苺の叫び!
「カイザー様が負けるなんて嘘よ!」
苺ちゃんは叫びました。涙があとからあとから流れていきます。
現実を受け入れる気にはなれませんでした。ずっと無敗の絶対王者として君臨していたカイザーが、よりによって一番大嫌いなジャックに王座を奪われるなど、苺ちゃんにとっては悪夢以外の何物でもありません。
「今日はお前さんにとって辛いものを見せてしまったのう。さあ、もう出よう」
「・・・・・・うん」
泣きすぎて真っ赤に腫れた目の苺ちゃんは、労わるように肩を腕で支えてくれた黒蜜老人に感謝しながら、会場を後にしました。
タクシーに乗り、家まで送り届けて貰った苺ちゃんは、この日の出会いを忘れないようにと、黒蜜老人とアドレスを交換しました。
夜。お気に入りのピンクのパジャマに着替え、ベッドに寝転がり布団をかぶりますが、中々眠りにつくことができません。
今日は本当に色々なことがありました。
朝からクッキーを焼いて。
ドームにもっていったらジャックに踏み潰されて。
それでも気にせずカイザー様は食べてくれて。
試合ではジャックに敗北し、カイザー様は王座を奪われた。
1日を回想した苺ちゃんは最大の不幸と幸せが交互に訪れているかのように思いました。敗戦のショックは簡単に消えないでしょう。寝る前のテレビでは、全治二か月の受傷とテロップが出ていました。きっと、すぐに復帰するのは難しいです。それでも、ショックが大きいとはいえ、彼女は信じていました。
自分の愛する人のことを。
ゴシゴシと涙を拭って、天井に向かって高々と拳を掲げて言いました。
「見てなさいよ、ジャック! アンタが笑っていられるのも今のうち!
カイザー様は必ず復活して、アンタから王座を奪い返してやるんだから!
今までの数倍、いえ1000倍強くなって蘇ってくるわよ!」