20話 伯爵家の美人当主は、俺の前ではデレまくりのようです。そして、サンタナの野郎の卑劣な嘘が判明?
引き続きよろしくお願いします。
伯爵家。
そう言えば響きは優雅だが、いわば国に代わって、都市を管理する中間統治者だ。
都市の内政はもちろん、他の都市との交流まで。
その内情は、結構忙しいらしい。
そのせい、ローズ・シュタインさんとのアポイントが取れたのは、翌々日になってからだった。
手入れが行き届いた豪奢な館の、広い執務室に通される。
山のように積み上がった書類やらの奥から、彼女は現れた。
「あぁ、来てくれたんだね。待たせてすまないね、ヨシュア」
まず、握手を求められたので、手を差し出す。
その後、ソファ席に着いた。
(……これが二十六歳で、領主の仕事をこなす人の顔かよ)
対面して、改めて驚く。
短く揃えた黒髪からなにから、どこまでも格好いいのだ。
タイトなズボンが似合うったらないし、仕草の一つ一つが洗練されている。
もちろん、女性的たおやかさも持ち合わせていた。
その胸はジャケットの奥で大きく膨れているし、化粧っ気がないのに、その肌は艶めく。
「君のような優秀すぎる人材が、1パーティーに留まるなんて国の連中が知ったら嘆くだろうけど……。
いつも依頼に応えてくれること、感謝しているよ」
「…………あの、実は」
ローズさんは、俺のことを評価してくれているのみならず、『平均』に対する拘りも知ってくれている数少ない存在だ。
そんな人に、隠しごとをするのは不義理だ。
俺は用件より前に、追放されたという事実や、今はレンタル冒険者をしていることまで、事の経緯を伝える。
「……なんと、そんなことが。すまない、言葉が出ない」
「いえ、ローズさんが気にすることじゃありませんから」
「そうか。君がいるから、『彗星の一団』に依頼をしていたが、やめてしまったのなら話は別だ。
今度からは君に直接頼んでもいいかな?」
えぇ、と俺は頷く。
その言いようから、おおかた察することができてしまった。
「ちなみに、今って『彗星の一団』に依頼ってかけてます?」
「いや? 今は特に依頼もしていない。欲しい魔草やらは、全部ヨシュアたちがとってきてくれたばかりだし」
やっぱり、そうだ。
ローズさんは、嘘をつくような人ではないし、今そのメリットがあるとも思えない。
つまり、今回のクエストは、そもそも存在しないものだったということになる。
『彗星の一団』が崩壊へと向かっていることは、サンタナも気づいいたはずだ。
もはや、ただ結束を呼び掛けても、元に戻りそうもない。
限界まで悪化した現状を打破するリーサルウェポンとして、ローズさんの名前を使った。
恩人である彼女の名前を出しておけば、少なくとも引き止められるだろうから。
はじめから、サンタナはメンバーを脱退させる気なんてなかったのだ。
…………と、すればだ。
俺は、嫌な予感に駆られその場で『広範探知(高)』を発動する。
よく知った人物の場所くらいなら、すぐに分かるはずなのだが、捕捉できない。
ソフィアも、ルリも、いなかった。
きっとローズさんからもらったクエストだと偽って、遠征にでも出たのだろう。
唯一ミリリだけは、街角のパン屋にいた。たぶんチーズ目当てだ。
うん、無理にでも連れて行こう。
「ありがとうございます、ローズさん。すいません、急いで行かないといけないところができたので、これで失礼します!」
「そうか。短い時間だが、いい息抜きになったよ。
…………その、私も協力したのだ。頭くらい撫でてくれてもいいんだ、けど」
ローズさんが、身体をもじもじと揺する。
彼女は、意外と甘えたがりだ。
これまでも、会うたびに、こっそりこんなふうに頭を差し出してきた。
ぽんぽん、と軽く叩いて、
「ありがとうございます。お仕事、ほどほどにしてくださいね」
俺は執務室を出んとする。
「……やる気が出たよ。ふふっ」
こんな声が、背後から聞こえた。普段の冴えた声ではなく、クリームほどに蕩けそうなそれだ。
うん、俺も魔力回復したかも。
次回、追放したサイドの話となります。