46話 冒険者ランク昇格試験に俺も参加?
引き続きよろしくお願いします〜
数日後。
俺たちは、モニカさんの特訓に付き合うこととなっていた。
「お願い、私に稽古つけてよっ。ね、どーか、このとーり!」
本当に土下座しそうな勢いで、こう頼まれては断れない。
本気なのが、態度に見て取れた。
格好いい人だとばかり思っていたが、なりふり構わないタイプらしかった。
若干、不満そうにしていたのはソフィアだ。
「ヨシュアくんは、うちの先生って話じゃないの」
目の奥にどんより影が落ちていた。整った綺麗な顔立ちだけに、なかなかな凄みがあった。
けれど、
「じゃあソフィアちゃんも一緒に特訓だっ! っていうのは、どうかな?」
「……そ、それなら、やってもいい」
「えへへ、よかった! ヨシュア、これで一石二鳥だねっ」
ミリリの押しに、あっさり陥落していた。
距離感というものを知らない彼女は、もうソフィアの懐にも忍び込んだらしい。
「じゃあ、まずは基礎的なところから、やるけどいいか?」
場所を、街から離れにある草原へと移す。
特訓と聞いて、ミリリが広大な場所を探してきたのだ。
見渡す限り、一つの障害物もない。
「今から、この石を粉々に割って欲しいんだ。質の高い魔力を練って伝えられれば、細かくなるから」
ただ、俺が選んだ最初の特訓メニューは、手元だけでできるものだった。
なんなら、部屋でもできるお手軽さだ。
「粉々、っていうとこんなみたいな感じかな?」
ミリリは早速、小石を手のひらに乗せ、目を瞑る。
ぐっと握ると、少しののち、指の隙間からカケラが漏れ落ちる。
「うーん、ちょっと荒いかな?」
「まぁ、たしかに。でも、さすがだよ、ミリリ」
「えへへ、褒められちゃったぜ! でも、ヨシュアならきっと、もっと凄いんだろうなぁ」
天然爆弾少女、ミリリのことである。悪気がないのは、よく分かるが……。
自動的に俺の超えるハードル上がってるからね?
俺は変な緊張感を覚えつつも、石を握り込む。
……ちゃんと、砂になってくれた。
細かくなった証拠に、風に乗せられさらわれていく。
「……すごい、ヨシュアくん。うち、半分に割るのがやっと」
「だめだ〜、うまくいかないな〜。私もヒビは入れられるけど」
ソフィアもモニカさんも、苦戦しているようだった。
「魔力をどう練るか、だよ。指先の端まで意識を尖らせれば、だんだん変わってくると思う」
魔力自体の精度や強さが、もっとも現れる訓練である。
通常なら、詠唱や動作によって、属性魔法に変えるところを、あえてそのまま使うためだ。
純粋にエネルギー力の差だけが現れる。
そこに、属性の有利不利は関係ない。
ちなみに、スキルだけは普通の魔法とは少し変わっている。属性という概念から外れた、いわば特殊能力だ。
「あ、ほんとだぁ。少しよくなったかも……」
モニカさんが、俺の方へ、ぱっと手を開いてみせる。
たしかに、さっきより粒が小さくなっていた。
抜群の飲み込みだ。
さすがはAランク試験に挑戦しようというだけのことはある。
「でも、こんな簡単に上手くなっていいものなの? 特訓なのに」
「結果的に強くなれれば、過程は楽な方がいいんですよ。
無駄に苦しいことして、それで満足しても仕方ないし」
うむ。巷にあふれている根性論なんて、クソ食らえである。
むやみやたらな繰り返しほど、無用なことはない。
見た目に地味な特訓が続く。
それをただ腕組みして見ているほど、慢心はしていなかった。
俺は俺で、Aランク試験のサポートメンバーとして鍛錬をする必要がある。
今回はミリリを含めた三人組で臨む。
どちらかといえばサポートが得意な二人の魔法特性を考慮して選んだのは、
「ヨシュア。刀気に入ったの?」
「まぁそれもあるかな。一応、近接戦向きだし。なにより新調したしな」
ちらり、腰に目をやる。
刻印の入った青の刀が、陽の光を照り返す。
蒼の太刀、という。
アイシングドラゴンの『不燃の氷』を元に、刀打ちに業物を打ってもらっていた。
せっかく、だだ広い空間があるのだ。
「風の龍よ、俺の剣に宿れ! 疾風竜!」
三人から距離をとり、軽く技を試してみる。
威力のほどは、そこそこだった。
冷気を帯びた風により、俺の周囲の草地が、綺麗にえぐれる。
ミリリが地面と俺を交互に見つつ、駆け寄ってきた。
「前よりさらに進化してるよっ、これ!」
「……まだこれからだって」
「ねぇ、ヨシュアもAランク試験受けてみたら? 個人の部も! 絶対通るよ! 私でも受かったんだし!」
俺に訴えかけた彼女は、全体的にキラキラ感溢れている。
「いや、でも、俺。目立ちたくないんだけど……。ってか、Cの次は普通Bランクだろ」
「ヨシュアのクエスト実績なら、簡単に飛び級させてもらえるよ。
あと、もう十分目立ってるし! というか、この実力でCランクの方が、逆に不自然だよっ」
びしり指をさされれば、そんな気がしてくる。
「私も団体戦は、仮のパーティー組んで出たんだー」
「どうしてそこまでしたんだ?」
「レンタル冒険者に箔をつけるためっ! ランクが高い方が、依頼がわっさわさでしょ?」
なるほど、たしかに。
案件は増えるだろうし、下世話なことを言えば、料金だって上げやすい。
……受けてみるのも、いいかもしれない。
そう、俺は傾かされていた。