やっぱりカイザー様は最高だよ!
「天に祈り、己の過ちを悔いて来世に生まれ変わるが良い」
「で、でたぁ! これはカイザーが己の最大技を発動する際の序曲だ~ッ!」
実況の声と共に会場は歓声の渦に飲み込まれた。
誰もがリング上に立ち、拳を構える男の動きに注目していた。
はち切れんばかりに鍛えられた筋肉の山脈。青い瞳には気高く愛に満ちた光が放たれ、後ろで束ねた髪は金色に輝いていた。
男の名は、カイザー=ブレッド。
スタープロレスの絶対王者として絶大な人気を誇るプロレスラーである。
腕を大きく引いた体勢から十分の溜めをもって発動される正拳は、一撃で巨漢レスラーを場外へと吹き飛ばし、KOできる威力だ。
「太陽の拳!」
轟く低音と同時に打ち出された拳は完璧なタイミングで相手レスラーの胸部に命中。衝撃が全身に波動となって伝わり、皮膚がまるで波のようにプルプルと揺れる。一瞬の間合いの後、口から血飛沫を吐き出した相手は、ロケットのように吹き飛ばされ、ロープを飛び越え、場外へと転落。
カウント20が数え終わる前にリングに戻ることは無かった。
「リングアウトによりカイザーの防衛成功!」
高らかに宣言され、審判により勝利の片手を挙げられるカイザー。
カメラのフラッシュがたかれ、ファンの歓声や握手に笑顔で応じる絶対王者は今宵も王座防衛を成功させ、またひとつ防衛記録を伸ばすのだった。
「きゃあああ! やっぱり、カイザー様は最高だよ~!」
自宅のテレビでプロレス中継を見ていた甘味屋苺ちゃんは、目をキラキラと輝かせてテレビに映る英雄に大興奮していました。
ぴょんぴょんとソファを飛び跳ね大興奮の娘に、読書をしていたお父さんはため息を吐き出します。
「なんでケーキ屋の娘がこんなにもプロレスにハマってしまったんだろう」
「私、ケーキも好きだけど、プロレスも大好きだよ!」
「それはわかるけど、苺は将来何になりたいんだ?」
「んー、そうだなぁ。わかんない!」
少し考えてからニカッと笑う苺ちゃんに思わずお父さんはずっこけてしまいました。再びソファに腰を下ろして足をバタバタと動かして遊ぶ娘を見て、お父さんはブツブツと口の中で文句を転がしました。
「カイザー、カイザーって、少しは俺のことも見てくれよ」
「パパ、何か言ったー?」
「何でもないよ。気のせいだ」
慌てて誤魔化しましたが、彼の心中は穏やかではありません。
大事なひとり娘の興味関心愛情が殆どカイザーに注がれているのですから、やきもちを焼いてしまうのも当然なのでありました。