ー35ー 【異世界~ゲンム】
「この北地区まで来たということは、スザク、ビャッコ、セイリュウの3人が倒されたということ。この怨み、晴らさでおくべきか!」
ゲンムの声が、空気をビリビリと震わす。抑えきれない怒りが伝わってくる。
「儂が相手になるからには、貴様らは終いだ。ガクト様には指一本触れさせぬ」
鎧の奥の目が鋭く光る。ゲンムは、先に分銅が付いた鎖を振り回しはじめた。分銅が壁を擦ると、壁が脆く崩れ去った。人間に当たれば、壁と同じく骨を砕くだろう。
「この狭い空間では、儂の鎖を避けられまい!」
ゲンムは鎖を無数に放った。鎖が壁や地面にぶつかり、反射しながら、逃げる隙間なく悟達に襲いかかる。
龍に変化し、楯となったインロンの身体に分銅が突き刺さる。さすがのインロンも苦痛の声をあげた。
「サトル、あれ貸してくれ」
アリマは、悟から蒼の玉を受け取り、ゲンムに向けた。
「インロン、伏せろ!」
蒼の玉から、滝のように水が噴射され、インロンの頭を通過し、ゲンムを襲った。
「どうだ?」
ゲンムはびしょ濡れになったが、微動だにせず立っている。
「馬鹿にしてるのか?まず貴様から殺すぞ」
滴る水が、焼けた分銅に落ちて蒸発する。その様子を見て、悟は閃いた。
「アリマ、ちょっと耳貸して」
悟の説明が理解できず、アリマは首を傾げた。
「まあ、悟の言う通りやってみるけどよ。しばらく時間稼いでくれよ」
アリマは蒼の玉に両手を当て、精神を集中させはじめた。
「みんな、アリマに協力してくれ」
悟の声に、全員が反応する。
ミコ・マコは、翼の羽をゲンムへ矢の如く放つ。
インロンは、翼を羽ばたかせて風を起こし、ゲンムのバランスを崩す。
ナギサは漁業用の網を投げ、鎖の威力を軽減させる。
タイガとセトは、網を抜けた分銅を蹴りや突きで払い落とす。
悟は、白の玉で氷柱の楯を作り、朱の玉で鎖を焼き切る。
「小賢しい真似を!」
ゲンムは苛立たしげに吠えながら、さらに鎖を増して攻撃してくる。
「そろそろ限界よ!アリマ!」
ナギサが叫ぶ。
「みんな、ありがとよ」
アリマは蒼の玉から放した、何も持っていない両手を、ボールを投げるように振りかぶった。
「?」
ゲンムは拍子抜けした顔だ。
悟はタイミングを見計らい、朱の玉を放り投げた。
「みんな、伏せろ!」
同時に、大爆発が起こった。伏せた悟達の背中に、岩の破片が降り注ぐ。爆発が止み、破片を払いながら身体を起こすと、ゲンムは跡形も無く砕け散り、黄金の玉だけが残されていた。壁に変化したガジャ達も砕け散っており、爆発の凄まじさを物語っていた。
「一体何がどうなったの?」
セトがアリマに尋ねる。
「いや、俺もよくわからん」
アリマは悟を見た。
「『爆縮』だよ」
全員の頭の上に、「?」が浮かんだ。
「アリマに、蒼の玉の中の水を、水素と酸素に分けて、取り出してもらったんだ。そこに朱の玉の炎と反応させた。そうすると、水蒸気が生成される時に、物凄いエネルギーが発生して、爆発が起こるんだ。化学の実験でやったのを、偶然思い出した」
悟の説明を聞いても全員よく分からなかったが、ゲンムを倒したことは理解できた。
「後は、ガクトを倒すのみ、ね」
タイガが噛み締めるように言った。
「遂にラスボスか。気合い入れ直さないと」
アリマが自らの頬を平手打ちする。
「あんたは普段の気合いが足らないから、丁度いいわね」
「何をー!」
ナギサの茶々に、アリマが反応する。
最後の戦いを前に、全員が昂りを感じていた。その時、プロビデンスに着信があった。




