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シューティング・スター  作者: 白石来
37/41

ー37ー 【異世界~目の奥】

 通信を終えた悟は、少し苛ついていた。下手に出た聞き方から、逆に悟への信頼の無さが透けて見えたからだ。見返してやりたい、悟の自尊心がそう叫んだ。


 ようやく崖の迷路を抜けることができた。眼前には湿地帯が広がり、その先に、ガクトが住むという、活火山のテロス山がそびえていた。

 「活火山に住んでるなんて、ガクトって野郎は相当な変人だぜ」

 アリマが山を見上げて言う。

 確かにその通りだ。テロス山からは、オレンジ色のマグマが噴き出し、山肌を赤黒い溶岩が流れていく。

 その光景は自然の脅威そのものであり、人間が立ち入る隙を与えていない。


 山の麓まで辿り着いた。

 草木は溶岩によって燃え、灰と化していた。

 ごつごつとした岩に掴まりながら、山を登りはじめる。

 川のように流れる溶岩が行く手を幾度も阻んだ。悟は白の玉を使い、溶岩を冷やし固めながら、道を切り拓いて進んでいった。

 半日かかって、何とか山頂まで辿り着いた。山頂は巨大なカルデラが形成されており、マグマが噴き出す噴火口の上空に、城が浮かんでいる。

 「拙者が城まで飛びます。乗ってください」

 「私達も運ぶわ」

 インロンとミコ・マコの手を借り、城内へと入った。


 漆黒の巨大な門を開くと、吹き抜けのあるロビーに出た。

 正面には大きな階段があり、最上階まで続いているようだ。

 吸い込まれるように、悟達は階段を上っていく。

 悟は、一段上る毎に、重力が増すような圧迫感を感じた。この上にガクトがいるからなのだろうか。

 階段を二度折り返し、4階の最上階まで上った。

 正面に正門と同じ漆黒の扉がある。おそらく王の間だ。

 ゆっくりと扉を開く。4階全てがひとつの部屋になっているのでは、と思うほど広大な部屋だ。部屋の中央には穴が空いていて、穴から定期的にマグマが噴き出している。部屋の一番奥には、ガクトが鎮座していた。

 部屋は壁紙から床のカーペットから、全てが血のような赤に統一されていた。

 真っ赤な部屋に鎮座するガクトは、古い貴族のような金糸の装飾が施された黒いタキシードを身につけ、肘置き付の白い椅子に腰かけている。

 雪のような白髪だが、歳は二十代に見える。ガクト王政になってから既に20年以上経過しているため、何かカラクリがあるに違いない。

 ガクトはゆっくりと立ち上がり、ハキハキした声で語りだした。

 「諸君、我が城へようこそ。よくここまで来たね。それだけでも十分称賛に値するよ」

 ガクトは三度、拍手した。拍手の音が部屋に反響する。

 「お前に誉められるためにここまで来たんじゃない」

 悟はガクトを正視して、答えた。

 「君がサトルくんか。なかなかいい目をしているね」

 100メートルほどの距離を挟んで、2人は向き合った。

 「僕は退屈が嫌いなんだ。さっそくはじめよう」

 ガクトは手招きし、悟達を挑発した。

 「サトルさんの手は煩わせない!拙者が相手だ!」

 インロンは龍に変化すると、離れたガクトに向かって飛び出した。

 一瞬でガクトの目の前まで迫り、口から銀の粉を撒き散らす。

 「拙者の体内で生成した猛毒だ。吸い込めば、全身が痺れて動けなくなる」

 「君がインロンくんだな。毒が効かない体質だから、こういう芸当もできる訳か。だが、覚えておくといい。自分だけが特別な存在だと思うのは、驕りというものだよ」

 「何!?」

 インロンに顔を近づけ、ガクトは目の奥を覗き込んだ。

 「うあああああああああ」


 目を覗き込まれた刹那、インロンの前に、悟達が現れた。皆、侮蔑的な目をインロンに向けている。

 「インロン、君は使えないからもう用済みだ。さよなら」

 「俺は初めからこいつは信用ならないと思ってたんだよ」

 「あたしも。龍ってガサツで生理的に無理」

 「わかる!顔がイケメンで騙されたけど、体臭も酷いわ」

 「実は、龍族とは付き合っちゃいけないって、親に言われてたの」

 「インロンくん、私からも言わせてもらうわ。あなたのこと、大っ嫌い」

 どうして?これまで役に立ってきたじゃないか。話を聞いてくれ。拙者がガサツ?嫌い?龍族を汚さないでくれ!・・・


 龍から人の姿に戻り、インロンは気絶して、床に転がった。

 一瞬の出来事に、悟達は何が起きたか把握できなかった。

 「よくも!」

 タイガが四肢をバネのように使い、ガクトへ飛びかかった。

 鋭い爪をガクトへ振りかざす。

 「今度はタイガくんだね。ズマイラの呪いが解けたのに獣化されたまんまで可哀想な人」

 ガクトは後ろへ下がり、タイガの爪を避ける。

 「君以外にも罪を犯した人は沢山いるでしょう?君はいつまで償っているつもりなの?」

 「あなたを倒すまでよ!」

 避けられた右腕を振り下ろす力を利用して、身体を回転させ、左の爪をガクトの顔目掛けて振り下ろす。

 爪がガクトの頬をかすった。血の色のカーペットに、同色の血が滴り落ちる。

 「やるね」

 ガクトは微笑み、タイガの髪を掴んだ。ガクトがタイガの目を覗く。タイガは思わず目を合わせた。


 「牛はやれん、と言ったじゃあないか」

 見覚えのある髭の男。目が落ち窪み、顔に血の気がない。

 「こいつが大切な牛を殺したのよ、あなた」

 髭の男の妻みたい。この人も見覚えがある。

 そうか、キルトの先で牛をごねた夫婦だ。私が殺してしまったんだ。

 許して。呪いのせいだったの。

 「だめだ。罪を償え」

 髭の男と妻がタイガの首を絞める。

 苦しい。やめて。ごめんなさい。

 「そうだ、殺せ」

 「地獄へ落ちろ」

 いつの間にか、今までに殺した人達に囲まれている。

 お願い、許して・・・


 「タイガ!」

 タイガも気を失い、その場に倒れた。

 「あいつの目を見ちゃだめだ!」

 悟が叫ぶ。

 一瞬で2人が倒され、全員の顔に恐怖の色が走った。

 「さて、次は誰かな」

 不敵な笑みを浮かべ、ガクトは首を鳴らした。

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