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7、友達になりましょう

美琴様としっかりと出会って数日。

編入して来た私はクラスの中で避けられたり浮いたり、はたまたゲームのようにいびられたりするかなと思っていた。

だけれど予想に反して問題なく過ごす事が出来ている。

仲の良い友人がいるかと言われればいないのだけれど。

唯一良く話すのは隣の席の美琴様。


その美琴様、驚いたことに授業で分からない事があると私に聞いてくるようになった。

勉強熱心で素晴らしい。

多分、大雅に追い付きたい気持ちが大雅にテストで勝った私と出会ったことにより拍車がかかったのだろうと美琴様ファンの私は分析している。

初めの頃は舞い上がっていた私も、毎日話すことによって少しずつ慣れていった。

いや、美しいなとは毎日思うし、キュンキュンもするんだけどね?

何にしろ、少しずつ打ち解けられているように私の方は感じている。







「彩未さん、クラスでは大丈夫??」


昼休み。

私は大抵元クラスメイト達の所に混ぜて貰ってランチをしている。

クラスにまともな友人が出来ず1人で食べている私を見つけた友人達が気を使って一緒にいてくれるのだ。

ちなみに今日の学食で選んだ私のお昼ご飯はチキングラタンセット。

いつもながらここの学食は美味しい。

友人の1人、吉野里穂がグラタンを堪能する私に聞く。



「大丈夫……とは?」

「ほら、急にA組に行ったっていうこともそうだけど………クラスの違う私達とご飯食べてて大丈夫なのかしらって、思って…」

「あ、もちろん彩未さんとお昼を一緒にするのは楽しいから私達も全然構わないのよ?」



もう一人の友人、三笠結衣もフォローするようにそう言った。

確かにクラスにこれと言って友人にはいないけれど特段困ったことはないと自分では思っている。

そもそもA組ってエリート教育を受けたお坊ちゃまお嬢様が多いから、私みたいな一般人よりの生徒は取っ付き難いからかあまり寄ってこない。

かと言って別に無視をされているわけではない。

だから別に気にならないのだ。

それなら話しやすい友人達といた方がよっぽど有意義だと思う。


そう伝えると、


「そうなの……??まぁ彩未さんがいいなら良いのだけれど……」

「そう言って貰えると嬉しいわ。」


と納得して貰えた。



里穂も結衣も私と同じ様に中小企業の社長令嬢で中学から白瑛だが、少なくとも小学校は普通の公立の学校に通っている。

そのため世間一般的にはちょっとお嬢様くらいなので話題的には合うのだ。

いや、アニメや漫画はあまり読まないようだけれど少なくとも長期休暇の度に長い間海外旅行に行くようなセレブリティな生活を送っているわけではない。

放課後一緒に流行りのカフェやお店に寄ったりもするし、最近話題のドラマや芸能人の話をしたりする。普通の女子高生と何ら変わりはない。ちょっと羽振りはいいけれど。



「A組の方達ってどんな感じ??天花寺様とはお話された??」

「白鳥様とは??」



向こうが私達に興味がないと言ってその逆も然り、ということはない。

このように他クラスの生徒はA組の生徒(特に天花寺大雅や白鳥湊)に興味津々なのだ。

学園内のちょっとしたアイドルに近い。

私は興味ないけれど。

でも少し期待の目を向けてきた友人の話を無碍にする訳にもいかない。



「天花寺様とは初日に少しだけ。さすがに一位を取った私のことは気になったみたい。でもそれからは殆ど話をしていないわ。」



まぁ私がさりげなく避けて関わらないようにしているからなんだけれど。

A組編入から数日で、本来なら何個かイベントがあったはずだけれどフラグは全てへし折った。



「白鳥様は、まだ会っていないの。お家の事情とかで私が編入する少し前くらいからお休みしているみたい。」



ゲームでもしばらくしないと出てこなかったけれどそれはシステム上の関係としか思っていなかったけれど、そんな理由があったらしい。

別に会いたいわけでは全然ないけどね!!!フラグはないに越したことはない。



「そう、それは残念ね………」

「でも彩未さんなら美人だし、もしかしたらそのうち気に入られてしまうこともあるかもしれないわね。」

「いや、それはないないないない、あって欲しくない!」



頬に片手を当てながら羨ましげに恐ろしいことを言う友人二人に私は全力で手を振って否定をする。

フラグ立てるのやめてください里穂さん結衣さん!!!!



「わからないわよ?」

「まぁでも天花寺様や白鳥様と、ってなると周りの目が凄そうですものね。」

「そうなのよ、私そんな針のむしろだらけの高校生活なんて嫌だもの!」

「そうねぇ、確かにそう考えると大変そうかもしれないわ。」

「第一、天花寺様には東雲様という婚約者がいるもの!私なんかの出る幕はないわ。」

「そういえば、東雲様とは大丈夫??目をつけられたりとか……」

「まさか!」



ゲームの中と同様、美琴様は人に対して厳しく冷たいという印象を持たれている。

実際に自分に厳しく人にも厳しく、というストイックな人なんだけれど。

でもまぁ怖い印象や噂があって、かつ取り巻きもたくさんいる美琴様との相性は確かにA組において大事なんだろう。

友人達が心配するのもわかる気がする。



「東雲様、実は結構優しいのよ。美人だし、努力家だし、素敵な人よ。最近は私に分からないところを質問したりしてくださるのよ!この前なんかもねーーーー」



推しのイメージアップのためにそう伝え、日頃の様子や、どこが素敵だったかなんかを訥々と語っていく。



「あ、彩未さんは東雲様の熱狂的なファンなのね……??」



ハッと気がついた時にはやや引き気味の表情を二人はしていた。

しまった、オタク特有の語りをしてしまった……。

美琴様がつい素敵だから……



「ま、まぁ、そんなところですかね……」

「東雲様のファンって珍しいわね。確かに美人ではあるのだけれど、こうなんか近寄り難いというか怖いというか……。」

「そうねぇ。取り巻きの子達は東雲様のご機嫌を取るためだったりとか取り入るためだったりとかが目に見えてるし、ちょっとファンとは違うものね。」



言われてみると、天花寺大雅とかはすれ違う女子生徒から黄色い悲鳴が上がったり、男子生徒からは憧れの目を向けられたりとかしているけれど、美琴様にはそれはない。

多分私くらいだ。

いや、もしかしたら中にはいるのかもしれないけれど。

大抵はサッと道を開け、なるべく目を合わせないように視線を下に向ける、という人達が多い気がする。


美琴様に何か無礼があると取り巻きの女子生徒達の剣幕が凄い、という話も聞いたことがある。

そりゃあ、取り巻き以外はなかなか近寄れないか………。

私は多分例外中の例外だろうな。

美琴様のツンをとっぱらった性格や考えを知ってるんだもの、そんなの私しかいない。

つまり私はファン1号なのだ!!!






美琴様ファンクラブ(自称)会員番号001番に見事なった私は放課後、図書室に寄った後に帰ろうとしていた。

漫画もラノベも大好きだが普通の本も私は好きだ。

純文学、はちょっと苦手だけれど国語の文章題に使われることがあるから割りと読んでいるし、ミステリーや歴史物、恋愛物、なんでも読む。

これは記憶が戻る前からそうだったけれど。


そういえば入学してからまだゆっくり図書室に行っていなかったなと思って行ってみた。

いや、図書室というより図書館だった。

蔵書の数が高校の図書館レベルじゃなかった。

専門書が多いのはもちろんだけれど現代小説も多数あって、物色していたらすぐに1時間経ってしまった。


数冊借りた後、校門に向かってぷらぷら歩いていると、校庭脇の木陰にあるベンチに誰かが座っているのが見えた。



「……東雲様??」

「あら、春名さん。」



なんと美琴様。

ベンチに優雅に座り、本を広げていらっしゃる。

うっ、絵になる………。


スマホで写真を撮りたい衝動を頑張って抑え、その前に立つ。



「お帰りにならないんですか?」

「えぇ、まだ。迎えの車にちょっとトラブルがあったようでして、遅れているようですの。」

「そうなんですか。私も一緒にお待ちしてもよろしいですか?」

「え!?……お好きにしたらどうですか?」



許可を貰ったのでいそいそと同じベンチに座る。

ベンチには瓶に入った美味しそうなクッキーも置かれている。

よかったらどうぞ、と美琴様が差し出してくださる。



「いいんですか??」

「えぇ。戴いた物なのですが、私一人では食べきれませんので。」

「そうなんですかーでは、遠慮なく……ん!美味しい!」



ナッツが入ったココアクッキーは口の中に入れるとほろりと崩れ、甘さが広がった。

瓶のラベルを見ると、有名なパティスリーの名前が書いてある。

お父さんが前に一度、取引先で貰ってきたとかいうめちゃくちゃ美味しいところじゃない!!

もう一度食べられるなんて幸せ……。



「そうですか、それならよかったです。たくさん召し上がってください。」

「わーい!」



美琴様優しい!

特に表情に変化はないけれども、優しい!

もしかしたら持て余していただけなのかもしれないけれどそれでも嬉しい。


本を読む美琴様の横でなぜかクッキーをもしゃもしゃと食べている私の姿はなかなか異様なのかもしれない。

時たま通りかかる生徒に二度見されている気がするのはきっと気の所為ではない。

いいんだけども。

それにしても今日の美琴様はツン要素がかなり少ない気がする。

天花寺大雅が近くにいないからだろうか?



「ところで東雲様、何の本を読んでいらっしゃるのですか??」

「え?あぁ、これです。」



本好きとして手元の本が気になったので聞いてみると、ブックカバーを取って見せてくださる。

表紙を見ると、私も読んだことある、現代小説だった。



「その本、私も好きです!その作者さん、最近ハマってるんですよー東雲様もお好きなんですか??」

「そうですね、割りと好んで読んでいます。春名さんも読書がお好きなのですか??」

「はい!ちょうど先程も図書館に行ってきたところなんです。」



借りてきた何冊かの本をカバンから出して見せると、美琴様はそれを手に取る。

見てもいいですかと聞かれたので、もちろん!と元気よく答えた。

ありがとうございます、と言ったあと、興味深げにしばらく本をめくられる。


美琴様と共通の話題が出来た事に私がウキウキにまにましていると、ふと美琴様がこちらを見つめた。



「ど、どうしました………??」



急に見つめられドギマギする私を見て、美琴様は少し困ったように微笑んだ。



「あなたは、変わった人ですね。」

「え?」

「私に積極的に話し掛ける方は殆どいません。むしろ避ける方の方がずっと多いです。なのに、あなたはなぜかすぐに話し掛けてくださるんですもの。変わった方ですよ。」

「そう、ですかねぇ?でもいつも一緒にいる方達、ご友人?の方は普通に東雲様に話し掛けてませんか??」

「あの方達は…………私のことを友人だなんて思っていませんよ。私が東雲の令嬢だから、仲良くしようとしているだけです。それくらい、私にだって分かります。」



寂しげにそう言う美琴様に対し、なんと言っていいかわからない私はただその目を見るしかなかった。

傍からでもわかるのだから確かに美琴様がその事を理解していてもおかしくない。

そんなに鈍い方ではないのだから。



「でも、あの方達にも家の事情があります。私と仲良くしていれば得な事も多いでしょう。だから、無碍には出来ないのです。」

「優しいんですね、東雲様は。」

「そうですか?」

「そうですよ、ご自分の事だけを考えるならば無理にあの人達と仲良くしなくていいんじゃないですか??」



美琴様の取り巻きは確かに私の家よりは大きい企業のご令嬢や官僚の娘とかではある。

でも(私の前世の予備知識によれば)元々東雲家と付き合いがあるところだったり、もしくは東雲様から見ると取るに足らないところだったりしたはずだ。

私は政治や経営には詳しくないから良くわからないけれど、美琴様が例え無碍にしても影響がないくらいのはずである。



「それでも一緒にいるのは、東雲様があの人達を思っての事なのでしょう??」

「それは………」



例え家柄目当てであろうと、多少自分に不利な噂が立とうと、家の為何かの為、理由があって近寄る彼女達を振り払わない美琴様は優しい。

それが原因、なのかはわからないけれどまともな友人がいない美琴様は、切ない。


友人………そうか!



「わかりました、東雲様!私と友達になりましょう!」

「えぇ!?」

「先程、なぜか私が話し掛けてくる、と言いましたね??それは私が東雲様のことが好きだからです、初めて見た時から。凛々しいお姿も、クールに見えて実は照れ屋で優しいところも、好きです。お友達になりたいなと思っていました!」

「えぇぇぇ!?」



顔を赤らめて、思いっきり動揺する美琴様の手を僭越ながら握り締めて力説をする。

美琴様の幸せを応援するために親友か付き人になろうと思っていた。

今の話を聞いて改めて思った。

私は美琴様の親友に!なる!!!



「わ、私とお友達になっても面白いことなんて、ありませんよ………??」

「いいんです!私はメリットがあるから東雲様と友達になるわけじゃないんですから。」

「本当に、いいんですか……?」

「もちろんです!」



力を込めて答えると、美琴様は赤い顔を更に赤らめて言う。



「じゃあ、よろしく、お願いします……私とお友達になってください。」



あ、やば。

かわいいがすぎる。

いっちばんかわいい美琴様じゃないかこれ???

むしろこれ以上にかわいい美琴様がいるのならば、天花寺大雅に見せたくないくらいだわ………。

あ、百合じゃないよ、百合じゃないんだよ、私はノーマル。

でも推しのこれだけかわいい顔が生で見れるとか昇天しそうだわ。



「はい!じゃあ今日からお友達です!」

「あの、あとお願いがあって………。時々また、本の話とかを一緒にしてくださいませんか……?あまり人とそういう話をした事がなくて………でも、今日お話出来て楽しかったんです。」

「!!!ぜひ!!!」



なんてかわいいささやかなお願い。

いやでも、私のこのなんてことない話を喜んでいただけるならばいくらでも一緒に話そうと思う。



「では、お友達になったついでに私のことをぜひ彩未、と呼んでいただけますか??」

「い、いきなりですか!?」

「そりゃあ親しくなるための一歩ですよ、名前呼びは。」

「で、では………彩未……さん?え、彩未さん!?」



我が人生に一遍の悔いなし、と両手を組み天を仰いだ。

推しに名前を呼んでもらえるなんて………オタク冥利に尽きるわ。

感動のあまり涙も出そうな私を見て、当然美琴様は戸惑っていた。



「あ、気にしないでください、持病なので。」

「え!持病なのですか!?大丈夫なのですか!?」

「平気です、命に別状はないので!」

「そ、そうですか……。あ、あの……私のことも名前で呼んでくださりますか……??」

「もちろんです!美琴様!!」



ようやく本人を前にしても呼べた。

多分生まれて一番の笑顔を今私は浮かべていると思う。

木陰に射し込む太陽の光も相まってきらっきらだ。



美琴様の友達になれた今日。

親友への道、美琴様を幸せにするための道の第一歩になったに違いない。

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