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シューティング・スター  作者: 白石来
40/41

ー40ー 【異世界~火の鳥】

 ガクトは蜘蛛の前肢で、使い物にならなくなった自身の手足をもぎ捨てた。

 蟲でも哺乳類でもヒトでもない、異形の物に変わり果てた姿には、王としての気品や高潔さはなく、ただただおぞましさだけがあった。

 「僕は不死身だ。君達もすぐ僕の中に取り込んでやろう」

 真黒な翼をはためかせ、ガクトは宙を舞った。

 口から何か吐き出す。それは、ベトベトしていて頑丈な蜘蛛の糸だった。

 悟達は糸でぐるぐる巻きにされてしまい、身動きが取れない。

 ガクトは口角が裂けるほどの大口を開けたまま、悟達に迫る。

 「さようなら、楽しませてもらったよ」


 全員が諦めかけたその時、一羽の火の鳥が、マグマの中から飛び出してきた。

 火の鳥は、鋭い脚の爪でガクトの身体を掴み、嘴で首を咥えたまま、天井を破り、天高く飛んだ。二体はみるみる小さくなり、豆粒のようだ。

 「きっと、ガルーダの神が助けに来たんだわ!」

 セトが興奮して叫ぶ。

 鏑木が朱の玉を使って糸を焼き切り、ようやく悟達は解放された。

 「放せ!何者だ!」

 ガクトが遥か上空から叫んでいる。悟達はただ状況を見守るしかない。

 「私だ、ガクト」

 火の鳥から老人の声がガクトに向けて発せられた。

 「知らないぞ」

 「まあ、私が一方的にお前のことを知っているだけで、接点はほぼなかったから、当然だな」

 「誰だ」

 「私の名はプロノス、お前の兄だよ」


 ー私は一人っ子として育てられたが、大賢者となってシグマ王に雇われる際に役所から戸籍謄本などの書類を取り寄せた時に、自分に二卵性の双子がいたことを知った。

 既に両親とは疎遠になっていたから、双子の弟のことを隠していた理由はもはや知る由もないが、同姓同名の賢者がシグマ王に雇われていることが分かり、私は一方的に調べた。その賢者がお前、ガクトだ。

 「封印大戦争」の時、お前はズマイラの呪い封じチームの一員として、戦いに参加していた。

 今思えばあの時、お前は呪い封じに参加しながら、逆に呪いの魔力に取り憑かれたんだな。

 戦争が終わり、お前は忽然と姿を消した。そして、次に現れた時、お前は別人のような若者の姿で、地下世界の王になっていた。

 姿が変わっても、私にはお前が弟だと分かる。何故なら、シグマ王を遠征先で暗殺したのがお前であること、そして、その暗殺は、お前が「取り込んだ」ことによるものだと、私が突き止めたからだ。

 私は、お前が世界を呪いで滅ぼす予知夢を見た。そして、この世界を救う人間が、こことは別の世界から連れてこなくてはならないと知り、4人のサトルを巻き込んだ。私は、この件に自分なりのけじめをつける。私もお前も、背負い難い罪を背負った老いぼれなんだ。この辺が潮時だろう?ー


 火の鳥の翼はガクトを覆いつくし、業火の如く、ガクトを焼き尽くした。


 火の鳥の正体は、自らの命と引き換えに相手の肉体を焼き尽くす、プロノスの最終奥義「ガルーダ」だった。


 空から真黒な塊が落ちてきた。それは、黒焦げになった、ガクトの頭だった。

 頭だけのガクトが悟に尋ねる。

 「君は異邦人だったのか。この世界を救う道理は、一体どこにある」

 「道理はある。異邦人の僕をこの世界のみんなは助けてくれた。仲間に入れてくれた。だから助けたいと思った。ただそれだけだよ」

 悟の言葉が届いたかは分からなかったが、ガクトはそのまま事切れ、灰と化した。

 「こいつは仲間を信じられなかったんだ。四天王も、ブイブイもポポも、こいつの事を信じて疑わなかったのに」

 悟はガクトのために泣いた。

 セトは言った。

 「ガルーダは元々牛飼いの青年で、疫病から皆を救いたい一心で火の鳥になり、病を炎で焼き尽くしたそうよ。私達がガルーダの神を信じるのは、ガルーダがすべてを信じ、決して諦めない心を持っているから。ガクトは、自分を神だと思い込んだことで、周りが見えなくなってしまったのかもしれないわね」


 ガクトを焼き尽くした火の鳥は消え去り、プロノスは魂となって天に召されていく。プロノスは、宙から悟の後ろ姿を見た。首に3つの痣を持つ少年の姿は、まさに予知夢で見た少年だった。

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