魔の試合形式
スタードームの中はいつもの通り、超満員でした。苺ちゃんとおじいさんは2階の席でしたけれど、それでも大勢のお客さんで埋まっているのです。
「凄い人気じゃのう。これほど人気なら、やはりきて良かったのかもしれんな。
ところで自己紹介が遅れてしまっていたな。わしは黒蜜十蔵という。お前さんは?」
「私は甘味屋苺よ」
「美味しそうな名前じゃの。わしも人のことは言えんが。それにしてもこれだけ大勢の人がいたら前の客の頭しか見えんのではないかと心配になるわい」
「そんな時にはコレよ!」
苺ちゃんが鞄から取り出したのは双眼鏡でした。
「コレさえあればどれだけ離れていても大丈夫! カイザー様の戦うお姿を目に焼き付けることができるわ!」
「随分気合が入っているの~」
「当然よ。カイザー様の試合が始まるんですもの。ちなみに、黒蜜のおじいさんは誰が推しなの?」
「さあ、誰かのう」
「はぐらかさないで教えてよ~」
「おっ、試合が始まるみたいじゃぞ」
ドームの中が一瞬暗くなり、東の入場口からは深紅のマントに身を包んだカイザーが姿を現しました。腰には王者の証であるスタープロレスチャンピオンベルトをしています。彼が現れますと、会場からは割れんばかりの拍手や指笛が鳴り響きます。続いて西の入場口からは全身無数の傷と黒い眼帯がトレードマークのジャックが入場してきました。ガラスの玉のように冷たい瞳からは生気といった類のものは感じ取ることはできません。
リング中央で並び立った両雄は型通りの握手をして、カイザーはベルトをスタープロレスの社長に手渡します。さあ、あとは試合開始の鐘が鳴るのを待つばかりとなったところで、ジャックがマイクを手にして口を開きました。
「カイザーさんよ。俺とお前の対決は通常の試合じゃつまらねえ。だからよ、この試合は棺桶デスマッチにするってのはどうだ?」
棺桶デスマッチ。反則自由、時間無制限の試合方式で相手をKOした後にあらかじめ用意された棺桶の中に相手を放り込み、蓋をした方が勝者となる恐怖の試合方式です。ジャックから急遽提案されたこの試合方式にカイザーは首を縦に動かしました。
「よかろう。どのような試合方式であれ私は勝利し、正義を守る!」
「ケッ、相変わらず口だけは一丁前だが、果たしてそのご自慢の正義の魂とやらがこのジャック様に通用するかな?」
蛇のようにペロペロと舌を出して挑発するジャックに対し、カイザーは眉ひとつ動かさず平然としています。王者の風格でしょうか。それともお前など敵ではないという余裕がそうさせているのでしょうか。
リング外に漆黒の棺桶が設置され、いよいよ恐怖の試合が幕を開けます。
相手を棺桶に入れて勝利の女神が微笑むのはみんなのヒーロー・カイザー=ブレッドか。それとも悪の化身・ジャックなのでしょうか。
苺ちゃんや黒蜜老人も含めた会場中全ての視線がリング上に注がれる中、世紀の一戦の開始を伝える鐘が鳴りました。