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シューティング・スター  作者: 白石来
33/41

ー33ー 【異世界~セイリュウ】

 広場の先の細い通路を進むと、ビアンコ鍾乳洞の裏出口があった。寒い暗闇から暑く明るい外に突然晒され、身体がついていけない。

 しばらく緑道を進むと、中華街の入口にあるような赤い門が見えてきた。

 「ここ、東地区かも。私の先生が昔、東地区で修行したことがあって、こんな街だって聞いた覚えがあるわ」

 セトが門を眺めて呟いた。先生?確かに、農作業の合間にキルトへ習いごとに通っていたようだが、悟は詳しく聞いたことがなかった。

 門を過ぎると、通りの店々から、美味しそうな匂いが漂ってくる。肉を焼く香ばしい匂い、点心を蒸す匂い、野菜を炒める匂い、どれも食欲をそそられる。

 店の軒先には、灯籠が吊るされ、何やらめでたそうな文字が書かれている。

 また、向かいの店同士を繋ぐように紐が張ってあり、爆竹が吊るされている。祝い事の時には、これが一斉に鳴らされるのだろう。

 飲食店街を抜けると、食材や食器などを扱う問屋街に入った。頭を落とされた鶏が吊るされていたり、豚の顔が通路に向けて置かれていたり、少し不気味な雰囲気が醸されている。

 「待って。誰かがこっちを視てる」

 悟は気づかなかったが、セトの他、タイガとインロンも異変に気づいたようだ。

 「拙者と同じ匂いがする」

 インロンは、酒樽が積まれた軒下を睨んだ。

 酒樽の陰から、一匹の青龍が現れた。蛇のような身のこなしで、音もなく近づいてくる。

 インロンも呼応して銀の龍に変化し、鱗を逆立てて威嚇する。

 青龍は渦を巻きながら上空高く昇って消えた。と思うと、一人の老人が、青龍の消えた場所に立っていた。確認するまでもなく、青龍が変化した姿だろう。

 「ワタシ、セイリュウ。四天王の一人アル。オマエ達の「気」を視てた。オマエ達、ワタシ倒しに来た。違うか?」

 片言なのが逆に不気味さを増幅させる。目は落ち窪み、白髪の頭髪と髭が胸まで伸びている。足が悪いらしく杖をついており、歩く度にコツ、コツ、と音を立てた。

 「お見立てどおり、僕達は呪われた世界を救うべく、ここまで来ました。邪魔するというなら戦う所存です」

 悟が毅然と答える。

 セイリュウは大きく頷いた。

 「ガクト様は素晴らしい人。みんな一緒に幸せになれる方法、ガクト様知ってる。それを聞かないは馬鹿な人ネ。馬鹿な邪魔者は殺す。それだけ」

 セイリュウは杖を悟達に向け、杖の先から、極限まで圧力をかけた水の弾を連射した。

 インロンが咄嗟に楯となるが、流れ弾がミコの左翼を貫いた。

 「きゃあああ!」

 左に回転しながら、ミコは倒れこんだ。アリマが急いで駆け寄り、建物の陰へ避難させる。マコが泣きながら、治療を施す。

 「許せない。サトル、私に任せて」

 セトが前に歩み出た。何か策があるのだろうか。

 「あなた、気功を使うのね。奇遇だけど、私も気功の使い手なの。お手合わせ願いたいわ」

 セイリュウは窪んだ目をセトに向けた。

 「ほう。確かに気の流れが他の奴よりスムーズ。いいだろう、かかってきなさい」

 セイリュウが再び水の弾を発射した。セトは、寸前で弾に掌底を打ち込み、軌道を巧みに変えて避けていく。

 「じゃあ、これならどうアル!」

 気を溜めた動作のあと、滝を真横にしたような衝撃波が、セトに襲いかかった。

 「きゃあああ!」

 両手を十字に組んで水の流れに抵抗したが、堪えきれずに流れに呑み込まれる。

 「セト!」

 流れの中で必死にもがくセト。何とか体勢を立て直し、水中から気功砲を放った。

 気功砲は流れを逆流し、セイリュウを弾き飛ばす。

 「ぐおおっ!」

 セイリュウは背後の壁に叩きつけられた。

 セトは高速回転を始めた。周りに竜巻が発生し、竜巻と同化したセトが、セイリュウの身体を、かまいたちの如く八つ裂きにする。

 「しっ ぷう  えん げき !!!」

 「ぐあああああああああ!!!」

 セトの技が決まった。セイリュウの四肢が切り裂かれ、血が噴き出す。杖を頼りに、立つのがやっとのようだ。

 「ヤルネ、お前。ワタシも本気出す」

 セイリュウはおもむろに、軒下の酒樽を抱え、一気に飲み干した。顔は真っ赤に上気し、千鳥足になっている。

 「がはははは!ワタシの本領、ここからネ!」

 足を肩幅より開き、腰を低く落とす。両手広げた後、素早く溝尾で印を結ぶと、指の間から煮えたぎる熱湯が湧き上がった。

 「ばく  しょう すい けん !!!」

 熱湯が渦を巻き、うねりながらセトを襲う。直撃すれば全身火傷し、戦闘不能は免れない。

 悟が白の玉を投げた。放物線を描き、熱湯の中に玉が飛び込む。

 途端、玉の辺りが凍りつき、あっという間に、熱湯が氷の柱に変わった。

 「行け!セト!!」

 悟の声に応じるようにセトは飛び上がり、氷の柱の上を脱兎のごとく駆け抜けた。セトは前方宙返りし、その勢いのまま、セイリュウの額に踵落としを打ち込む。

 「ふう じん らい じん ざん !!!!!」

 踵が額に触れた瞬間、稲妻が走り、セイリュウの脳天を貫いた。セイリュウの額が割れ、噴水のように血が噴き出した。泡を吐きながらセイリュウは崩れ落ち、灰と化した。

 セトは狂気と正気の狭間にいた。悟達が駆け寄る音で我に返ったが、このまま闘いが続けば、狂気に呑み込まれていたかもしれない。セトは身震いした。

 「セト、お前こんな力隠してたのかよ!すげえじゃん」

 アリマは驚きで目を丸くしている。

 「セト殿、一生ついていきます」

 インロンは悟から簡単に乗り換えたようだ。 

 「先生からは、この力は危険を孕んでいるものだから、いざという時以外の使用を禁止されてたの。もう使わないで済むことを願うわ」

 セトの言葉は、悟には謙遜ではなく、本音に聞こえた。

 「これ、渡しておくね」

 悟はセトから、蒼の玉を受け取った。手渡された時に触れたセトの手からは、激しい脈動が伝わってきた。小柄なセトの体内には、熱い血潮が滾り、全身を駆け巡っている。その事実が、悟に漠とした不安を呼び起こしていた。

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