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シューティング・スター  作者: 白石来
27/41

ー27ー 【現実世界~通信】

 「・・・僕は日下悟です。リンク賢者、聞こえますか」

 プロビデンスからはっきりと声が聞こえる。土御門は唾を飲みこんだ。

 「私は警視庁の土御門だ。日下悟くん。君はプロビデンスという機械を使って、岸輪久にそっちの世界に飛ばされたんだよ」

 話を始めてから違和感に気づく。

 日下悟ははっきりと名乗り、岸を指名した。岸の話では記憶を失ったと聞いたが、嘘か、はたまた記憶が戻ったか。

 また、プロビデンスはプロノスという岸の師匠が持っているはず。プロノスと悟が接触したと考えるのが自然か。

 「プロノス大賢者から全て聞いています。リンク賢者はそこにいるんですか」

 「輪久は身柄を拘束して、ここにいるが、直接話すのは勘弁してくれ」

 「分かりました。リンク賢者に伝えたいことがあって通信しました。伝えていただけませんか」

 「分かった。何だね」

 「プロノス大賢者と話をして、僕の記憶は戻りました。家族や友人と離され、無理矢理連れて来られたことに、はじめは怒りの感情が湧きましたが、僕の意志でこっちの世界を救いたいと思ったのも事実です。その事に気づいてからは、途中で投げ出さず、やれるだけやってみたいと思うようになっています。リンク賢者も、プロノス大賢者と同じように、罪の意識を感じているだろうから、このことを伝えておきたくて」

 岸は、悟の話を聞いて肩を震わせ泣いている。

 「話は分かった。岸輪久に伝えよう。だが、我々は一刻も早く君をこちらに戻したい。岸輪久もそのことには同意している。まだ未来ある君に、もしものことがあってからでは遅い。冷静になれ、悟くん。自分の意志、と君は言ったが、無理矢理首を突っ込まされたから、目覚めた意志じゃないか。途中で首を引っ込めることに、何の後ろめたさを感じる必要もない。君が背負うべきものじゃないんだ」

 「僕は冷静です。このことについては、ずっと考えてきました。確かにきっかけは無理矢理に作られたものです。でも、こっちの世界で必死に呪いを解いてきて、僕に共感して助けてくれる仲間もできた。仲間達の暮らす世界を救いたいんです。途中でやめたくないんです!」

 土御門は、昔の自分のようだ、と思った。やると決めたら絶対にやる。こういう頑固な奴には何を言っても無駄かもしれない。

 「・・・俺からも頼みます!サトルと一緒に旅してきたけど、こいつには才能があるんです。ここまで来れたのもサトルがいたからなんです。もう少しで目的は果たせるはずです。どうかそれまで待ってください!」

 悟と同じくらいの歳の少年の声だ。

 「あたしも、今サトルがいなくなるのは嫌だよ。サトルはあたし達の中心にいて、いつもあたし達を見てくれた。あたし達を信じてくれた。サトルと旅を続けたいよー。うえーん」

 今度は女の子だ。最後は泣きじゃくっていてよく聞き取れない。

 「私からもお願い。私はこの子に償わなきゃいけないの。ここで帰されちゃったら償えなくなっちゃう。だからお願いよ!」

 次は大人の男性?女性?わからん。

 「私達も呪いを解いてもらったご恩を返さなくちゃいけないんです!」

 「拙者はサトルさんに一生付いていく覚悟でお供したんです。サトルさんだけ帰るなんてあんまりだ!」

 悟の仲間達による請願がひとしきり続いた。悟少年は絶大なる信頼を獲得していた。土御門はもはや諦めかけていた。

 「みなさん落ち着いて。我々も本人の同意なく事を進めようとまでは考えていない。ただし、親御さんも大変心配しているし、我々も無期限に待つ訳にはいかない。岸から、そちらの世界はこちらの10倍、時の流れが早いと聞いた。どうだろう、こちらの時間で一週間、そちらの時間で70日間の猶予期間を設ける。それで解決しなければ、悟くんはこちらへ戻る。この条件でどうだろう。こちらとしてはギリギリの譲歩だ」

 「・・・分かりました。それまでに解決してみせます」

 「しかし、命の危険を感じたら必ず逃げてくれ!お願いだ!」

 返事は無く、ブツリ、と通信は途絶えた。土御門は自分の無力さを歯痒く感じながら、肩を落とした。

 「みんなの努力に報えず、独断であんな約束をしてしまった。申し訳ない」

 「いえ、この状況では仕方ないと私は思います。ご家族の対応は任せてください」

 鏑木は土御門の肩に静かに手を置いた。土御門は、すっと気持ちが軽くなるのを感じた。

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