52話 二次試験、最後の関門ですが……?
引き続きよろしくお願いします〜
悩んでしまい、遅くなりました。頑張ります。
その後、俺たちは森の西端まで、ひと息に駆け抜けた。
深闇の森は、上級ダンジョンである。
試験に関わらず、危険度の高い魔物が飛び出しては襲いかかってきたが、三人で協力して凌ぐ。
「ヨシュア、モニカさん! 地図が指してるのは、ここっぽいよ!」
魔石のある地点にたどり着いたところで、胸裏に入れていた時計を確認すれば残り五分弱。
舌打ちせざるを得なかった。
かなり時間を食わされたな、というのが感想だ。
あの卑劣な襲撃が、ボディーブローのように効いてきている。
「やっぱりただじゃ通してくれないよねぇ」
モニカさんが、唇を少し舐めて言う。
ここが試験通過の証となる、魔石の仕掛けられている場所で間違いない。
けれど、どこを見渡してもそれらしき物は見当たらなかった。
あるのは見上げるしかないほど高い崖と、それに沿うように据え置かれた、正三角形の大岩だ。
とても自然に発生したとは思えない。試験のために、設置されたものだろう。
「この奥にあるみたいだなぁ。意地の悪い試験だよ、全く」
とりあえず、だ。やいのと指を咥えて考察していられる時間はない。
「風の龍よ、俺の剣に宿れ! 疾風竜!」
地面すれすれの位置から、捲り上げるようにして、揺すってみる。
ミリリが補助魔法をかけてくれても、びくともしなかった。
「なんでだろ。周りの木々は綺麗に抉れてるのに」
彼女は、むむ〜むむ〜と声を漏らすとともに、俺を振り向く。モニカさんも、こちらを伺っていた。
一方、俺はといえば大岩をよく観察する。思わぬ発見に、唇がひきつった。
よくもまぁ面倒な仕掛けを考えるものだ。
「このままいくら強度の高い魔法を使ったって意味がなさそうだよ」
「どういうこと、ヨシュアさん?」
モニカさんの問いに答える代わり、俺は岩肌を指差す。
うっすらではあるが真ん中へ向けて、長さの異なる矢印が書かれてあった。
その数は、三本だ。
「三方向から、ちょうどの割合で魔力を伝えないといけないんだろうな」
「……たしかに、これはクリアするためには協力必須って感じかもー。
練習の時、石を粉砕したみたいに直接、力を加えるって感じ?」
「そうだと思う。とりあえず時間もないから、やってみようか」
矢印は、正三角形の角から中心へ向かって伸びていた。
頂点にあたる部分は、崖の上に登らねば触れられならない。
そこを担うこととなったミリリを、俺は魔法で跳び上がって運ぶ。
俺は、もっとも高い魔力が必要になる右角に陣取った。
三人の用意が整う。合図でタイミングを合わせたら、大岩へ魔力を伝えていく。
かなり厄介な課題だ。
仲間の魔力を把握しつつ、その割合を調整するなど、そうそうできることではない。
「ミリリ、もう少し力を抑えてくれるか? モニカさんは、そのままでいい」
……スキル・目利き(高)がなければの話だが。
俺は岩の振動から、二人の魔力を感知して、コントロールし微調整をお願いする。
そんなうちに刻一刻とタイムアップまでの時間が迫っていき、残り一分に差し掛かったところだった。
大岩に、ヒビが入る。
「やった、割れるよヨシュアさん!」
魔力の細かい調整に疲弊していたのだろう、モニカさんが明るげに言う。
その、すぐあとだった。
「きゃっ、崩れる!?」
大岩が、目論見どおり粉々に砕け散る。その勢いが、脆くなっていたらしい崖に響いたようだった。
「ミリリ!」「み、ミリリさんっ! いやぁっ!!」
視界が、粉塵に包まれていく。
俺はすぐその中へと飛び込んだ。
爆風の中、ふと舞い上がる光を見つける。
パープル色の六角形。合格証がわりの魔石だ。大岩のすぐ裏に隠してあったらしい。
あれがこのままどこかへ紛れてしまえば、間違いなく時間切れになる。
「モニカさん、魔石の方をお願いしますっ!」
「えっと……!? でも、ミリリさんは」
「それなら、絶対おとしたりしませんから! 俺を信じてください」
「…………う、うん!!」
視界はなくとも、探知魔法があれば、落下地点に入るのは容易だった。
ミリリが背中から降ってくる。それを、両腕を広げしっかりと受け止めてやった。腕への衝撃は、風魔法を利用し緩和した。
ミリリは、すこぶる余裕の笑顔である。
まるで、自分で進んで落ちにいったかのよう。
「なんで、そんなに楽しそうなんだよ?」
「えへへ。ヨシュアなら、絶対受け止めてくれると思ってね。信頼の証のダイビングだ〜!」
そのまま、俺の首の後ろへ手を伸ばし抱きついてくるミリリ。
なんというか、照れるったらない。
俺は無理くり、モニカさんの方へ首を振った。
視界が徐々にクリアになっていく。
もう、制限時間は間近だ。これでモニカさんがしくじって落としていれば、ここで脱落となる。
けれど、俺には確信があった。彼女ならば、きっと大丈夫だ。
仮初のパーティーとはいえ、一緒に特訓してきた仲である。
「ヨシュアさん、ミリリさん! 魔石捕まえました!」
ほら、予想どおり。
特訓の副次的な産物として生まれ、クレイジードラゴンを倒す際に使用した魔法『光の牢』が、魔石をしっかり囲っていた。




