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シューティング・スター  作者: 白石来
36/41

ー36ー 【現実世界~猶予期間】

 悟達との通信を終えてからの一週間は、土御門が生きてきた人生で最も長い一週間だった。


 鏑木は悟の両親に、捜査は着実に進展しているが、最後の詰めに手こずっており、もうしばらくの時間が必要である、と説明し、なんとか収めることができた。

 「悟は生きているんですね」

 悟の両親が尋ねた質問はそれだけだった。鏑木は、もちろんです、と答えた。

 「あの・・・」

 姉の深月が、やつれた顔で口を開いた。

 「何?」

 鏑木が優しく応える。

 「私が弟の為にできることはありませんか。いてもたってもいられなくて」

 深月は、泣きそうな顔で鏑木を見た。

 「悟くんを信じて待っていてあげて。必ず、私達が悟くんを連れ戻すから」

 「・・・分かりました」

 鏑木の胸に、熱く込み上げるものがあった。


 鏑木にも弟がいた。弟が小学3年生で、鏑木が中学1年生の時、弟に窃盗容疑がかかったことがあった。

 顛末は、いじめグループの1人が、いじめの対象の子の携帯ゲームを盗み、弟のランドセルに入れたのだった。

 小学校の先生も、両親も、はじめは弟を疑い、謝らせようとした。弟は肯定も否定もせず、ただ口をつぐんでいた。弟は頭ごなしに犯人扱いされたことに抵抗していたのだ。

 そこに、女性警察官が来て、弟を聴取した。

 「私はあなたの味方よ。犯人逮捕の協力を、あなたに要請するわ。あなたが知っていること、教えてもらえるかしら」

 女性警察官が弟に話しかけた内容に、鏑木は驚いた。警察こそ、端から人を疑う人種だと思っていたからだ。

 弟は重い口をようやく開き、状況をつぶさに話しだした。女性警察官は、弟に目線を合わせ、真剣な表情でメモを手帳に書き留めている。

 その女性警察官を見て、鏑木は警察官を志したのだった。


 土御門は、あちらの世界について、情報を岸から詳細に聞き込み、悟の状況把握に努めた。

 また、プロビデンスの操作方法を岸に詰問したが、プロビデンスの操作は、賢者の修行を積んでいるような人間でなければ難しいらしく、土御門は断念した。


 そして7日目の夜9時、リミットまではあと3時間あるが、土御門は岸に悟への通信を依頼した。あちら側は、リミット前日の夕方の筈だ。

 こちらからの問いかけからしばらくして、悟から応答があった。

 「悟です。リミットは明日の筈ですが」

 冷静な声だ。土御門は自らの焦りを見透かされたような気がした。

 「すまない。期限間近になったがそちらから連絡が無かったから、少しだけ心配になってね。状況はどうかな」

 自分でも嘲るほど卑屈な声が出た。

 「後は、呪いの元凶である、ガクトを倒すのみです。必ずやり遂げます」

 悟の声は自信に溢れていた。これまでの経験が彼を確実に成長させたのだ。

 「そうか。ガクトを倒したら必ず連絡してくれ。ご家族は君の帰りを心待ちにしている」

 「分かっています。必ず連絡します」

 「待っている」

 土御門は通信を終えた。悟の声を聞いて少し安心したが、焦りは完全には消えてくれなかった。


 そこからの3時間は、1分1秒が気が気ではなく、土御門は、煙草を咥えては揉み消しを繰り返し、あっという間に2箱が空になった。

 残り30分を切り、土御門は我慢の限界を迎えた。

 「岸、悟からの連絡はまだか!どうなっている!」

 八つ当たり気味に、岸に食ってかかる土御門を、鏑木がなだめる。

 「所長の気持ちは私も同じですが、岸も我々と状況はほぼ同じです。岸には、悟くんの現在の状況までは分かりませんよ」

 「そんなことは分かっている!」

 土御門は壁を拳で叩いた。

 「岸、俺をあっちの世界に送ってくれ。もう待つのは限界だ」

 「無茶です。責任が持てません」

 岸は、土御門に気圧されながらも、なんとかそれだけ反論した。

 「そうです所長、無茶ですよ」

 鏑木も同意し、岸はほっとした。

 「1人で行くなんて無茶です。私も行きます」

 鏑木の目は据わっていた。

 岸は、内心狂っていると思ったが、口には出さなかった。

 「お前が来る必要はない。俺だけで充分だ」

 「いえ、所長は今、冷静さを欠いています。私のサポートが必要です」

 「冷静さを欠いている、だと?私は常に冷静沈着だ。取り消せ、鏑木」

 「拳を見てください。血が出てますよ」

 土御門は拳を見た。壁を殴った時に傷つけたのだろうが、全く気がつかなかった。

 「悟くんのお姉さんに、必ず連れ戻す、と約束したんです。ここでただ指を咥えてはいられません」

 岸から見れば、2人とも常軌を逸していた。しかし、悟くんに対する熱意は、紛れもない本物だった。

 「分かりました。お二人をあちらへ送ります。くれぐれもお気をつけて」

 土御門と鏑木は頷いた。

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