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48話 試験当日! 美人伯爵さんに呼び出されて?






昇格試験の当日になった。


半年に一度の、大きなイベントである。

それはなにも受験者だけに限った話ではなく、ギルド、ひいては街全体にとっても同じことだった。


普段はない露店がギルド近辺の道を埋め尽くし、空には、王家の紋を施した旗が悠然と掲げられる。


いわばお祭り感覚だ。

市中を歩くだけで、その熱気や浮き足立った感覚が伝わってきた。


そもそも、人の数が全然違う。


「き、緊張するなぁ。私、そういうタチじゃないのに」


モニカさんは落ち着かないらしく、たたらを踏む。


「ヨシュアさんは緊張しないの?」

「そのつもりだったんですけど……。さすがにちょっと震えてきたかも」


それは緊張というべきか、武者震いと呼ぶべきか定かでない。


「せっかくだし楽しもうよ〜!」


ミリリだけが、余裕の表情だった。屋台で買った肉巻き握りを頬張る。

もちろん、チーズトッピングつきだ。


既にAランク冒険者のミリリは、サポーターとして午前に行われる団体部門のみに参加する。

だからこその余裕…………というわけではなさそうだ。


たぶん彼女の辞書に、緊張なんて言葉は元々載っていない。


「モニカさん! 大丈夫だよっ、今日まで、たくさん頑張ってきたんだし! 私が保証しますっ」

「……なぁ。その分でいくと、俺は?」

「ヨシュアは絶対受かるから、保証なんていらないよっ。なんならトップ通過間違いなし!」


ピースサインが、こちらへ向けられる。

……またまた、越えるべき壁があげられてしまった。


今回はやる気に繋がるから、歓迎すべきなのだろうが。


ソフィアはすでに、午後開催予定の、個人戦用観客席に陣取っていた。

俺たち三人は、受付会場へと足を向ける。


人だかりができていた。

全員が受験者というわけではないらしく、野次馬多め。


冒険者衣装を着ていないのだから、一目瞭然だ。


そんな人壁が、どいてくれるか、とのクールな一声で半分に割れた。


「ヨシュア。待っていたよ」


その奥に、一際可憐な女性が、長い脚を大胆に組んで待ち受けていた。


ローズさんだった。

ここライトシティを治める伯爵家・シュタイン家の女性当主である。


『彗星の一団』にいた時から、俺を贔屓にしてくれている。

俺やソフィアにとっての恩人だ。


「ローズさん。どうして、こんなところに?」

「あぁ昇格試験は街にとっても一大イベントだからね。近隣の街からもたくさんの冒険者や観客が訪れる。いわば、視察だよ。

 ………………まぁ、なんて言うのは、建前だ。

 君がAランク試験を受けると聞いて、いても立ってもいられなくなったんだ」


すぅっと透き通った肌が、少し朱色に染まる。

かつかつこちらへ歩いてきたかと思うと、俺の腕を掴んだ。


「ちょっと、ヨシュアを借りていくが、いいかな?」


ミリリと、モニカさんに、綻びのない完璧な笑みを向ける。


拒まれるなどとは、微塵も思っていない目だ。

そして実際、二人は快諾する。


「……俺をどこに連れていく気ですか」

「ちょっと大事な話があるんだ。いいから、頼むよ」


ローズさんは、混雑を切り裂いて、ギルドの奥へと俺を連れていく。


「なんだよ、あいつ。参加者か?」「やべぇ、伯爵様に腕引かれてるぞ。くそっ、羨ましすぎる……! パーティーメンバーも可愛い子ばっかりだし」「ゆ、許さん……!!」


試験前から、あらぬ形で注目を浴びてしまった。

謎の嫉妬も買ってしまったらしい。


ギルド受付のそば、個室に連れられて、鍵をかけられる。


「……ローズさん? ほんと、どうしたんです」

「ちょっと忠告したいことがあってね。

 今回の試験なんだが…………。国の傭兵スカウトが、大挙して訪れているんだ」

「はぁ、それがなにか?」

「君は妙なところだけ鈍いな。昔の君を知っている人間も一定数いるってことさ。

 才能を隠さず発揮し、我が国の神童と謳われたころの君をね」


…………なんということだろう。

目立ちたくなくとも、注目を浴びてしまうじゃないか!


これは、力加減を気をつける必要があるかもしれない。


「一応、伝えておきたくてな。それだけだ。試験前に引き止めて、悪かった」

「……わざわざそのために? あんな人が集まるところに出てきてくれたんですか」

「ま、まぁヨシュアのためなら、私は大概のことはできるぞ……?」


少し顔を逸らし、噛み噛みなローズさん。

これは、撫でて欲しがっている。そう思って手を伸ばすのだが、


「いや、今回はいい。そうじゃなくて、その、こ、こうだ!」


むしろ、ローズさんがこちらへ腕を伸ばしてきた。


腕が背中に回り、少し。気づけば、むにょんという感覚に包まれる。


男っぽい口調とは正反対。

女性らしさをしっかり主張する胸の中に、頭がかき抱かれていた。


「が、頑張ってくるんだぞ。応援しているから!」


やべぇ、この人、これで伯爵? 


仕事ができるうえ、格好よくも可愛くもあるとか、無敵か?




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