1、私はオタク女子
はじめまして、雪奈です。
更新頻度は稀かもしれませんが完結まで頑張ろうと思います!
春の暖かさに目を細めたくなるような季節。世間は賑わうゴールデンウィーク。
学生である身としてはとにかく有意義に過ごしたいそんな時期に私、春名彩未は高熱を出した。
生まれて初めての40℃を超える熱。朦朧とする意識、だるい身体。
そんな中で夢を見た。
夢の中で私は携帯型ゲーム機を持ち、その画面と向き合っていた。
どこかの現代の立派な建物………これは、校舎か、が背景のムービー。あれ?この建物見たことある……?
そして出てくる攻略対象者達。あれ?この人たちも見たことある??
もしかしてこれは前にやっていたゲームか。いや、でも私はゲームなんてやったことはないのに………そして画面越しじゃなく、実際に見たことあるような………??
『The beauty of nature』
タイトルロゴが出た後、ナレーションが出る。
『ここは白瑛学園---』
白瑛……学園……!!!?
「嘘でしょ!!!???」
そこで、私は掛け布団を跳ね除けて起き上がった。
全身から汗が吹き出る。
着ていたお気に入りのパジャマがぐっしょりだ。
熱はすっかり下がったのか、身体のだるさや頭の痛みはない。
むしろ、頭の中はすっきりしている。
今のは夢……??
白瑛学園、それは私が通う学校の名前。
自分の学校がゲームになった、という夢。そうとも考えられる。
でも、私はそれが違うことがわかった。
わかった、というか思い出した。
あのゲームは前世でプレイしてたもの。
何度もプレイしたのだ、忘れるわけがない。
つまり、私は前世の記憶を取り戻した、ということよね……??
そして……
「ここはあの乙女ゲームの世界ってことね!!!正に異世界転生!!!万歳!!!!!」
思わず大きな声で叫ぶとパタパタと足音が聞こえ、ドアがノックされた後、母が入ってきた。
「彩未……?大丈夫……?魘されてたの……??」
優しげな顔立ちをした母は心配そうに眉を下げ、私の額に手を当てる。
それはそうだ、病気の娘の部屋から大声がしたのだ、びっくりもするし心配もする。
「あら、随分熱下がったのね。よかったわ、今体温計と飲み物持ってくるわね。」
ほっとしたように笑みを浮かべた後、母はまた部屋を出て行った。
その母の後ろ姿を見送りながら私は先程の夢を思い出す。
The beauty of nature
和訳すると花鳥風月。
攻略対象者の名前に因んだ安直なタイトルで、舞台は現代のお金持ち学校。
定番中の定番、だがこれが面白かった。
………と、記憶している。何度もプレイしたはずなのだが遠い昔のことのため、まだ記憶があやふや。
でも、自分のことは思い出した。
小さい頃からお姫様の出てくる物語に憧れ、大きくなるにつれ少女漫画を読むようになり、乙女ゲームにハマるようになる。
読んだ少女漫画は何百冊、プレイした乙女ゲームは何十本。しまいにはギャルゲーもしていたと思う。
勉強と趣味に時間をかけつつ、日本一の大学に入り、そこでも勉強をしつつ趣味に打ち込み、そのまま大人になった。
彼氏も作らず休みの日は漫画漫画ゲームゲーム。
そうして三十路が近くなった頃の夜、飲み会の後ホームを歩いていたところで、私の前世の記憶は途絶えている。
「つまり、酔っ払ってホームに落ちて電車に轢かれて死んだのねきっと………」
我ながら残念な人生の終わり方である。
ともかく、前世の私は趣味に生きたオタク女子だった。
気の合う友人も一定数いたし、日々楽しかった。
それなりにいい人生ではあったと思う。
悶々と一人で思い起こしていると再びノックがし、母が体温計と暖かいミルクを持って入ってきた。
熱は計ると36.6℃。うん、平熱に戻った。
ミルクを飲んだ後、病み上がりなのだから今日はもう少し横になっていなさい、という母の言葉に素直に従いベッドにもう一度横になる。
まだ体力が戻っていないためか、濃い夢を見た、というか昔々の記憶が甦ったからなのか、ふかふかのベッドに身体を横たえると直ぐに微睡みはじめた。
肝心のこの世界のことはまだ全然思い出せない。
でも学校に戻れば少しずつ記憶が戻ってくるだろう。
ぼんやりそう思いながら、私は眠りについた。