ー38ー 【異世界~渦の奥】
「あいつの目には恐ろしい力があるみたいだな」
アリマが呟く。
「私達が行く。二手に分かれて攻撃すれば、目を見れないはず」
ミコ・マコは、左右に分かれて飛び立った。
ガクトは、両手から暗い渦のようなものを出現させ、宙に浮かべた。
徐ろに渦に腕を突っ込む。すると、ミコ、マコの脇からも同じ渦が出現し、2人は喉輪を掴まれて、渦の中に引き摺り込まれた。
渦から腕を引き抜くと、ガクトの両手はミコ・マコを捕らえていた。
「何が起きた!?」
自分の目で見た光景すら疑わしい。
「目を見るな!」
再び悟が叫ぶが、ミコ・マコの耳には届かなかった。
ガクトは2人の顔を無理矢理引き寄せ、目を合わせた。
「妹のくせに目立ちやがって!目障りなんだよ!」
どうしたのミコ?私達いつも一緒でしょ?
「可愛い子ぶってるのが鼻につくのよ!ああ忌々しい!こうしてやる!」
やめて、ミコ!苦しい!苦しいってば!
「ミコって、双子なのになんでいつもお姉ちゃん面なの?何でも仕切りたがって、うんざりなんだけど」
マコ、いきなり何?私、そんなつもりないわ。
「自分だけ良い子ぶりやがって!ああムシャクシャする!あんたなんてこうよ!」
やめて、マコ!やめてったら!苦しい!
ミコとマコの手足が、だらりと力なく垂れた。ガクトは首に食い込んだ両手を開き、2人は合わせ鏡のように倒れた。
「くそっ!」
アリマは歯を食い縛り悔しがった。
「双子の天使、ミコくん、マコくん。せっかく飛べなくしてあげたのに、懲りない子達だ。さて、残り4人。もう目は見てくれないかな。戦法を変えよう」
ガクトは、先刻の渦を次々に生み出し、部屋の各所に点在させた。
「あの渦は空間を越えて繋がっているみたいだ。渦の近くには近づかない方がいい」
悟が分析する。
「そうだ。四天王から手に入れた玉、1つずつ持っておこう。役に立つかもしれない」
セトが白、アリマが蒼、ナギサが朱、悟が黄金の玉を手に取った。
渦の奥には、奈落の如き深い闇が広がっている。
ここへ手を突っ込むなんて、想像するだけでもぞっとする。こんなものを生み出し、いとも簡単に手を入れるガクトは正気ではない、と悟は改めて思った。
ナギサは、機関銃の弾を抜き、朱の玉を嵌め込んだ。
ガクトはあの渦を通じて攻撃してくる。つまり、渦を攻撃すればガクトへ通じる、ということだ。
10数個ある全ての渦に向かって、ナギサは火焔砲を発射する。
気付いたガクトは渦を閉じようとしたが一足遅く、背中の渦から火焔砲をしたたかに浴びた。
「ぐうぅ。小癪な」
初めてガクトから笑いが消え、苦悶の表情が浮かぶ。
が、次の瞬間、ナギサの眼前にガクトが迫っていた。渦を通過し、ショートカットしてきたのだ。
ナギサは驚き、思わずガクトの目を覗いてしまう。
「あと3人」
ナギサは崩れ落ち、ガクトには笑みが戻っている。
「ナギサくん。創意工夫溢れた君の戦いぶりには感心させられたよ、ありがとう!」
そう言うと、ガクトはナギサの腹を蹴りあげた。
「そこまでだ、ガクト!」
アリマは、ゲンムを倒した「爆縮」を、マグマの熱で再現しようとしていた。
「いけー!」
右手から水素、左手から酸素を、マグマに向かって投げる。
「そうはいかない」
ガクトはマグマの前に渦を生成し、水素と酸素は熱に反応する前に渦に飲まれてしまった。
「君はアリマくん。いい賢者に成長したね。ただ、まだまだ経験が足りていないようだ。例えば、」
ガクトは、マコの髪を掴んで宙に浮かせ、マグマへと近づけた。
「やめろ!」
思わず、アリマが叫ぶ。
「例えば、恋愛経験とかね。どうする?まだ僕とやるかい?」
「卑怯者!」
アリマは歯を食い縛り、ガクトを睨み付けた。
「僕1人相手に、よってたかって虐めていたじゃないか。こんな真似でもしないとフェアじゃないからね」
アリマは蒼の玉を投げ捨てた。
「・・・降参だ。マコちゃんを助けてくれ、頼む」
「僕も一介の王だ。降参した相手に追い討ちはかけないよ。この子は殺さずにおこう」
ガクトは壊れた玩具を捨てるように、マコを床へ放り投げた。
「あと2人」
その時、悟とセトの後ろでドスンと物が落ちる音がした。
振り返ると、そこにはジンとマキがいた。




