ー8ー 【現実世界~『サトル』】
間宮の報告から10日後、今度は鏑木から報告が入った。
「大阪の花菱哲の失踪事件ですが、花菱が見つかりました」
「何だと?」
「失踪日から9日後ーつまり3日前ですが、自宅近くの林の中で倒れているのを近隣住民が発見しました。甲野と同様、失踪中の記憶が消され・・いや、記憶がありません」
「失踪中の記憶だけが偶然無くなるなんてことが、続くわけあるか。消された、と考えるのが自然だ」
またか、と土御門は思った。
「そうですよね、すみません。ところで、福岡、大阪、両事件の被害者と接点のある人物が浮上しました」
「誰だ」
「フリーライターで全国を飛び回っている、岸輪久という男です。福岡の甲野は、ライブの数日前に音楽雑誌の取材で岸と会っています。大阪の花菱は鳶職ですが、簡単DIY講座のYouTuberという顔も持っていて、DIY専門サイトの取材で岸と面識があります」
「確かに匂うな。その岸という男を徹底的にマークしろ」
「了解」
大阪の事件から2か月後、進展があった。青森で林檎農家を営む水野幹郎の長女、水野理が、一晩だけ家に戻らず、翌日の夕方に帰宅した。地元警察は家出と判断し、事件性は無いものとしていたが、特殊の捜査により、飛行物体の目撃情報を突き止めた。
さらに、品種改良した林檎が世界で評価されたため、その林檎を丸ごと一個使ったアップルパイを理が考案し、ネット販売したところ、全国からの注文が殺到したことを、岸が取材していた。
「状況は岸が犯人だと言っている。後は証拠さえあれば・・・」
土御門は歯軋りした。
「先回りして証拠を掴みましょう」
そう言ったのは鏑木だ。
「どうやって」
「三件の事件には、飛行物体以外にも共通点があります」
土御門は目で先を促した。
「全員名前が『サトル』なんです」
福岡の甲野覚、大阪の花菱啓、青森の水野理。確かに全員『サトル』だが、共通点と言うべきものなのか、土御門には判断できなかった。
「飛行物体も岸も、未だ正体は謎のままです。単なる偶然かもしれませんが、この共通点から、何か糸口を掴みたいんです」
理性的な鏑木には珍しく感情的な物言いに、少し気後れしながら土御門は答えた。
「わかった。次に狙われる『サトル』に目星が付いているのか」
「岸の取材相手の中に『サトル』がいないか、南田が確認中です。見つかり次第ご報告します」
それから1か月後、鏑木から報告があった。
「南田が見つけました。一昨日の夕方、都内に住む、日下悟というジブリマニアの高校生を取材しています」
「よし、日下悟を保護対象として監視だ」
翌日から日下悟の監視が続けられた。そして青森の水野の事件から2か月後、特殊メンバーの目の前で、忽然と悟は姿を消したのだ。