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38話 魔物にひれ伏され、ヒールをした神獣に忠誠を誓われます!


引き続きよろしくお願いします!


時の運が、たかたの敵すぎる…………。1200ポイントくらい出させていただいたのに、情けない……!


でも、めげない、しょげない。



ミリリを抱え、俺は森を駆け抜ける。


途中、邪魔となる枝や葉は、ミリリがオリジナルの魔道で払ってくれて、道無き道に、一本筋ができていく。


「えっへへ、私連れてきてよかった?」

「そーだな。いい日曜大工さんだ」

「なっ、日曜大工じゃないやーいっ!!」


冗談である。正直、とても助かった。


やはりこの瘴気に吸い寄せられたのか、森の中には相当数の魔物がいたのだ。


それだけじゃない。


「ヨシュア! 右の木陰! 闇鳥・サックバードだよっ」


まるで大木に隠れるようにして、恐ろしく強い魔物も出現していた。

人間だろうが魔物だろうが構わず襲いかかり、魔力や瘴気を吸い尽くすと言われる。


めったに現れないため、危険度分類表外に位置づけられる魔物だ。


「……それも、ただもんじゃあなさそうだな」


森全体から放たれる異質な気に当てられたのかもしれない。

明らかに変異している。


「見えにくいな。擬態の能力を身につけたみたいだな」

「これは厄介だよ……。強いだけじゃなくて、見えにくいなんて」


たしかに、面倒な相手だ。

だが、まともに戦ってやるほど、今は暇でもない。


俺が大技を繰り出そうとしていたら、


「…………ヨシュア、サックバードったら、なんか身縮めてるんだけど?」


……本当だ。

頭をこちらに差し出してさえいる。


いわゆる、服従の証というやつだね、これ。


「上下関係に忠実な魔物なのかもしれないね。きっとヨシュアに恐れをなしたんだ」


……えぇ。まさか魔物に頭を下げられる日がこようとは。


さしもの俺も、思いもしなかった。


魔物とは、人の外の存在。

その生まれる摂理さえ、詳しくはわかっていない生き物である。


「……とりあえず、勝ったってことで?」

「そーだよっ! 戦わずして勝ったんだよっ。よっ、名冒険者!」

「雑におだてるのはやめろよ」


とにかく、通してくれるというなら、ありがたくそうさせてもらう。


一時期であれ、魔物も食らうサックバードがこちらについてくれたのは大きかった。

駆逐してくれたのだろう。俺たちの近くに、その後魔物は寄り付かなかった。


そして、


「…………なに、この子」

「今日は珍しいものとばっかり遭遇するなぁ」

「うん、ほんと。初めて見たよ。身体光ってるみたい。魔物じゃなさそうだね」

「でも、普通の獣なんで代物じゃあ、到底ないしなぁ……。」


邂逅。


何者なのか、はっきりとは知らない。

ただ、禍々しいものではない。


なぜなら、『広範探知』で探ったとおり。

この獣の周りだけは、このくすんだ森の中で、ひときわ澄みきっている。


「……神獣」


俺の身長の二倍はあろうかと言う体に、年月を感じさせる長い毛並み。


見ていたら、そう口をついていた。


「それ、ルリママさんが言ってた迷信じゃなかったの?」

「かなり珍しい存在だったから、もう何年も現れてなかったのかもな」


傷だらけになって息も絶え絶えながら、それが命を保っている。


頼りなくはあったが、その目はうっすらながら開いている。

まだ望みはありそうだ。


俺は、その渇き始めた傷口に手を当てやる。

明らかな異物を除去してから、


「スキル発動・治癒(高)」


ヒール魔法をかけていった。


習得したのもついこの間なら、人以外の存在に行うなど当然初めてのことだ。

うまくいくのかやや不安だったけれど、


「私の力も使わせてよ。一緒に、ね?」


ミリリが手を重ねてくれると、不思議なことにどうにかなる気がした。


実際、傷口が塞がっていく。それとともに、獣の身体が放つ煌めきが一層目に眩しくなっていった。

獣の身体自体から、それは発されていたらしい。


否、それだけではなかった。


「森全部が、光ってる…………?」


どういう摂理かは知らない。


けれど、獣にヒールをかけているはずが、俺たちを囲む木々、土、水。


そういったあらゆる自然が、浄化されていく。


根拠もないのに、「これで問題が片付く」とはっきり思った。


ずれていたものが、元どおりに整っていく感覚だ。


俺は身体を刺していた瘴気がすっかり消えるのを確認してから、ヒールを終える。


立派な二本の角が生え戻った獣は、むくり起き上がった。


『……またしても人間であるか。崖に追い込むのも人間なら、手をのべてくれるのも人間。面白い。そして、心から感謝をする』


目が点になる。

空耳というには、あまりに発音がしっかりしていた。


低い地なりのような、けれど頭に直接響くような不思議な響きだった。


ミリリは俺の顔をちらりと、確かめるように見る。


それから恐る恐るといったように、獣へ問いかけた。


「……しゃべれるの?」

『当然。人と交流するには必要なことである。仮にも、当方は神獣・白老狼であるがゆえ』

「本当に神獣だったんだ!」

『いかにも。神々につかわれ、この森を司っている』


その言葉に嘘がなさそうなのは、現象が物語っていた。

気になるのは、


「で、どうしてこんなことになっちまったんだ? 水が汚れるわ、魔物が荒れるわ、結構大変なことになってたんだけど……」

『……そうか。すまない。森に悪しきものの侵入があって対処をしにかかったのだが、いかんせん当方の力が落ちていたのだ』


白老狼と森とは繋がっている。


森が荒れたり汚されれば、白老狼もまた力を失うらしい。

最近この地を治める男爵家により、乱雑な伐採がなされたことが大きな要因だったと言う。


「白老狼を襲った人間ってのは、どんなだったか覚えてるか?」

『たしか少し長めの金色の髪に、長い剣を持っていた。当方を見るなり、斬りつけてきた』


………間違いなく、奴だ。


「……ヨシュア。もしかして」

「あぁ、たぶんそうだな。サンタナがすぐそこまできてるみたいだから」


俺はため息をつくほかない。また最後の最後に、奴に振り回された。


妙なエクストラクエストだが、捕らえにいくほかない。


『そなた、もう行くのか?』

「あぁ、ちょっと野暮用ができたんでな」

『そうか。この森を、そして当方を癒してくれたこと、改めて感謝する。代わりと言ってはなんだがーー』


はて、なんだろう。

そう思っていたら、白老狼は、俺に手を出すよう促す。


言われるままに差し出せば、乗せられたのは木で作られた笛だ。


『これは、当方を呼び出すことのできる、いわば呼び笛だ。どこにいても、当方にはその音が聞こえる。

 困ったときは、当方をそなたの従属獣として、扱うがよい。呼び出されれば、いつでも駆けつけよう』

「いいのか、こんなもの。俺に渡して。その人間にこっぴどくやられたんだろ?」

『よい。そなたたちは信頼に足りうる。……当方に、人間も捨てたものではないと思わせてくれたのだから。

 最後だ。名前を教えてくれ』

「ヨシュア・エンリケ、だけど」

『うむ。主の名前、はっきりと覚えた』


魔獣をひれ伏させ、神獣に忠誠を誓われる。


そんなことが短時間に起きる、奇妙な体験だった。

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