3、私はモブになりたい
乙女ゲームの主人公、ヒロインに転生してしまった。
その衝撃は私にとってはかなり大きかった。
受験に失敗したのかというくらいにはショックだった。
人生の選択を大変誤ってしまった………
でもこれ私のせいじゃないのよね………
そもそも前世のことを思い出さなければこんなにショックを受けなかったのに………でもどっちにしろこのゲームには巻き込まれてはいたわよね……。
授業中だけれど全く授業に集中出来ない。
まぁ前世で一度習っているから、今まで今世で学んで来たことと合わされば全く問題なく理解出来るからいいんだけど………前世頑張っててよかった。
とりあえずモブになりたい
と何気なく真っ白なノートに書く。
ん?モブになる?
…………そうか!主人公じゃなくてモブになればいいのか!!
自分で思い付いたこの名案、思わず褒めたくなる。
主人公だとしても、悉く攻略対象者とのフラグを折ればある程度目立たなくなるのでは??
そうすればモブになって少し離れたところから眺められる!
主人公補正で見た目は前世よりかなりかわいくはなっているけれど、私は乙女ゲームの歴戦の猛者。
フラグ回収が得意ならフラグをへし折るのだって上手いはず!!
さて、やる方向性は決まったわ。
後は攻略者個々の対応ね。
メイン攻略対象者は4人。
まずは天花寺大雅
国トップの貿易会社の御曹司でなんでも出来る万能タイプ、の腹黒王子。
人当たりや外面はいいけれど内心は人を見下しているんだけれど、主人公が自分よりいい成績を出しているのを見て興味を持って………という感じ。
勉強ゲージが一定になると彼のいるA組に編入して出会う、というルート。
このゲームの面白いところは、好感度ゲージ以外にも勉強ゲージや運動ゲージ、美容ゲージなど主人公のステータスを上げ、それによって攻略ルートの幅を広げていくという育成ゲームの様な面を持っているところ。
ちなみに先の話だと、勉強ゲージを上げないと天花寺大雅に出会えずエンディングを迎えてしまう。
つまり、出会わない為には勉強をしない!!
とはいえ、前世から引き継いだこの頭脳ならば普通にしていてもきっとA組に編入してしまう。だから程々に手を抜かないといけない。
よし、それで行こう!
次に、白鳥湊。
大雅の友人で同じくA組。
女性ならば誰かれ構わず口説いていく、いわゆるチャラ男。彼も一流企業の御曹司だったはず。
A組に編入し、大雅の好感度ゲージを上げていくと途中で関わってくる、派生ルートのキャラ。
浮気性の母、不仲な両親のせいで根本的に女性を信用していなかったけれど、どんなに甘い言葉をかけても靡かない主人公に対し、もしかしたらこの人は違うのではないか、と惹かれるようになる。
これも、A組に編入しなければ問題なし!
ただ、主人公補正のせいか私の顔は前世より数段可愛くなっている。
見つけられてしまったら声を掛けられる可能性は高い。
でも攻略ルートを逆手に取れば………メロメロになってしまうフリをすれば大丈夫!その他のモブと同じ扱いになるはず。
3人目は松風慶吾。
親がヤクザを裏稼業にしているこちらも一流企業の御曹司。見た目もちょっとワイルドで、性格も捻くれている。
ひょんなところから知り合った主人公が、自分を怖がらず普通に接してくれるため、惹かれるようになる、というこれまたベターなルート。
これもフラグを立てないように関わらなければ多分問題なし!
4人目は五月女蒼士。
白瑛学園の生徒会長で学年は1つ上。
親は官僚で、真面目で鈍い。
あんまりここのルートはやり込んでなかったから情報としてはうっすらしか覚えてないけど………
生徒会に入らなければ関わらないわね!問題なし!
ルーズリーフに重要事項を書いてクリアファイルにしっかり挟む。
これは誰かに見られたら大変。
帰りにノートでも買ってまとめておこう。
一先ず落ち着いた私は授業に集中しようと黒板を見る。
集中しよう、集中しよう、と思った。
だけれど唐突に考えだしてしまった。
この世界の漫画やアニメって何やってるの!?乙女ゲームは!?何がある!?
前世の私は大変オタクであったけれど、今世の記憶を取り戻すまでの私は至って普通のご令嬢。
アニメどころか漫画やライトノベルですら読んだことがない。
これは、学校が終わったら某アニメショップに駆け込まねばならない。
あるのかわからないけれど似たようなアニメショップはきっとあるはず。
あぁ、無駄にしてしまった16年間を取り戻さないと!!!
その日アニメショップに行き、欲しいがままに漫画やゲームを買いまくり、こっそり家に帰ったのだが、それを一つ下の弟に見つかりドン引きされてしまったのはまた別の話。