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シューティング・スター  作者: 白石来
41/41

ー41ー 【おわりとはじまり】

 王が不在となった地下世界に平和が戻った。奴隷や捕虜となっていた人々は解放され、呪いに侵されていた人々は元に戻った。

 人々から感謝と称賛の嵐を浴びながら、悟達は地下世界を後にした。

 地上世界では、ジャンボが妻子と共に迎えてくれた。

 「悟、お前のお陰で妻と子供との時間を取り戻すことができた。地下世界を平和にしてくれた。感謝してもしきれない」

 「ジャンボがずっと戦ってくれたから、僕達も頑張れたんだ。こちらこそありがとう」

 2人は固く握手した。

 「俺の妻のウエンディと、息子のキッドだ」

 褐色の肌をしたモデルのようなスタイルの女性と、ジャンボをそのまま縮めた、ジャガイモみたいな顔の天然パーマ子供が、深々とお辞儀した。

 「これからは、妻子と一緒に地下世界の再建に力を尽くそうと思う。あんな世界でも俺達にとっては故郷だ。みんなが幸せに暮らせる世界になってほしい」

 「ジャンボならできるよ。応援する」

 「ありがとう。達者でな」

 「うん」


 ジャンボ達と別れ、悟はみんなとポエルト一のシーフードレストラン「ボンボヤージュ」で最後の食事をした。

 生牡蠣のカルパッチョに、漁師のきまぐれサラダ、イカとタコのフリッター、蛤のクリームスープ、メインはクジラザメのステーキ。

 みんな、大いに笑い、大いに食べた。ただ、いつもより塩味が強く感じたのは、きっと涙のせいだろう。


 「セト、土御門さん、鏑木さんと僕の4人は、牧場に戻る。他のみんなとはここでお別れだ。みんなと出会えて、一緒に旅ができて、本当に楽しかった。一生忘れないよ。本当にありがとう!」

 悟は声を詰まらせながらも、精一杯明るく振る舞った。

 「悟、みんな、私達の呪いを解いてくれてありがとう。微力だったけど、みんなの役に立てて恩返しができた。私達2人とも少し自分に自信が持てなかったの。でも、この旅で自信が持てるようになった気がする。天上世界に戻るけど、みんな遊びにきてね」

 「ミコ、マコ。2人の治癒力にどれだけ助けられたか。本当にありがとう」

 ミコとマコは、笑顔のまま涙を拭った。2人とも天使そのものだ。

 「拙者は天上世界に戻って、修行をし直すつもりです。みんなと戦って、拙者は逆に自信を失くした。もっと力になりたかった。だから強くなりたい。サトル殿やセト殿のようになれるよう精進します」

 「インロン。君がいなければポリュートの呪いは解けなかった。率先してみんなの楯になってくれた姿は、本当に心強かったよ」

 「そう言ってもらえると嬉しいです。精進します」

 インロンは、涙を隠すために頭を垂れた。

 「あたしは、アメノトリを改装して、地下世界仕様の追加と、収容人数を増やせるようにするつもり。みんなともっと旅したいから、誘ったらちゃんと参加するのよ!」

 「ナギサ、君のアメノトリは最高の船だった。ナギサの武器のお陰で、何度も危機を切り抜けられた。ナギサの誘いを断ったら怖いけど、僕はもうこの世界に来ちゃ駄目だって思ってる。だから、僕とはこれで最後だ」

 「そう言うだろうと思ったけど、そこはファジーでいいじゃん!何でそこまではっきり言うのよ、バカ!」

 「ごめん」

 ナギサは泣きながら怒り、悟に抱きついた。

 「そんなバカなサトルが好きだったよ。サヨナラ」

 悟にそう耳打ちしたナギサは、アメノトリへと走り去った。

 「私は悟とセトへの償いができたのかしら。セトが良ければ、牧場を手伝いたいわ」

 「タイガ、あなたの気持ちは嬉しいけど、もう十分だと思う。あなたの好きなように生きるべきよ」

 タイガの手を取り、セトはそう答えた。

 「僕もセトと同じ意見だ。タイガは僕達の仲間だ。もう仇なんかじゃない。だから、やりたいことをやって欲しい」

 「2人ともありがとう。それなら、やりたいことがあるわ。星降山の復活の手助けをしたい。自然の中に身を置くと、とても落ち着くから」

 「それはいい。絶対にやるべきだよ」

 タイガは微笑んだ。その顔はとても美しかった。

 「ちくしょう、みんなやることあって羨ましいな。俺はウルマ様のところでまた修業の日々だな」

 「アリマ。君とは旅の始めからずっと一緒だった。僕は親友だと思ってる。君と別れるのは本当に寂しいよ。ありがとう」

 「サトル、そういう湿っぽいのはマジでやめてくれ!俺もお前に会えて良かったよ。最高だった。俺・・・俺・・・」

 アリマは声を詰まらせた。

 「明日からどうしたらいいかわかんねえよ!お前がいなくなるなんて嫌だ!」

 アリマは泣き崩れた。

 悟はアリマの様子をしばらく見つめていたが、意を決して声を張り上げた。

 「みんなありがとう!さようなら!」

 アリマは真っ赤な目で悟を見た。

 「くそ!あばよ、サトル!」


 悟、セト、土御門、鏑木の4人は、ヤナギ婆さんとトキの暮らす牧場まで戻ってきた。牧場の小屋には、キウイバードのグリとゴルがいた。宿からヤナギ婆さんが引き取ってくれたらしい。

 「よーく無事で帰っただ!ジンとマキも無事だなんて夢みてえだ!」

 案の定、土御門と鏑木をジンとマキだと信じて疑わないヤナギ婆さんに理解させるまでに、軽く一時間を要した。

 ヤナギ婆さんの落ち込みようは凄まじく、魂を抜かれたようになったが、悟が元の世界に帰ることについては、理解が早かった。

 「サトル、おまえさんを見つけた時から、おまえさんはどこか遠いところから来たんだ、ってずっと思ってたんだ。そうかぁ、本当の親のところに帰れてよかったなぁ」

 ヤナギ婆さんは泣いて喜んでくれた。

 「オラにはセトとトキがいる。サトルがいなくなるのは寂しいけんど、仕方のないことだ。達者で暮らすべよ」

 ヤナギ婆さんは悟を抱きしめてから、しわくちゃの手で悟の両頬に触れた。

 「サトルはオラの家族だ。ずっと忘れねえ」

 「僕もだよ、ヤナギ婆さん」

 悟はヤナギ婆さんの手に、自分の手を重ねた。

 セトはずっと俯いたまま、何か言いたげだ。

 「サトル、あの天文台まで行こう」


 天文台からは満天の星が瞬いて見えた。

 「セト、僕はこっちの世界にいちゃ駄目だと思うんだ。本音は連れて行きたいけど、ヤナギ婆さんとトキの傍にいて欲しい」

 セトは悟を見て、口を開いた。

 「頭では理解してるつもりなの。おばあちゃんとトキには私が必要だし、あなたは家族の元に戻るべき。だから私達は別の世界で生きるしかないんだって。でも・・でも・・・」

 セトの目から涙が零れる。

 「心はあなたを求めてる。ずっと一緒にいたい、って叫んでる。苦しくて胸が張り裂けそう」

 セトは胸の辺りを掴んだ。

 「私が2人に分身できたらいいのに。本気でそう思う」

 悟はセトの手を取った。

 「出逢わなければこんなに悲しい想いをしないで済んだかもしれない。でも、それでも僕はセトに逢えてよかったと思う」

 セトは潤んだ目で悟を見つめる。

 「生まれ変わったら、また逢おう。今度は死んでも離さない」

 「・・・分かった。約束」

 2人は指切りした。

 「・・・渡したいものがあるの」

 セトはポケットから、流れ星のネックレスを取り出した。

 「サトルがくれたのと同じ物を、地球屋で探したの」

 抱きつくように、ネックレスを悟に付けた。

 「私の事、絶対に忘れないでね」

 「絶対に忘れないよ」

 2人は口づけをし、抱きあった。


 家に戻ると、土御門と鏑木が待っていた。

 「これ以上は待てない。向こうの世界でみんなが待っている」

 土御門の冷静な声が、逆にギリギリまで待ってくれていた事を悟に気づかせた。

 「・・・分かりました。帰ります」

 土御門がプロビデンスで岸と交信し、悟達3人は元の世界へと戻った。


 岸は神妙な顔で切り出した。

 「悟くん。今回は本当に申し訳なかった。それに、我々の世界を救ってくれて、本当にありがとう」

 「もういいです。お陰で貴重な体験ができました」

 「君が我々の世界を救ってくれたように、今後はこちらの世界の役に立つことをしたいと思っているよ」

 「それは嬉しいです。お願いします」

 岸は、土御門と鏑木に連行された。


 日下家に日常が戻ってきた。帰ってきてから数日は、両親も姉も異常に優しく、悟が戻った喜びを噛み締めていたが、一週間もすると元通りの家族に戻っていた。

 「悟、テレビ消して、戸締りしてよね!昨日、私が帰ったらテレビつけっぱなしで、泥棒でもいるかと思ってびっくりしたんだから」

 「へいへい」

 「ハイは一回!」

 「へーい」

 バタバタと深月が登校していく。

 悟はぼーっとテレビから流れるニュースを眺めていた。

 「速報です。新興宗教「全能教」の教祖、覚東出水容疑者(16歳)が、収容されている少年刑務所内で死亡しました。死亡の原因は現在調査中です。覚束容疑者は、昨年、東京タワーとスカイツリーに毒物を撒き、100人を超える死傷者を出した事件を首謀した疑いで逮捕されていました。

 次のニュースです。東京都中央区在住のフリーライター、岸輪久容疑者(年齢不詳)が、未成年者誘拐の容疑で逮捕されました。警視庁は余罪の可能性があるとして引き続き捜査しています」


 悟の高校が冬休みに入り、空研恒例のスキー合宿が行われ、悟も参加した。

 後ろのリフトに乗っている真琴先輩が、拓海からのアプローチが激しくてウザイ、と言う話を美琴先輩と話している。拓海がこの場にいなくて良かった、と悟は思った。

 夕食の後、無性に星が眺めたくなって、ホテルの近くを散歩していると、偶然瀬戸に出くわした。

 「瀬戸、寒くないのか?カーディガン一枚じゃん。僕のコート貸そうか」

 「いい。寒くない」

 「ならいいけどさ。何で外にいたの?」

 「私、目が悪いから。星を見ると視力が回復するって聞いてから日課にしてるの」

 そう言って、瀬戸は眼鏡を外した。

 そこにはセトがいた。悟の胸は早鐘を打ち始めた。

 「あっ」

 夜空を眺めた2人は同時に流れ星を見て声をあげた。

 悟は流れ星に願った。



 完



 この物語は、青年活動支援団体「リンク財団」会長の岸輪久が晩年に語った記録、土御門警視総監とその妻、真希夫人、日下悟からのインタビュー等を基に執筆した。

無事完結しました!

最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございます!

ダメ出しでも何でも結構ですので、感想もらえたら嬉しいです。

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