34話 大事な人を守るため、ヒールスキルが進化しちゃうようです。
引き続きお付き合いください!
それから四日ほど。
俺たちは治癒に追われることとなった。
近隣までも、「凄腕のヒーラーレンタル冒険者がいるらしい」なんて噂が流布していたのだ。
治療すること自体は構わなかったのだが、中々どうして原因調査に充てる時間がとれずにいた。
そんな、昼食時のことだ。
「ルリママさんの料理ってほんとなんでも美味しいから、嫌いなものでも食べられちゃうかも!」
なにも変わらぬ、いつもどおりの風景だった。
俺の隣、ミリリが大皿にフォークを伸ばし、真っ先にそれを咥えた時。
「…………これはー……。あれ、なんか、視界がふわって」
フォークが力なく落ちて、皿をかちゃんと鳴らす。
だらんと、首が背もたれへ垂れた。
「おい、ミリリ? ミリリ!」
「えっ、私の料理が何かあったの……?」
「今はいいですから!」
なにが起こったのか、考えるより先に体は動いていた。
俺は、慌てて、名前を呼びかける。
しかし返事はない。息はあるようだったが、正常なものとはいえず、荒い。
「ど、ど、どうしよう、まじ、なんで!? ヒールを……! って、あぁ魔力練り直さないと」
ルリが慌ててこちらへ回る。
二人がかりで床へ寝かせてから、ヒールをかけはじめた。
ルリママも、ソフィアも、ポーションやらの用意に駆け回ってくれる。
俺もヒールに加勢するのだが、手を尽くせど、一向に目を覚ます気配はない。
思いっきり唇を噛み締めるしかなかった。鉄っぽい苦みが舌に広がる。
「…………隣にいる、って約束したばっかりだろ」
ミリリの開かぬまぶたを、俺はしかめ面で見つめる。
まだ、出会って短い。
これで終わりなんて、ありえない。どうにか、彼女を救わなければ。
俺をこうして導いてくれた彼女を助けられなくて、なにがレンタル冒険者だ。
不特定多数の他の誰かより、今は彼女を救いたい。
そう強く願い、魔力を振り絞る。
ーーその時だった。
俺の手を包んでいた光が、ふと光沢を帯びた緑色へと変わる。
「……ヨシュっち、それ! ヒールの上位スキル…………!」
それが、ミリリの身体を包むでなく、胸上に止まり、火のように灯った。
やがて薄れて、吸い込まれていく。
「…………あれ、私、なにを」
ミリリが、片目を薄く開いた。
それを確認して、一気に身体全部から力が抜けた。
ギフト【無限変化】が、俺の願いに応えてくれたようだ。
ミリリが、上半身を起き上がらせる。
「ヨシュア? 私、たしか、ご飯食べてたはずじゃ…………」
「ミリリ、一口目で倒れたの。それをヨシュアとルリが助けた」
ソフィアがそばに屈んで、説明してくれる。
「そうだ、私……」
口に手を当てて、ミリリは目を見開いていた。
「二人とも、ありがとうっ!!」
うるうる瞳を揺らし、俺とルリにがばっと抱きつく。
ほどくのが難しいほど、ちゃんと力が入っていた。
俺は、ステータスをチェックする。
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冒険者 ヨシュア・エンリケ
レベル 375
使用可能魔法属性
火、水、風、土、雷、光
特殊スキル
俊敏(高)、持久(高)、打撃(高)、魔力保有(大)、広範探知(高)、目利き(高)、隠密(中)、
【ランクアップ!!】治癒・解毒(高)
ギフト
【無限変化】
あらゆる武器や魔法への適性を有する。
一定以上の条件が揃うと、スキルを習得可能。
武器別習熟度
短剣 SS
長剣 A
大剣 B
弓 B
ランス C
魔法杖 B
……etc
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『治癒(中)』が進化した、スキル・解毒。
その文字列に、思考回路が一気に走りはじめた。
「ルリママさん、この料理……。昨日までとなにか変わった点は?」
「今、それを考えてたんだけど。お野菜もチーズも同じものを使ってたの」
ルリママは料理に目を落とし、少し目をしかめる。
「使ってる水を変えたぐらいかしら。今日新しく井戸から汲んできたから」
間違いなく、それだ。
思い起こされるは、はじめにヒールを行った老婦人の言葉。
俺が魔法で生成した水を、「久しぶりに美味しかった」と評していた。
裏を返せば、普段の水は、味が劣化していたことになる。
「水が、今回の疫病騒ぎの根源ってことか……」
「ねぇヨシュっち。でもさ、料理でちょっと使ったくらいで、すぐバタリっておかしくない?
ほら、お年寄りの人でもちゃんと歩いて、ルリの家まで来てたのに」
「たぶん、水がさらに劣化してるんだ。今日新しく汲んだ水が、よくなかったんだよ」
……それって、とソフィアは胸の前で手を握り込む。
「一刻も早く、水を使うのをやめてもらわなきゃな。
それから、調査すべきは、すぐ上の山だな」
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