17話 自分の実力だと勘違いしすぎな元パーティーリーダー。ミリリちゃんも怒ってます。
引き続きよろしくお願いします。
依頼の連絡については、一切合切をミリリが行ってくれた。
それはソフィアの思惑なのか、ミリリの気遣いなのか知らない。
ともかく、ソフィアらと会うことなくして、俺は依頼の初日を迎えた。
町外れ、人気のない空き地での集合だった。
「……ヨシュア、本当にいいの? 私だけで受けてもいいんだよ?」
「そこまで心配してくれなくても大丈夫だっての」
決して嘘でも見栄っ張りでもない。
「今はほら。新しい信頼できるパートナーもいるしな」
「そ、それって…………。私のこと!?」
「なに、違ったか?」
「ううん、大当たり、大正解だよっ! 私、パートナー! えっへへ、うれしすぎるかも。
もちろん、私にとっても君は信頼置けまくりのパートナーさんだっ。
ね、もう一回言って? 脳に永久保存するからっ! 枕元で思い返すからー!」
一貫して、声が高かった。
ミリリは、赤らむほっぺを強く押さえて、にまにまする。
「……そんな調子で、影から人助けなんてできるのか?」
単純に、先行きが不安になった。
というのも、今回のレンタルはパーティーに加わって手助けをするわけじゃない。
姿を隠して、『彗星の一団』のクエスト遂行をサポートするのだ。それにより、依頼を終わらせて、脱退できる流れへと持っていく。
話し合いの結果、決めたことであった。
ミリリはともかく、パーティーリーダーのサンタナが俺を受け入れるわけもないし妥当な作戦だろう。
そのために、わざわざ待ち合わせ場所まで変えた。
今回のクエスト地である『深闇の森』へ行くには、必ずこの近くを通りがかるためだ。
「で、できるよーだ。余裕綽綽! りんごはシャキシャキ!」
下手くそなダジャレとともに、これまた調子外れな口笛を吹くミリリ。
「そんなことはいいから、もう一回! もう一回だけ言って! お願いっ!」
透き通った赤色の髪を左右に乱して、俺の襟を揺する。
「み、ミリリは俺の信頼できるパートナーだよ」
「む、感情が薄いよぉ! 噛んだしっ。もう一回っ! 私への思いの丈をたーくさん込めてっ」
厳しくない? 演技指導じゃん、もはや。
クエストに出てもいないのに、面倒くさなってきたんだが?
「ヨシュアってば〜!」
「あははっ、面白いな、ミリリは」
可愛いから許してしまうのだけど。
♢
『彗星の一団』一行が現れたのは、少ししてからだった。
気づかれぬよう、抜き足忍び足だ。
俺たちは距離を取って、後ろからついていく。
基本的に、魔物たちが出現する場所は、人が生活を営む街とは少し離れたところに点在する。
ダンジョンが先にあり、その後に街を形成したためだ。
必然的に、それなりの距離もあるわけだが、その間、『彗星の一団』に会話はほとんどなかった。
「……なんか、私たちまで変に気まずくなるよぉ」
ミリリがひしっと俺の腕にしがみつく。
それくらい、パーティーメンバーたちからは不協和音が奏でられていた。
たまに話をしても、最低限のやり取りのみ、全く話は弾んでいかない。
パーティーというより、敵同士かのよう。
はじめ彼らを見たときは、どんな気持ちになるだろうかと思ったが、今は見ているのもいたたまれなかった。
そんな有様のまま、いよいよ『深闇の森』ダンジョンへと入っていく。
上級レベルであることや、冒険者減少の煽りもあってか、人はまばらだった。
俺たちは、より息を潜める。
「グォォォン!!!」
パーティーはさっそく、フォレストウルフに出くわした。
森の木々に擬態するように生えた緑の毛に、鋭利な爪や牙が冒険者を襲う、危険な魔物だ。
Bランクの危険度に位置付けられている。
「くそっ、動きが見えないな。姿さえ捉えられれば、一撃で仕留められるだろうに」
「どーだか。ルリ、今のサンタナには無理だとおもうんだけど?」
「……言ったな。今にやって見せようじゃないか」
やはり、穏やかではない空気に包まれていた。
躍起になったサンタナはソードを抜き、やみくもに草むらへと斬りかかる。
「くっ……。外したか! グァァッ!!?」
無論、当たるわけもない。
空振りをしては、ウルフに後ろから襲われる。
ヒーラーのルリはもちろん、後衛のソフィアも、身動きを取れていなかった。
もし矢の狙いが少しでも逸れたら、サンタナを貫いてしまうためだろう。
「どーするのっ、ヨシュア。あのクラスの魔物にやられてるんだと、先が思いやられるんだけど……」
「ほんとにな。ま、やるしかないだろ」
そもそも俺は、元パーティーメンバーたちを影からサポートすることには慣れている。
ーーできるだけ不自然でなく。
あたかも、サンタナが倒したかのように。そう仕向けるのだ。
影から倒すにはどうするか。
さまざまなことを考慮した末、今日使うことにした武器は、仕掛け魔法杖。
「なにそれ、見たことないよ? 私の魔法杖とも違うみたいだし……」
「まぁまぁ。なぁ、ミリリ。これの先端に、魔導で強化魔法かけてくれないか」
「う、うん! 分かったけど」
ミリリの力を借りるまでもない魔物だろうが、確実に一撃で仕留めるためには、必要なことだった。
「魔導よ、理を越えよ。魔導強化っ」
口元での詠唱がなされる。
それにより、俺の仕掛け魔法杖が、淡く光る。
それが透明になるまで、魔力を研ぎしました。
「黙して刺せ、魔の透過針……!」
そして、杖を一振り。
さすれば、あとは勝手にエイム機能が働いてくれる。
ミリリの魔導により強化された『魔の透過針』がフォレストウルフの肩口をつく。
動きが鈍くなる急所を、的確に奥まで突いたのだ。
それまで、俊敏に動き、サンタナを食らわんとしていた魔物が、弱々しくよろける。
そこをサンタナが仕留めた。
当たり前である。その時点ですでに、瀕死だったのだから。
「どうやら僕の攻撃が効いていたみたいだな。ははっ」
己の手柄だとばかり、高笑いして威張り散らす。
「違うよ、ヨシュアのおかげなのに〜。ずっと、あんな感じなの、あの人? めっちゃいけすかない〜」
「……まぁな。今回はいいんだよ、あれで」
「分かってるけど、分かってるけど……。でも。なんかむかつくんだもん」
ミリリが分かってくれていたら、俺は十分だ。
サンタナは、他人が自分より目立つことを極端に嫌う。
もし他の誰かがより大きな手柄をあげようものなら、あからさまに機嫌が悪くなるのだ。
だから、俺は何度もこうして背後から助けてきた。
ただ、サンタナはそれに気付こうとしない。
「やっぱり一時だけの不調だったのさ。これが僕の実力だ!」
「うそ、ヨシュっちがいた時みたい……」
「ルリ、君はあの無能を買いかぶりすぎなのさ」
ちゃんと正直に、俺がサポートしていたことは伝えたんだがなぁ。
彼の視界には、パーティーメンバーはおろか、自分しか写っていないらしい。
にしても、あの分じゃあ、サンタナはメンバーの了解なしに俺を追放したようだ。
「根っから腐ってるよ、あいつ〜!!」
その身勝手さには、ミリリも怒り心頭らしかった。
これで見つかったら元も子もない。
抑えるよう促していると、ほんの少しソフィアがこちらを見た。
小さく微笑んでいた。
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