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5、目指せ、ランクアップ

悪役令嬢・東雲美琴とお近づきになってその恋を応援しよう!


という目標を決めた私は、次に何をすべきか家に帰る道すがら考えていた。

ご令嬢達は送迎の使用人とかがいて車通学だけれど、私は前世と変わらず電車通学です。


どこかで上手いこと知り会えればいいのだけれど、何せ彼女は大企業のご令嬢。

限りなく一般人に近い私とは訳が違う。

お近づきになりたい人も当然多く、彼女の周りには多くの取り巻きがいつもいる。


そんな中、クラスも違う一般人の私が近づいて行くなんて無理がある。

取り巻き達に『自分の身分が分かってるのかしら!』と言われ近付く前にあしらわれるのがオチな気がする。


と、なると。

彼女に近付くための第一歩は『同じクラスになる』だ。

でもそれは攻略対象者達と関わるフラグが立つかもしれないということでもある。

もちろん、そのうちの一人である天花寺大雅と関わるようになれば美琴様との間を取り持つことも出来るわけなので、一概に悪いとは言えない。


大雅達に興味を持たれることなく美琴様とお近づきになる方法は………

うん、決まった。

1位にはならず、そこそこいい順位を取ってA組に行く、だね。

一番無難かつ的確!!!



結論が出た私は、いやーすっきりすっきり、と思いながらいつの間にか着いていた自宅のドアを開ける。


「ただいまー。」

「あ、姉さん。おかえりー。」


リビングから顔を覗かせたのは弟の悠真。

イケメンで優しくて姉想い、姉と同じで成績も優秀な年子の弟。

ゲーム本編にも出てくるキャラで、実の姉弟なのでもちろん攻略は出来ないけれどファンの中でも非常に人気があった。

前世の記憶を取り戻してから改めて見たけれど、やっぱりイケメン!!

前世の弟とは大違いだわ!


「姉さん?どうしたの?そんな人の顔まじまじと見て……」

「え?あぁ、気にしないで!何でもない!悠真のスペックは高いなぁも改めて思っただけ!」


そう答える私に対し、今度は悠真の方がじっと私の顔を見る。


「なんか………最近、というか熱出した後から何か変わったよね??何かあったの?」

「何にも、ないわよ?」

「だって、趣味がお菓子作りや手芸だったはずなのに急に今までほとんど興味のなかった漫画やゲームを買い込んでるし……なんか雰囲気ちょっと違うし。」


我が弟、鋭い。

確かに少し前までは休日は勉強の合間にお菓子を作ったり、編み物をしたりしていた。

今もそれらに全然興味ないわけではない。

前世の記憶が戻ったからといって、それまでの『春名彩未』がいなくなることはないのだ。

本来の年齢は+30歳くらいしてしまうけれど精神年齢まで+30歳してしまうわけでもない。

16歳の感覚が30歳になってしまっただけ。

あれ?ほぼ倍??考えてて虚しくなってきた。


とにかく感覚としては変わってしまったところもあるけれど、春名彩未()春名彩未()だ。

転生したことは転生したけれどそれは変わりないはず。

ちょっとテンションが高くなりやすくなってオタクになってしまっただけだ。

母も隠れ男性アイドルオタクだから、オタクの血は継いでいるはず。

そのうち開花してしまってもおかしくなかったのだからそれが早まっただけ、だと思う。


「新しく友達になった子達がそういうの好きでね、私も興味を持つようになったのよ。」

「ふーん……そっか、友達がねぇ。」


よし、誤魔化せた!

やや半信半疑のようにも見えるけれどとりあえずは納得したようだ。

本当の事を言えないでごめんね!!!


「まぁ、姉さんが元気ならいいや。あ、この間食べたいって言ってたケーキ買ってきたんだけど食べる?」

「食べるわ!ありがとう悠真……!さすが!」

「じゃ、紅茶入れるから手を洗っておいでよ。」


反抗期もない素直な弟。

これはきっと学校でもモテモテね………。

ニコッと素敵な笑顔で言う悠真に乙女ゲーム脳が抜けないままの私はそう思った。

確か主人公の弟は第2作目の攻略対象者であったような気がするが、この時の私は明日からの事に気を取られていてすっかり気付いていなかった。






翌日から私は前にも増して授業をしっかり聞き、予習復習にも余念がなかった。

参考書も新しく買い、対策を重ねた。

学力的に言えば問題なくA組に行けるレベルではあるはずだけれど万が一ということもある。

出来ることはしないといけない。

帰ったらとことん勉強をし、寝る前の少しの時間にオタ活をこっそりしていた。

あまりの熱心ぷりに、両親には『何かあったのでは……』と心配され、悠真には『今度は一体どうしたんだ……』と不思議がられた。

元々それなりにいい成績を収めてはいたけれどガリ勉のように勉強したことはなかった。

前世だってここまで勉強したことは受験期以外ではない。

だけど今回は受験以上に大事なのよ!!

何せ推しの人生が関わっているのだから!!

『目指せA組』と書かれた鉢巻を額に巻き、今日も私は勉強に励んだ。




そんな感じにテストまでの間、熱心に勉強をしていた私だったが、テストまであと3日という頃。

昼休みに学食でお昼ご飯を急いで食べた後(令嬢としてはあまりお行儀はよくないが)、私は教室で残りの昼休みの時間をテスト対策のために使うべく、廊下を急ぎ足で歩いていた。

本当は走りたいけれど見つかったら結構怒られる。

だから、競歩のようにキビキビと素早く歩く!!


「あら、あなた。」


後ろから声を掛けられたので、急ブレーキをし、やや前のめりに転びそうになりながらもなんとか振り向いた。


「え!!!」


止まった私につかつかと近づいてきたのは、東雲美琴。

私の今の原動力のその人だった。

固まる私に、美琴様は少し小首をかしげる。

さらりと綺麗な髪も揺れた。

え、うつくし。


「こちら、落としましたわよ?」


そう差し出されたのは白地に猫柄の私のお気に入りのハンカチ。

早歩きをしているうちにいつの間にかポケットから落ちてしまったらしい。

というか私、美琴様とすれ違ったのに気が付かなかったとか!

どんだけ勉強に集中してたのよ!!


美琴様とすれ違う生徒の大半は会釈をする。

しないと取り巻き女子達に何を言われるかわからないからだ。

今日は取り巻きは珍しくいなく美琴様一人であるが、特にすれ違う時に挨拶をしなかった(というかそもそも美琴様に気付いていなかった)ことに対して気にしている様子は彼女にはない。

やっぱり取り巻き女子達が自主的に注意しているだけなのか。


悶々と考え黙っていると、やや下から美琴様が顔を覗き込んだ。


「大丈夫ですか………?」

「え!はい、大丈夫です!拾って頂き、ありがとうございました!!!」


ようやく覚醒した私は慌てて頭を下げお礼を言う。


「かわいらしいハンカチですね。急いでいるご様子ですけれど、足元には充分気を付けてくださいね。転んでしまっては大変です。」


口元に少し笑みを浮かべて美琴様は言った。

う、うつくしい!!

微笑み、うつくしい!


感極まった私は思わずだらしない顔になりそうになるのを必死に堪えて微笑み返した。


「東雲様はお優しいですね!」

「優しい……?そうでしょうか??」

「ええ!とっても!」


拾ったハンカチを褒めて下さり尚且つ私を心配して下さる。

イメージしていた普通の乙女ゲームの悪役令嬢は絶対そんなことをしない。

したとしても絶対何か裏がある。

でも美琴様の笑みにそんな黒い物はないように思えた。

やっぱり、本来の彼女に悪役令嬢なんて似合わないのだ。

本来の彼女は番外編の通り、少し不器用だけれどとっても優しく思慮深い素敵な女性なのだ。


「本当にありがとうございました!!」


よし、やっぱり勉強頑張らないと!

絶対A組に入るわよ!

そう改めて決心した私は美琴様に再度頭を下げ、また教室へと急いだ。


「変わった方ね………私の事を優しいだなんて………初めて言われたわ。」


去っていった私の後ろ姿を見つめ、ポツリと言った美琴様の言葉は、もちろん私には聞こえなかった。

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