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シューティング・スター  作者: 白石来
32/41

ー32ー 【現実世界~全能教】

 窓のない独房で今日も目が覚めた。毎朝きっちり7時に朝食が運ばれてくる。ワゴンに載せた食器がぶつかる金属音で目が覚めるのだ。

 食事を済ますと、午前中の作業に取りかかる。私は木工品を製作する作業を担当しており、机や椅子などを製作している。

 昼食の後は、教科指導と呼ばれる勉強の時間だ。私はこの時間が特に好きだ。数学や物理の問題に没頭してしまい、その後の矯正指導の時間にも、問題の解を考えてしまい、よく刑務官に叱られる。

 夕食の後は自由時間が与えられ、各自テレビを見たり本を読んだりしている

が、私はいつも瞑想の時間に充てている。心を澄ませて、自問自答を繰り返すうちに、悟りの境地に達するのだ。

 22時就寝。夜中に2回見廻りが来るが、熟睡していて気づかないことの方が多い。


 私は、覚束出水がくとういずみ。無期懲役の判決が出て、この少年刑務所に移送され、半年が経った。犯行当時15歳だった私は、現在16歳。模範囚として過ごしてきたが、懐柔した刑務官の手筈が整う一週間後には、ここを脱獄するつもりだ。

 私は幼少期から、相手が自らの弱みをさらけ出したくなる、オーラのようなものを備えていた。懐柔した刑務官も、借金で首が回らなくなっていた。私を助ければ借金が返せる、と暗示をかけてやると、監視カメラの向きを調整して死角を作り、刑務官専用の出入口から逃げられるよう、身代わりになる準備を進めてくれた。


 「全能教」という新興宗教の教祖が私だった。両親は私が産まれて間もなく離婚し、私は叔父に引き取られた。その叔父は、昔から私の能力に一目置いていて、金儲けの道具として利用価値があると思ってか、私を教祖に仕立てあげたのだ。

 初めは、私も叔父への孝行のつもりで、教祖役を演じてみせた。だが、信者が集まりだすと、私の力は本物だと自覚するようになった。私はあれこれ指示を出す叔父を、段々と疎ましく思うようになり、信者を使って叔父を抹殺した。


 そこからは、全てが私の言いなりになった。15歳の誕生日に、私は自分へのプレゼントとして、東京タワーとスカイツリーの展望台で劇薬を撒くよう、信者に命じた。理由?私は自分より高い位置から見下されるのが嫌いなのだ。

 100人を越える死傷者を出す凄惨な事件として、歴史に刻まれた。最高の誕生日プレゼントにはなったが、さすがに警察には捕まった。


 少年法に守られ、本来なら死刑となるところを無期懲役となったわけだが、人を殺すことを是とする法律のこの国は、野蛮な国家だと思う。どんな人間の命も尊く、誰の裁きをもってしても、奪えるものではないのだ。

 さらに、私のような特別な人間には、無期懲役も長すぎる。だからやむを得ず、脱獄しようというのだ。

 脱獄してからの新たなプランを考えるのが、最近の楽しみだ。海外へ逃亡して、全能教の海外支部を設立するのもいい。北朝鮮に支部を作り、日本にミサイルを落とさせようか。


 今日の自由時間も終わりだ。明日も朝7時に食器の音で目覚めるのだろう。

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