クッキーづくり 2
クッキーとチョコレートの甘い匂いが部屋いっぱいに広がりますと、その匂いを嗅いだ苺ちゃんは目を覚ましました。
オーブンから取り出してみますと、白い湯気を立てた丸い形のクッキーが顔を出しました。薄茶色の生地ですが焦げているわけではなく、チョコの色合いがしっかりと主張していました。
空腹もあってかゴクリと生唾を飲み込んだ苺ちゃんは細い指でクッキーを一枚摘まみます。そしてじっとにらめっこです。
実を言いますと、苺ちゃんは怖いのです。
万が一美味しくなかったらどうしよう。カイザー様に嫌われてしまう。
でも、色を見なさい、香りを感じなさい、苺!
このクッキーが不味いように思える?
いいえ、そんなはずはないわ。
絶対に美味しいはずよ。私は曲りなりにもケーキ屋さんの娘。
洋菓子において失敗など許されるはずがないのよ。
家族の誇りにかけてもね。
内心色々なことを考えながらも、恐る恐るクッキーをかじります。
「美味しい!」
サクッとした生地から、苦みの中に甘味が漂ってきます。
甘すぎる味は好きではないだろうと考え、生地にはビターを溶かしたものを混ぜていたのです。クッキーを彩るレーズンの優しい甘味で、幸せを補強します。甘すぎず、けれど苦過ぎることもない。絶妙なバランスのクッキーが完成したのです。
「大成功ね!」
飛び上がって喜びますと、冬眠から覚めた熊のように、お父さんが寝室から起きてきました。
「おはよう、苺。今日は随分と早いんだね」
「あら、パパ。おはよう。当然よ。今日は女の子にとって命の次に大事なバレンタインなんだから」
「そっかあ。それでパパの為にクッキーを焼いたんだね」
にゅっとクッキーに手を伸ばすのを慌てて掴まえて食い止めます。
「ダメよ。これはカイザー様に渡すものなの」
「パパに作ったものじゃないのか!?」
「当たり前じゃない!」
「そんな・・・・・・」
「分かったから、いい年して泣かないの。一枚だけなら食べてもいいから、それで我慢しなさい」
「ありがとう、我が娘!」
「全く」