51話 卑劣な奇襲から大ピンチですが……?
俺は剣を抜き放つ。
一斉に、掃討してやるつもりだった。
こうまで潔い妨害行為とこれば、こちらとてそれ相応の対応が許されるべきだろう。
試験の主旨がどうの、とは言っていられない。ここは今、試験の場から実戦の場へ切り替わったのだ。
だが、
「二人とも、下がって! ここは私が!!」
よもや、モニカさんが俺とミリリを庇うように前へと出ていく。
斜めから、ちらりと見えた表情は、こわばりきっていった。
(………まずい!)
だが俺が口を開く前に、もう技を発動してしまう。
「光よ、縦横無尽に駆け回れ。光鞭の乱!」
彼女の得意技で、試験前の特訓でも何度も鍛えてきた技の一つだ。
精度は申し分ないし、対多数戦向けの全体攻撃でもある。
だが、全く隙がないわけではなかった。そして、それを逃してくれるほど実力不足の相手でもない。
「もらったぜ!!」
敵の剣が、ムチをなぐ。そこへ、コンビネーション技だ。
複数人の弓士が狙い撃ちの斉射が襲いくる。
複数方向から、俺たちそれぞれへ向けられた矢を、俺は剣でいっぺんに振り落とした。
だが今度は、近接武器を持った冒険者らが一斉に雪崩れ込んでくる。
「……おいおい」
唇を強く噛むほかなかった。三人、てんでばらばらに散らされてしまったのだ。
「けっけ、分断してやったら、こっちのもんだ!! ムチの女が、向こう見ずな攻撃をしてくれて助かったわ!」
男が耳に障る声で、叫び上げる。
的を得てはいた。
モニカさんの攻撃は、普段の彼女を考えれば不自然なほど、独りよがりなものだった。
だが今、その理由を考えている暇はない。
まずは今ここである。
ミリリ、モニカさんとは、真ん中に敵を挟み、ちょうど三角の位置関係にあった。
一気に切り込むことは容易いが、技の発動が被れば、彼女たちに傷を負わせる可能性も出てくる。
迂闊な攻撃は避けなければならない。
一気に遠くまで下がって、距離を取るか? ミリリたちはどう動くだろう。
レンタル冒険者になって、もう数ヶ月。とくにミリリとは、その間、毎日のように顔を合わせている。
信頼関係だって、確固たるものを築いてきているはずだ。
ミリリならーーーー。
敵の攻撃に応じつつ、こう頭をひねったその時であった。
俺の身体から、白いモヤのようなものが立ち上った。それは、二股に分かれて、ミリリとモニカさんの元へ。
「な、なんだ?」
敵の動揺する声の中でも、それははっきり聞こえた。
『ヨシュア!?』『ヨシュアさん!? 話せる!?』
仲間二人の声であった。ただしそれは、明らかに普通のものとは違う。
俺の内側に直接響いてきていた。
……どうやら、新スキルを習得したらしい。
会話なく、意思疎通ができるようになっているではないか。
『なんだか分からないけど、とりあえず! ヨシュア! 私、離れて魔導でサポートするから、どーんとやっちゃって! たとえば、あの特訓してた魔法とかで! 射程なら分かってるしさ♪』
『なら私は技を免れた人たちを、ムチで打つ!』
簡易的な作戦会議が終わる。
五からのカウントダウンを刻んだのち、
「砕けぬ意志よ。凍てつき、形となれ。蒼の結界!」
俺は剣先を斜めに下げてから、半円を描き、横へ強く斬る。
特訓により、新たに手に入れた氷魔法。それによって作り出したのは、
「びくともしねぇぞ!」「くそ、出られないだと!?」「なんだ、地面まで根を張ってやがる!?」
アーチ状に作った、氷の結界であった。
アイシングドラゴンの羽のように、その外側は、鋭い凹凸で覆われている。
「ありがとう、タイラーさん! あとは、私が!」
遠巻きにいたらしい残党は、モニカさんが退治してくれる。
無事、ピンチを凌ぎ切っていた。
俺は結界の中で右往左往する襲撃者どもの面を、ちらりと確認する。
「……こんな奴いたか?」
一次通過者のメンツを全員覚えているわけでもないが、不審感を覚えなくもなかった。
とくに、あの目出し帽の男。
技を食らったせいだろう、素顔が晒されているが、目に大きな傷を負っていた。
あんなのを見ていれば、頭に残っていそうなものだ。
確信までは持てずにいたら、二人が駆け寄ってくる。
モニカさんは、
「ごめん、私のせいで」
と両手を合わせ、申し訳なさげにしていたが、俺は首を横に振る。
「仕方ありませんよ。次、きちんと連係できれば」
ただの無謀ではない。俺には、確信ができていた。
きっと、彼女なりに思うところがあったのだろう。それがなにかをわざわざ聞くほど、野暮でもない。
「というか! ヨシュア、さっきのなに!? びっくりしたんだけど!」
「……私も。心で会話できた、っていうか。なんていうんだろーなー」
やはり、まずそこを突っ込まれた。
当事者の俺も分かっていないので、ステータスを確認する。
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冒険者 ヨシュア・エンリケ
レベル 390
使用可能魔法属性
火、水、風、土、雷、光、氷
特殊スキル
俊敏(高)、持久(高)、打撃(高)、魔力保有(大)、広範探知(高)、目利き(高)、隠密(中)、治癒・解毒(高)、【New!!】心話(中)
ギフト
【無限変化】
あらゆる武器や魔法への適性を有する。
一定以上の条件が揃うと、スキルを習得可能。
武器別習熟度
短剣 SS
長剣 S
大剣 B
弓 B
ランス C
魔法杖 B
鞭 B
……etc
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こうまでピンチの連続なのはレンタル冒険者になってからであるため、今気付いた。
どうやら過酷な状況に置かれるほど、スキルは習得しやすいらしい。




