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シューティング・スター  作者: 白石来
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ー6ー 【異世界~再会】

 港町ポエルトへ向かう旅の商人達が立ち寄る町であり、近隣の村人達が様々な物資を調達する町、キルト。この町の朝は早い。

 市場は夜明け前から開き、水揚げされたばかりの新鮮な魚や朝採れ野菜が次々と競りにかけられていく。

 牧場からは絞りたての牛乳やチーズ、卵などが届き、市場の周辺には、市場で働く人達と買い求める人達のお腹を満たす、食堂や喫茶店が軒を連ねている。

 悟とセトは、市場近くの食堂で空腹を満たしていた。

 昨晩から一睡もせず動き通しだったためか、身体は睡眠よりもまず食べ物を欲していた。

 悟は豚のカツレツ定食、セトは焼き魚と麦とろご飯を食べた。温かい料理がお腹に入ると、気持ちも自然と落ち着いてくる。2人は黙々と料理を平らげた。

 次に2人が向かったのは、町の東側に並ぶ宿屋だった。夜中にヤナギ婆さんとトキが町に到着した場合、開いているのは、宿屋か酒場くらいだからだ。

 悟とセトは手分けして、2人が宿泊している宿が無いか、一件ずつ聞いて回った。悟が数件回って収穫が得られずにいたところ、セトが向かいの宿屋から息せき切って走ってきた。

 「いた!」


 ヤナギ婆さんとトキは、逃げる途中でかすり傷程度は負っていたが、ほぼ無傷だった。ヤナギ婆さんの顔は昨晩の恐怖でまだ強ばっていたが、トキは元気そのものだ。ヤナギ婆さんは悟とセトに生きて再会できたことを泣いて喜び、2人を強く抱きしめた。

 「ああ!ガルーダの神よ!2人をお護りくださったこと、感謝します」

 ヤナギ婆さんは、ジンとマキの死を知っているのだろうか。悟は逡巡した。

 「サトル、危険を知らせてくれたのがジンだったんだ」

 悟の心を読んでか、ヤナギ婆さんは悟を見て、ぽつりぽつりと語りだした。


 ー昨晩は、トキが早くに眠くなっちまったから、オラと一緒の部屋で先に寝たんだ。夜中2時頃くらいだか、玄関ドアをドンドン叩く音さして、オラ、目を覚ましたわけさ。玄関の方でジンとマキの話し声さ聞こえたさけ、そっちさ行こうとしたら、ジンが飛んできて、トキ連れて逃げろ、言うて。誰が来たんだって聞いても、ジンは首を横に振るばかりで、とにかく危ないから、って。オラ、2人も逃げろ、って言ったんだけども、大丈夫、後から行くから、って。

 仕方なく、オラ部屋さ戻って、暖炉の種火さ消して。んで、トキを起こして、逃げてきたわけさ。途中でトキが、疲れた、お家帰る、って泣いたんだけんど、お父もお母も後から来るさけ、言うて、なんとかここまで逃げてきただよー


 「ジンとマキを夜通し待ったが、来ねえ。2人はオラとトキさ逃がすために、足止めばしたんだ、とオラは思う」

 最後は泣き声だった。セトは堪えきれず、泣き崩れた。

 「・・・父さんと母さんは駄目でした」

 悟は足下を見つめたまま答えた。

 「そうか」

 ヤナギ婆さんも俯いた。

 「父さんの背中に、爪痕があったんだ。ヤナギ婆さん、何かわかる?」

 ヤナギ婆さんは、目を見開いた。

 「・・・ズマイラの呪い」

 悟もヤナギ婆さんから前に聞いたことがあった。人間の見た目や性格の一部が獣化してしまう呪いだ。

 しかし、大昔に賢者達が呪いを封じ込めることに成功して以来、この呪いにかかった者はいなくなったはずだ。

 「呪いが何かの弾みで解けちまったのかも知れねえ。だとすると、大変なことになっぺよ」

 「どうしたらいい」

 「キルトに賢者様はいねえ。ポエルトまで行けば、ウルマ様って大賢者様がいらっしゃる。その御方にもう一度封印してもらうしか」

 「わかった、ウルマ様ね」

 悟が早速腰を上げたのを、ヤナギ婆さんは手で制した。

 「待て。人の足じゃ3日かかる。『乗り物』さ、これで買うてけ」

 ヤナギ婆さんは首飾りを外し、悟の手に握らせた。

 「爺さんが、結婚の記念にくれたんさけ、こういう遣い方なら、爺さんも喜んで賛成しよるじゃろ」

 悟は、ヤナギ婆さんの手を握り返し、深々と頭を下げた。

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