみたい。
「ここ、どう? 永住してもいいよ、ヨシュアさんなら♡」
「し、し、しませんから!!!」
結局、周りの目線はまたしても恐ろしいものへ変貌していた。
もう怨恨沙汰は勘弁してほしいのだけど。
「二人とも、ありがとう。私に、私の人生に希望をくれて!」
まぁ、モニカさんの晴れ晴れした笑顔は、なにものにも変えがたいので、とりあえずはよしとする。




