6、はじめまして
あ〜~~~~やってしまったぁぁぁぁ!!!
運命の中間テストが終わり、結果発表が貼り出される日。
私は掲示板の、トップ30の生徒の点数が書かれた紙を見て足元から崩れ落ちた。
『1位、1年B組 春名彩未 492点』
「彩未さん、すごいわ!」
「A組を差し置いて1位なんて!とっても頭が良いのね!」
「おおふ……」
無邪気な友人達は私が安堵と喜びで力が抜けて座り込んでしまったと思ったのだろう、私の肩を叩いて賞賛の言葉をかけてくれている。
私は妙な呻き声しか出せていないがきゃあきゃあ自分の事の如く喜んでくれている素直な友人達はそれに気付いていない。
いや、まぁ……A組に入れること自体には安堵をしたのは間違いない。
でも当初の予定は、「1位にはならないけどA組に入れる順位を取る」だったのだ。
だって1位になってしまったら、件の天花寺大雅とのイベントが起こってしまう。
所謂、『お前、面白いやつだな』イベントだ。
乙女ゲームや夢小説ではお馴染みの俺様系キャラや完璧王子キャラに頻繁するイベントだ。
それを!避けつつ!A組に入るのが私のミッションだったのに!!
アホな私は美琴様と直接会話出来たことの嬉しさにそれをすっかり忘れた、というか気合いを入れすぎてしまったせいで頑張ってしまった………。
自己採点した時から、え?これかなり良くない??やばいんじゃない??と我にかえり、冷や汗をダラダラかいていた。
嫌な予感は的中してしまった。
しかし!
もうやってしまったものは仕方ない!
次の作戦を練ろう!!
ガバッと顔を上げると友人達は不思議そうに私を見た。
なんでもないよーと愛想笑いを返すと、微笑み返してくれた。
「今日は帰りにお祝いしましょう!」
「そうね、駅前に新しくオープンしたケーキ屋さんとかどうかしら?」
「え、なにそれ興味ある!!!」
「彩未さんならそう言うと思ったわ。ガトーショコラがとても美味しいそうよ。」
「ガトーショコラ!いいわねぇ!」
よーしそれを食べて、その後また対策を考えようっと。
友人の素敵なお誘いに私はすっかりテンションを取り戻すことが出来た。
とりあえず、A組に入れることを喜ばなきゃいけないわね!
そうして、その翌週の月曜日。
私はA組のクラスの扉の前に立っていた。
この扉を開けてしまえばいよいよゲームでも導入から本番になる。
まだ前世の記憶が蘇ってから、攻略対象者には会っていないけど会ってしまう。
イベントも始まりそうになるかもしれない。
だがしかし!
私の目的は美琴様と天花寺大雅の仲を応援すること!!
春名彩未、全力を尽くして臨みます!!
気合を入れてガラリと扉を開け、足を踏み入れると教室中の視線を感じた。
完全実力主義の白瑛高校では、クラス編入自体は下のクラスになればなるほど多い。
ただし、テスト順位の上位はほぼA組。
そのためA組へのクラス編入なんて滅多にない、と友人は言っていた。
この学年の中等部時代でも一度あったかどうかだと。
つまりA組は中等部からずっとメンバーが変わらないままということ。
そんな中、高等部から入ってきたぽっと出の、しかも小さな会社の娘が編入するとなれば注目されるのも無理がない。
無理がないこと、なんだけどやっぱり見られると緊張するなぁ………いや、人前に立つこと自体はそんなに苦手ではないんだけれど視線の種類がなぁ………。
あまり好ましい目線を向けてくる人は少ない。
非常に居づらい。
そりゃそうだよねぇ、長年一緒にいたクラスメイトの一人がいなくなってよくわからん女が入ってきたんだもの。
とはいえ、私は前世年齢と合わせるともうおばさんの年齢。
社会人経験も7年以上!
このくらいじゃめげないのだ。
なんてことのないように、事前に教師に言われていた席につく。
視線はまだまだブスブス刺さってくるが気にしなーい気にしなーい。
鞄の中身を机に収めていると隣に人影を感じ、目線を上げると…………
なんと美琴様!!!
この方はいつも突然私の前に現れる………いや私が鈍くて気付くのが遅いとも言うが………
「おはようございます…………あら?あなたは………」
「は、はい!今日からA組に編入して参りました!」
相変わらずの美しさに私はガチガチになる。
お見掛けは何度もしていて、対面するのは二度目だけれど、気分は憧れの芸能人を前にしたような感じ。
吃ってしまった……
「春名彩未さん………ですわね??先日ハンカチを落とされた。」
「えぇ!なんで私の名前を………??」
「全校生徒の名前は概ね覚えていますから。先日お会いした際には見たことの無い方だったので、編入生なのかしら、と推測したまでです。」
全校生徒の名前を覚えていることにももちろんびっくりだけれど私のことを気にして名前を新たに覚えてくれたことにびっくり嬉しい。
え?てか全員??
この学園結構な人数いるはずだけど………
全員覚えているんですか、と問うと『当然ですわ。』と真顔で返ってきた。
いや当然ではないけれど…………ゲームではわからなかったけれど実は結構マメな方なんだろうか?
「え、えと、春名彩未です。よろしくお願い致します。」
「こちらこそ、よろしくお願い致しますわ。」
改めて頭を下げると、表情を変えずにそう返して下さる。
というか美琴様とちゃんと会話している………!
と感動していると後ろから声が掛かる。
「君がもしかして、A組に編入してきたという子?」
で、出たーーー!!
天花寺大雅!!
青みがかったサラサラの黒髪に端正な顔立ち。
優しげな瞳をしており、巷では王子なんて呼ばれる大企業の御曹司。
その瞳がほんとは笑っていないことを私は知っている。
今世では初対面。
悔しいけれどやっぱりイケメン………美琴様が惚れるのも無理はない。
まぁでも私のタイプではないんだけれど。
その王子の方を見つつ、私は一応自己紹介をした。
「えぇ、はい、そうです。春名彩未と申します。」
「いやぁびっくりしたよ。テストで初めて1位を取られちゃうなんてね。頭がいいんだね春名さんは。」
はははっと爽やかに笑う。
こういう眩しい笑顔のスチル、あったなそういえば………。
しかしやっぱり1位を取ったことによって興味を持たれてしまっていたか………。
でも、私のことはどうでもいいのだ!
美琴様ファースト!!
というかこいつ婚約者の美琴様に挨拶なしとか信じられない!!!
見てご覧なさいよ!
美琴様が伏し目がちになってしまったじゃないか!!
メラメラと大雅に対して怒りが芽生えてきたけれど、それを抑えてニッコリ私は微笑んだ。
「入学式の時に東雲様をお見掛けしてすっかり憧れてしまったんです。なのでぜひとも東雲様と同じクラスになりたいと思って、一生懸命勉強しました。」
えっ、と驚いた表情の美琴様が目に入る。
「綺麗な髪、きりりと素敵な目!堂々としながらも可憐な佇まい!!女子の憧れる素敵な女性じゃないですか!!」
ふんすっと鼻息荒く、オタク特有?の早口で語ると、大雅はやや引いた様な目で私を見る。
引いてくれたなら尚良し!
これで私には惹かれないだろう、きっと。
主人公補正がなければ。
「美琴にこんな熱心なファンがいたなんて、びっくりだよ。知らなかった……。」
「私だって知りませんでしたわ。誰かさんと違って人気があるわけではありませんから?」
美琴様は少々冷めた目線で私と大雅を見ながら髪をくるくるといじる。
こ、これは……!!
髪を指に巻きいじる癖、これは、照れている時に美琴様がする癖だったはず……!!!
乙女ゲームの攻略本の人物紹介に書いてあった!!!
え、ということは美琴様照れているの??
素っ気なく言ってるのに照れているの??
何それかわいい…………。
「東雲様、もしかして照れていらっしゃいます?」
「な……!」
ポロリと私が漏らしてしまった言葉にサッと顔を赤らめた。
「照れてなどいませんわ……!」
「へぇ、美琴がそんな顔をするなんて珍しいね。」
「大雅様まで……!照れてません!」
ぷいっと私達から顔を背けるが耳の赤みは隠せていない。
照れ顔ありがとうございます。
物珍しそうに大雅も美琴様を見ている。
あれ?もしかしてこれいい傾向??
「と、とにかく!大雅様、天花寺家の跡取りとしてはまだまだ向上しなければならないと思いますわ。負けるようではいけませんわよ。」
キッとまだ少し顔を赤くしながらも美琴様は大雅を見てぴしゃりと言う。
相変わらず手厳しいな、と苦笑いをしてみせる大雅に私は小声で、
「多分、次は大雅様なら1位取れますわ、と言ってます、暗に。」
と言うと、聞こえていたようでまた顔を赤くし、立ち上がられた。
「な、何をおっしゃるのですかあなたは……!!」
少し取り乱し動揺し、もう!と憤慨している様子はただただかわいい。
そして……うん、その後座り直して髪をまたいじっていたから………図星で照れていただけだね。
やっぱり、冷たいことを言っているようでただのツンが強すぎてデレがあんまり見えないツンデレですね、私の推しは。
ついにやってきた天花寺大雅との初邂逅。
『お前面白いやつだな』イベントは恐らく避けられ、多分私の印象はちょっと変な美琴ファン、そうして美琴様の好感度は少し上がったはずだ。
ついでに美琴様からの私の印象も変な子、になってしまったようだけれど………まぁとりあえず、いっか?
ようやく攻略対象出てきました。
白瑛のテスト結果によるクラス編入は中学からの設定です。