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シューティング・スター  作者: 白石来
9/41

ー9ー 【異世界~大賢者】

 フサフサの毛が頬を撫でる。気持ちいいが、少しくすぐったくなって、悟は目を覚ました。

 「グリか、おはよう」

 洞穴の外は白んでいた。セトは、ゴルの傍でまだ寝息をたてている。

 砂嵐は止んでいた。風が赤茶色の砂を刻み、美しい複雑な砂紋を造っていた。悟は砂紋を目でなぞりながら、これまでのことを思い返していた。

 セト一家との出会い、牧場での暮らし、天体観測、そしてジンとマキの死。僕は誰で、一体何をすべきなんだろう。心の奥に仕舞ってある疑問がふいに頭をよぎる。

 物音に振り返ると、セトが目を覚ましていた。

 「おはよう、セト」

 悟は涙で滲んだ目を急いで擦り、明るく挨拶した。セトは、悟の涙に気づかないふりをして「おはよう」と返した。


 簡単に朝食を済まし、悟とセトは洞穴を出た。グリとゴルは、焼けた砂を軽快に蹴りながら、風を切って南へ進む。昼前にはカカ砂漠を抜け、舗装された道に出ることができた。

 「ポエルトまでもうすぐね」

 セトが振り向いて叫び、悟は大きく頷いて応えた。ぼんやりと町が見えてきた。さらに向こうには海が見える。波は凪いでいたが、悟の気持ちはそわそわと落ち着かなくなっていた。


 「ありがとう、ゴル、グリ。ゆっくり休んで」

 ポエルトに入ってまず二人は、長旅で疲れの見える二羽を休ませるため、安宿をとった。セトはブラシをかけながら、二羽に語りかける。

 港町ポエルトは、キルト以上に町全体が活気づいていた。宿の窓から港が見える。貿易船が並び、日焼けした屈強な肉体の船乗り達が、生き生きと働いている。世界が呪われつつあることなど、とても信じられない光景だった。

 悟は宿のフロントの男に大賢者ウルマのことを尋ねた。

 「ウルマ様はあそこ、ほらあの赤い屋根のお宅だ、あそこに住んでらっしゃるよ。偉大な大賢者様だが、かなりの高齢でね。今は隠居なさってるはずだけど」

 「隠居?うーん、どうもありがとう」

 納屋から部屋に戻ったセトに、悟はフロントから聞いた話をした。

 「とにかく頼んでみるしかないわ」

 「そうだよね。よし、今から行こう」


 ウルマの家は、少し高台にあり、海が見渡せる絶好のロケーションに建っていた。重たい木製の玄関扉をノックする。少し間があって、小さな老人が顔を出した。贅肉をすべて削ぎ落としたように痩せ細っており、風が吹いただけで倒れてしまいそうだ。

 「ウルマ様ですか」

 恐る恐る尋ねると、飛び出しそうな大きな目を悟達に向け、家の中へと手招いた。

 安楽椅子にゆっくりと腰を下ろし、老人はようやく口を開いた。

 「いかにも、儂がウルマだ。お若いの、残念だが期待には応えられんよ。儂はもうじきお迎えが来る」

 「お身体悪いんですか」

 「賢者も病には勝てん。医者からは持って半年と言われておる」

 悟は相談する言葉を喉の奥で呑み込んだ。とても頼める状況にない。

 その時、2階から青年が駆け降りてきた。

 「ウルマ様、珍しくお客様ですか?」

 青年は年齢が悟と同じくらいで、短かい栗毛の髪をしており、透き通った大きな目が、好奇心を抑えきれずに悟達を凝視している。

 「はじめまして、サトルと申します」

 「俺はウルマ様の弟子で賢者見習いの、アリマっていいます。ウルマ様を訪ねてこられたってことは、お困り事ですよね?良かったら俺に相談してみません?」

 悟は思わずセトと目を合わせ、その後、ウルマの顔を伺った。

 「これアリマ、お前のそのせっかちは何とかならんか。いや、しかし、うむむ、アリマに任せるのも、もしかしたら良き案かもしれん」

 ウルマはぶつぶつと暫く思案していたが、悟に向き直って切り出した。

 「このアリマ、一見軽薄そうじゃが、賢者としてはすこぶる筋が良い。儂はこの有り様。どうじゃろう、アリマがお主らの力となるというのは」

 アリマは飛び上がらんばかりに興奮して、悟の言葉を待っている。

 「正直、アリマさんのお力がいかほどかは知る由もありませんが、お力を借りれるのは願ってもないことです。お話を聞いていただき、改めてご判断いただければ」


 それから、悟とセトは、ズマイラの呪いの封印が解かれたことによって両親が殺されたことを二人に説明した。ウルマは項垂れ、アリマは憚らず涙を流した。

 「おそらくズマイラの呪いで間違いあるまい。どうじゃアリマ、お前にやれるか」

 アリマは真っ直ぐにウルマを見て答えた。

 「こんな悲しいことは二度と起こさせません。必ず俺が封じます」

 悟とセトは、アリマの目を見て確信した。この男は信用できる、と。


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