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シューティング・スター  作者: 白石来
39/41

ー39ー 【異世界~第三の眼】

 「・・・お父さん!お母さん!」

 セトの目から大粒の涙が溢れ落ちた。


 そこにいるのは、本当にジンとマキだった。少なくとも悟には、否定する根拠が見当たらなかった。

 悟も目頭が熱くなる。2人を埋葬した日が、遥か昔の出来事に感じた。

 「生きてた、ってことだよね?」

 悟の問いに、意外な答えが返ってきた。

 「悟くん。私は警視庁の土御門だ」

 「えっ?」

 悟とセトは同時に声をあげた。

 確かに通信の声とよく似ている。しかし、ここまで瓜二つとは、偶然の領域を越えている。

 「私は、警視庁の鏑木よ。ごめんなさい、何か勘違いさせてしまったみたい」

 「いえ、いいんです・・・」

 「すまんが説明は後だ。とにかく奴を倒すことに集中しよう」

 土御門の言葉で我に返る。振り向くと、ガクトは10m程の距離まで迫っていた。

 「驚いたな。時空を操れるのか?僕の『ラウム・ツァイト』とも違うみたいだけど」

 好奇心からか、興奮気味にガクトが土御門に話しかけた。

 土御門はガクトの問いかけを無視し、代わりに鏑木が前に出た。

 「ご想像にお任せします」

 ガクトは土御門達の対応に不満げだったが、すぐに話を切り替えた。

 「ところで、招かねざる客のお二人、自己紹介くらいしてくれるんだよね」

 ガクトは品定めする目だ。

 「私は鏑木、こっちは土御門です。2人とも治安を守る組織に属していて、今回はあなたの討伐が目的です」

 「治安を守る?どこの組織か知らないが、地下世界の治安は僕が王になってから乱れてなどいないよ」

 「それはあなたの勝手な思い込みだわ。治安は乱れきっているのよ、あなたのせいで」

 ガクトは苛立ちの表情を見せた。

 「なるほど、随分な物言いだね。僕のやり方に意見するわけだ」

 「力で民を押さえつけるあなたのやり方は野蛮だわ。民の幸福を実現してこそ、王と呼べるのよ」


 議論が加熱していくのを、悟は冷や冷やしながら見ていた。

 「土御門さん、鏑木さんに任せて大丈夫ですか?奴を逆上させかねませんよ」

 小声で土御門に尋ねる。

 「彼女は犯罪心理学のエキスパートで、ネゴシエーターとしての経験も豊富だ。任せて問題ない」


 「僕は皆を幸福にしているよ。僕の身体には、これまで何万という民が取り込まれてきた。彼等は僕と共に、永遠の平穏を約束されたわけだからね」

 鏑木は鼻で笑った。

 「呆れて物も言えない。あなたが若さを保っているのは、民を取り込んできたからなのね。彼等はあなたと共に生きてなんていない。単にあなたに消費されただけよ。そうやって消費し続けた先に何があるの?一人ぼっちになっても自分を王と呼ぶなんて滑稽だわ」

 「僕は王ではなく、世界そのものになるのさ」

 「夢物語をいつまでも語ってらっしゃい。みんな、目を瞑って!」

 鏑木が突然叫び、自身も目を閉ざした。


 次の瞬間、眩い光がガクトの目を貫いた。光線は土御門の掌から発射されている。

 警察官である土御門にこんな能力があることに、悟達は驚いた。

 土御門は肩で息をしており、相当なエネルギーを費やしたようだ。鏑木の交渉は、土御門が光を発射する力を溜めるまでの、単なる時間稼ぎだったのかもしれない。

 「ぐあぁぁぁぁぁ!!」

 光をまともに浴びたガクトは、両手で目を覆い、その場に踞った。

 「岸から一定の情報は得てきた。奴が目を使って相手を支配するらしいと聞いて、私のこの力を使うことを思いついた」

 「土御門さん、あなたって一体?」

 悟が尋ねる。

 「私の真の姿は陰陽師なのだ。陰陽道継承者としての肩書を買われ、今の職に就いている」

 陰陽師。漫画の世界の職業だと思っていたが、現代にまで継承されていたとは。悟は光線を見てもなお、俄には信じられなかった。


 「・・・不覚」

 ガクトは手探りで立ち上がった。

 「両眼とも失明したか。まさかこの力を使う時が来るとはね」

 そう言うと、ガクトはこめかみに青筋を立て、いきみ始めた。

 「ぐむむむむぅぅぅぅぅぅ」

 ギリギリと歯軋りを立て、奥歯がミシミシと悲鳴をあげている。

 「ぐあぁぁぁぁぁあ!」

 叫び声をあげたガクトの額が割れ、第三の眼が現れた。

 「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ」

 ガクトの髪は乱れ、呼吸も荒くなった。

 第三の眼は、光彩が青く、瞳孔は普通の眼より極端に小さい。瞼はなく、前面に飛び出していて、不気味な印象を与えた。

 「よく見えるぞ」

 青い眼をギョロギョロさせて、ガクトは笑った。

 「この眼の最初の餌食は誰かな」

 ガクトは青い眼から青白い閃光を放った。閃光は悟に向かっていく。

 悟の黄金の玉が光り、岩の楯を創った。閃光は楯に弾かれ壁に穴を開けた。

 壁の穴は、ドロドロと腐ったようになっている。岩の楯も同様に、腐って崩れ去った。

 「悟くん!みんなも、私のうしろに隠れろ!」

 土御門が叫ぶ。悟達は慌てて指示に従った。

 「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女!」

 九字切りを素早く念じて手印を結び、土御門は結界を張る。ガクトは続けざまに眼から閃光を放つが、結界がそれを阻んだ。

 「いつまで持つかな」

 ガクトは攻撃の手を弛めない。徐々に結界に綻びが出始め、ついに土御門の耳の先が閃光に触れて腐り、血が噴き出した。

 「・・・っ!」

 精神の集中が途切れ、結界が大きく歪む。

 「しまった!」

 土御門は慌てて九字切りをやり直す。

 「遅い!」

 ガクトの眼が光った刹那、ガクトに金色の砂が降り注いだ。悟が駄目元で黄金の玉を擦って湧いた砂が、風に乗って舞ったのだ。

 眼に砂が入り、ガクトは痛みから思わず眼を押さえ、屈みこんだ。

 「今だ!」

 土御門の声を合図に、全員が一斉にガクトへ向かって走る。

 土御門は「犬神」を召喚してガクトに取り憑かせた。

 「()()

 土御門が号令をかけると、ガクトの手足は固まり、身動きが取れなくなった。

 鏑木は、ナギサの機関銃から外れた朱の玉を拾い、ガクトの両脚を焼いた。

 悟は、黄金の玉を使って拳を岩で纏い、ガクトの両腕を殴りつけた。

 最後に、セトが風迅雷刃斬をガクトの第三の眼に叩き込んだ。

 「ぎゃあああああああああ!!!」

 ガクトの額は割れ、第三の眼は血を噴いた。そのままうつ伏せに倒れこみ、四肢はだらりと垂れた。

 どこからともなく、ポポとブイブイが現れた。おそらく隅に隠れて様子を窺っていたが、いよいよガクトが心配になったのだろう。二匹は、こそこそとガクトに近寄った。

 ガクトが顔を上げ、二匹を認識した直後、ガクトは素早く口を開き、一気に二匹を口に含んだ。

 そのままボリボリと音を立て、骨ごと咀嚼し呑み込む。すると、背中がメキメキと音をあげて裂け、蝙蝠の翼と蜘蛛の足が生えた。

 ガクトは高笑いした。

 「実にいいところに来た!誉めてつかわすぞ!」

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