19話 幼馴染ちゃんとついに再会! やっぱり俺はパーティーリーダーの独断で追放されたようです。
引き続きよろしくお願いします!
帰り道も俺たちは、陰から『彗星の一団』のサポートに徹した。
「どうだ、見たか! 僕にも、まだまだ力があるわけさっ」
偉そうに高笑う、サンタナ。
しかしそれに、女子二人は反応すら示さなかった。
勝ち戦(出来レースだけれど)の帰り道だ。
少しは会話も弾みそうなものだが、そんな次元ではなく、パーティーの空気は悪いらしい。
一方の俺たちは、
「……ね。手、もうちょっと握ってていい?」
「あー……まぁ帰り道も見つかったらまずいもんな」
「う、うん。そんなとこ!(本当はちょっと違うけど……)」
仲良く手を結び、彼らの後ろを追った。
そのまま、はじめに集合をした空き地まで帰ってくる。
「えっと、次のクエストはいつかって聞いてる?」
「う、ううん。まだ。
クエストが一つ終わったら、ソフィアちゃんがお話しにきてくれるって言ってたけど、い、いつかなぁ」
ミリリの顔は、しばらく真っ赤に熟れたままだった。
……あくまで『隠密(中)』の効果を得るために手を繋いでいたのだ、うん。
任務のため、仕事のため。
そう自分に言い聞かせるが、手のひらに残った微熱を、虚しくも意識せざるをえなかった。
「ね、ヨシュア。そこのベンチでもう少しお話していかない?」
「……いいけど」
「えへへ、嬉しいかも」
なんとなく生温かい空気が流れるなか、焦ったい時間を少し過ごす。
ある意味で膠着した空気に、
「…………ヨシュア」
割って入る声があった。
鼓膜を打つような凛としたその響きは、忘れるべくもない。
魔法学校の同級生にして、幼馴染。
元パーティーメンバーの一人で、今は依頼人。
ソフィア・シュルツが、そこに立っていた。
そのブルーの瞳が、うるうると揺れる。
「お、おい、どうした?」
俺はつい、立ち上がる。
色々な思いが一斉に込み上げていたが、俺はまずこう声をかけた。
それと同時、崩れかかるように、彼女は俺の胸へともたれかかった。
「……すごく、会いたかった」
俺の腕の中、唇が小さく動く。
それだけで、ソフィアは泣き出してしまった。
それが止むのを待ってから、話を聞けば、やはり予想の通りだった。
「……うちもルリも、なにも知らなかったの。ヨシュアが勝手に出て行った、って急に言われた」
「あいつ……。リーダーだから、嫌な役割を買って出たんだ、とか言ってたけど……。
俺を追い出すために謀った、ってわけか」
「うん。たぶん。昔からサンタナは勝手だから、それくらいやりかねない」
呆れた野郎だ。俺がついつい吐き出した息が、ミリリのそれと重なる。
彼女もすっかりご立腹だった。跳ねるように、起立する。
「そんな奴のパーティー、とっとと抜けちゃおうっ! 私たちも協力するから!」
「……ミリリさん、ありがとう」
「お礼を言われるようなことじゃないよっ。これが任務だしね♪
……あ、そうだ。なんでわざわざ私経由で依頼したのか、ヨシュアにちゃんと伝えておいた方がいいんじゃないかな?」
ミリリの投げかけに、ソフィアは一瞬、腰の下で拳を握る。
(……もしかして、ミリリは俺とソフィアを会わせる為に、ここに残らせたのか?)
そんなことに考え巡らせていると、ソフィアは意を決したようにこちらを見上げた。
頬にはまだ泣き跡が残り、パープルの髪が張り付いていた。
「……うちは、ヨシュアくんがすごい強いことを知ってるじゃない? 昔から何度も何度も、助けてもらったもの。
でも、なんにも知らないサンタナは、あなたを平凡だって決めつけてた」
「それが、どうかしたのか?」
「うちが弱いから、実力を合わせてくれてたのに。
そのせいで平凡だなんて言われて、追放されたんだって思ったら申し訳なくて。怒ってないかな、って怖くて。
それで、今の今まで直接会いに行けなかったんだ」
せっかく打ち止めかと思ったのに、長く伸びた睫毛には、また水滴がにじむ。
「……今回ここに来れたのはね。クエスト中、ヨシュアくんが助けてくれたんだ、ってよく分かったから」
「分かるもんなんだな」
「うん。今日のクエスト中、ずっと感じてた。幸せだったな」
ソフィアらしい、端的な言葉だった。
俺は、うっかりもらい泣きしそうになって息を吸い、空を見上げる。
『彗星の一団』で過ごした時間は、全て無駄になったと思っていた。
苦楽を共にした思い出は全てモノクロに塗り替えられ、俺の元に残されたのは、『平均』を繕っただけの虚しい記憶。
それが今になって、俺の中で色を取り戻していくようだった。
「……ソフィア。絶対、次のクエスト、成功させてやる」
「…………うん。うちも、頑張る」
「私も俄然やる気になってきたよっ! とっとと脱出、脱出!」
ミリリも含め、三人の士気が上がっていた。
そのまま、再びベンチについて、次のクエストに関する打ち合わせを開始する。
「にしても、またドラゴン討伐か……」
今度は、アイシングドラゴン。寒冷な場所を好み、移動を繰り返すため、出現場所が特定されていない、氷属性の一角龍だ。
「いつもなら、植物採取系の方が多いのに。どうしたんだろうな、ローズさん」
「たしかに。……珍しいといえば、珍しいかもしれない」
ローズさんは、ただ伯爵家の当主というだけでない。
研究熱心で、魔草などからのポーション作りなども手掛けている。
そのため、自然と採取クエストの依頼が多くなる。
一つならまだしも、二つ以上とこれば、そうない話だ。
…………まさか、が俺の中によぎった。