拉致監禁
ここから本番です。読んでくれたみんなが楽しんでくれれば幸い
女の子はひとしきり笑うとこちらを見て私の頭を指差した
先程までの弱気な態度はどこへ行ったのか。いたずらっ子のような目をこちらに向ける
「角、見えちゃってますよ~」
慌ててフードを被り直す。頑張って引っ込めてもどうしても突き出てくる実生活では邪魔者以外の何物でもない角が容赦なく私の動作を邪魔してくれるがどうにか収める。
「ふむ、その立派な角は竜族ね。こんなところに珍しい。奴隷?それとも特殊階級?」
「そのどちらでもありません」
里の大人共向け用の不敵な笑みを作ってできるだけ虚勢を張っておく。
「助けてくれてどうもありがとう。私はフレデリカ・フリューゲル・アグニスと申します」
「私はインテグラ。名字は今のところないわ」
さんざん仕込まれた愛想笑いとセットのお辞儀を返すと彼女も上品に御辞儀を返してきた。言動の割にこの子わりかしいいところの出ね。こういうのは所作に現れるって言うし。
いい笑顔を私に見せると彼女はチンピラAを指差す。
「助けてくれたことを恩に着てくれるならちょっと手伝ってくれないかしら」
「手伝うって?」
「今この街ってマフィア共が抗争してるのね」
言いながらインテグラは手早くチンピラAを後ろ手に縛り上げる
「情報がほしいんだけどやっぱり当事者たちに話聞いたほうが早いと思うわけね」
次は足を縛り付ける。身体的特徴に乏しい種族が己の種族を表す腕輪を付けていないためこの子の種族がわからない。見た目で判断するのはどうかと思うけどやはり美しいうら若き乙女が淡々と手慣れた様子でこのような仕事をしているのはなんというか、こう、駄目な気がする。
「こいつでかいから足のところ持ってほしいわけよ」
「私、そういうのはちょっと…」
冗談じゃない。助けてくれたことに恩義は感じるけど厄介事に関わるのは趣味じゃない。
「頭のほうがいい?」
「そういうことじゃありませんっ。こういうことに関わるのは私のポリシーに反するのです」
ピシャリというと彼女はケラケラと笑う。
「そうはいうけど竜族、それも貴方みたいな立派な角を持った子がこんなところうろついているんだから訳ありなんでしょ?それに多分、こいつらに顔覚えられているわよ」
「貴方が私を売らない保証もないでしょう」
「そりゃあ…」
腕組みして少し唸ると
「信じてくれないかな?」
胸の前で両手を合わせてこんなことをのたまった。というかなんのポーズだそれ?どっかの宗教?どこの神様の下でもこんな動作があったとは聞いたことがない。最近7月席が代替わりしたとは聞いたけどここの都市は12月席の領域だから他の神様のとこの挨拶なんかしたらどんな目に合わされるかわかったものでもない。彼女の癖なんだろう。
「初対面の方に信頼もなにもないでしょう」
そう言ってやるとインテグラはまたケラケラと笑う
「オーケー!そういう子は私好きよ。ではこうしましょう。ここで協力すれば貴方のほしいであろうホットな情報が手に入るかもよ?」
…この子、鋭いわ。悪魔かなんかかしら?
ため息を短く吐いて。
「わかったよ
共犯者となった彼女に敬語を使うこともないだろう。吐き捨てるように了解し、私はインテグラと同行することにした。
チンピラを縛り付けて麻袋で覆い、穀物に見せかけ二人がかりで直ぐ側の木造ホテルへ運搬。すでに借りていたであろう部屋に放り込むと服を下着を覗いてすべて剥ぎ取り椅子に縛り付け直し目隠しをする。この子えらく拉致監禁に手慣れているわね。こわっ。というかこんなのが私の初めて見る男の裸体?汚された気分なんですけど。
あと割と疲れた。インテグラから差し出された水をがぶ飲みして激しくむせる。しんどい。
「で、助けてもらったとはいえ現在、虚弱体質の私にこんな重労働させておいたんだからこれからこの人からどうやって情報をきくのか教えてくれる?厄介事に発展するのは嫌なんだけど」
私が猫をかぶるのをやめてぶっきらぼうにいうと彼女は少し驚いたような顔をして
「ありゃー?こっちのほうが素?いいところのお嬢様かと。随分とおスレになられてますね」
「はん」
うるせー。こちとら飯の皿と最愛の妹よりも重いものを持ったことなんてないんじゃい。やっぱこの体型だと力でないわ。
「いいね。ソッチのほうが私の好み」
よく笑う子だなこの子。我が妹ほどではないけどかわいいわね。
「それでどうすんのよ?流石に殺しは勘弁してほしいんだけど」
もしそうなら速攻でバックレさせていただきますけど。
「そんな野蛮なことしないって!これでも手も汚れてない女の子なんだから」
先程手際よく男の服を脱がせていた手をひらひらさせながらこんな事を言う。
「そうだよね」
うまく笑顔を作れたかはわからないがとりあえず相槌
「拷問します」
拝啓、妹様。やっぱこの女狂ってやがる。こんなことしているんだから薄々感づいていたけど!感づいてはいたけどね!
「…まじ?」
「まじ」
「そうですか。それでは私はこれにて」
くるりと私は背を向けた。顔を知られたぐらいならまだしもマフィアを拷問?やっぱ駄目だ。どんな目に合うかわかったもんじゃない。情報はもっと地道に集めるしかない。
「いいのかな~?探し人、いるんでしょう?」
くっそ。やっぱこの女悪魔だ。
「なんで?」
「あなたみたいな奴隷でもなければ特殊階級でもない希少種がわざわざこんな人の多いところにくるなんてそれくらいしかないでしょ。ていうかなんのつもりでここまで手伝ったの?お茶でもして優しく話して情報貰えれば苦労しないわよ」
ぐぬぬ。箱入り生活が悔やまれる。もっと世間なれ、いや野蛮なれしておくべきだった。
「何個か質問させてもらっても?それで私の身の振り方を決める」
「何でも聞きなさいな」
これから拷問を始めようと思えないようないい笑顔で彼女は応える。
「貴方の種族は?」
人間だったら話にならない。マフィアとことを構えるなら無力すぎる。
「あ~え~いきなりそれぇ?」
「いきなり歯切れ悪いわね」
バツが悪そうに頭をかく彼女はややあって答えた。
「私って色々混じっててさ。アトモスフィア判定でもわかんないんだよね」
「はぁ!?」
自分の親が不確かだったりで種族がわからなかったり、役所に届けるときに絶対神の権能の一つを市民が利用することはよくある。基本的にそれで出た判定は間違いようがない。
それでわからない?
「そ、そんな顔しないでよ。身元保証人は確かだから」
「誰よ」
ちょっと得意げに彼女は応える。
「なんと現7月席!グレイズ・ジュライ!」
「ここにいない身元保証人の存在をどうやって証明するわけ?」
呆れたように応える。確かに神様に身元保証人になってもらっているなら彼女にはすごい後ろ盾がある。それと同時に危険な感じもした。なんでその7月席に近しい身分の者が一応敵対している12月席の領地でうろついているのか。
「彼女はもうすぐ来るよ!それで証明にならない?」
「は」
いや、ちょっと待って。
とんでもないこと言わなかった?
神様が他の神様の領地に入り込んでいる?
公になったらとんでもないことになる。
神様というのは1月席から12月席まで12柱いる。そいつらは基本的に殺し合っている。世界のルールを自分の都合のいいものに書き換える力。絶対神となって世界を支配するために。
下手すれば巻き込まれるんじゃないか?
「大丈夫大丈夫!バレやしないって!バレたところでどのみち殺し合ってんだし気にしない気にしない!」
「話がでかすぎて私のキャパシティ超えてんのよ…」
「他の質問をどうぞ!」
この時点でかなり手を組むことに後ろ向きになっているわけだけどとりあえず続ける。
「貴方のファクターは?」
本当はこれが本命。
荒事になったら彼女が戦力として頼りにできるのか。というか私を守ってくれるのか。彼女の特殊能力を見ておく必要がある。なんせ現在の私はか弱い少女なのだ。ぱっと見120センチ位の貧相な体格でしかない。さっさと日にちが経たないものか。
「ファクター聞くのはマナー違反だよ?」
「知ってるわよ。これでも私としても真剣に考えているんだから聞いてんの。私の方も教えるからっていうか竜族のファクターなんて公に知られているから教えることもないでしょうけど」
「そりゃそうね」
私達、竜族のファクターはどういうわけだか統一されている。そのせいで高値で買い叩かれていたりするわけだけど。
インテグラは私に手を差し出した。
「握手」
「痛くないでしょうね」
「平気平気!」
ためらいがちに手を伸ばし、結局は彼女の手を握る。悪魔みたいな子だが悪い子ではないだろうという、あとにして思えば世間なれしていない悪癖を発揮させてしまっている。
「私のファクターは『アクセスライト』」
彼女がそう言うと私の体に力が満ちた。
「おお!?」
120センチしかなかった体が140センチ位にまで伸びる。胸も少し大きくなった。
「触れたものの調整が私のファクターよ。その気になれば貴方を満月期にまで持っていけるわ」
「あんたすごいわ!」
素直に感動した!竜族は月の満ち欠けで体格が変わる困った特性がある。私の完全状態ならその辺の天使が束になって来てもぶっ飛ばす自信がある。この子に満月期にしてもらってマフィア共を潰して情報をむしり取ってやろう。ふはははは。
「いや~それほどでも」
そう言いながら彼女は握手を離す。
すると私の体はあっさり元の120センチに縮んでしまった。
縮んで…!?
「なんでぇ!?」
「これが欠点なんだよねぇ。触れてないと解除されちゃうんですわ」
ええい、何事も都合良く進まないものね。使い方によっては割と強力なファクターだしこの程度の制約はあってもしょうがないか。
「どうかしら?」
「どうって言われてもねぇ」
ちょっと難しいところ。彼女にくっついてもらえば力づくで何でもできそうと思ってしまうけどこの考えは多分失敗する。里でも妹に口酸っぱく言われていたからなおさらだ。
私が思考を凝らしていると、突如、窓の外から爆発音。
「ハァ!?ナンダコラァ!?ウグッ!?」
飛び起きたチンピラAの鼻と口にインテグラが手早くハンカチを当てるとチンピラAはあっという間に昏倒した。この子本当になんなの!?
「ていうか何が起こってんの!?」
「ああ、あれは多分」
窓を開けて煙が上がっている方角を見る。
「私の身元保証人だね」
苦笑いしながらインテグラはそう答えた。