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シューティング・スター  作者: 白石来
26/41

ー26ー 【異世界~ポポとブイブイ】

 「ポポ、ブイブイ、ガクト王がお呼びだぞ!」

 土竜もぐらのモルが喚き散らす。蝙蝠こうもりのポポは、朝日が昇ったところで、ようやくうとうとしていたところだった。一方、蜘蛛のブイブイは、揚羽蝶が巣にかかり、糸でぐるぐる巻きにし終わり、さあ食べよう、というところだった。

 2匹は最悪のタイミングに腹を立てたが、普段お声などかからないガクト王からの呼び出しに、慌てて飛び出した。


 城に入ると、ガクト王は大きな鏡を見て、ニヤニヤと笑っていた。2匹は、ガクト王が笑っているのを初めて見た気がした。

 「ポポ、ブイブイ、来たか」

 やはり上機嫌だ。おそるおそる、ポポが尋ねる。

 「王様、ご機嫌ですねえ」

 ガクト王がポポを凝視した。ポポの心臓が縮みあがる。

 「分かるか。天上世界の様子を見ていたんだけどね、このサトルという小僧、次々に呪いを解いていくんだ」

 ブイブイが慌てる。

 「えっ!そりゃまずいじゃないですか!」

 ガクト王は声をあげて笑った。

 「そうなんだ、ブイブイ。なかなかにまずいんだよ。よく分かってるじゃないか」

 ブイブイはようやくからかわれていると気づき、顔を真っ赤にして糸をくるくる丸めだした。

 「悪かったな、ブイブイ。お前達を呼んだのは、このサトルどもを地下世界まで案内してほしいんだよ」

 ポポとブイブイは顔を見合せた。

 「そりゃあ、お安いご用だけど」

 ポポが答える。ブイブイも頷いた。

 「じゃあ、よろしく頼むぞ」

 2匹は勇んで城を飛び出していった。


 王の間を後にした悟達は、天上世界から出界する手続をタウへ依頼した。

 「タウさん、本当に色々お世話になりました」

 「何をおっしゃいます。あなた方が成し遂げたことに比べたら、わたくしのしたことなど微々たるものです。王にまで発破をかけてくださるとは、夢にも思いませんでしたが」

 タウは皮肉混じりに笑った。


 翌日、出界許可が下りた。再び入界管理局のラムダが出迎えてくれた。

 「君達、本当にやってくれたな!天上世界の英雄だよ。サインをくれ!」

 ラムダは悟をきつく抱き締めた。

「次に会うときは、全世界の王にでもなってるんじゃないか?お願いだから忘れないでくれよ」

 「忘れません。全世界の王になっちゃったら分かりませんけど」

 悟とラムダは、また笑いあって別れた。


 帰りの航海は行きよりも安定していた。アメノトリの中は、4人から8人に増えて随分手狭になった。ナギサは増築の妄想が広がっているようだ。

 運航が落ち着き、自動運転に切り替わったところで、悟はみんなを集めた。

 「これから僕達は地下世界へ乗り込み、ガクト王が元凶かを見極めてから倒す。今が大事なタイミングだと思うんだ。だからこそ、みんなに聞いて欲しい話がある」

 「何だ何だ?妙に勿体つけるな。実は宇宙人でした、とかいう気か」

 アリマは茶化したが、悟の真面目な顔を見て口をつぐんだ。

 「あながち間違ってない。聞いてくれ」

 悟は、記憶喪失から記憶が戻ったこと。こことは別の異世界から連れて来られた人間であること。呪いで滅びるこの世界を、悟が救う予知夢を見た大賢者プロノスが、弟子のリンクを遣い、プロビデンスという神具で連れて来られたこと。洗いざらいを話した。

 みんなは黙って話を聞いてくれた。まずはセトが口を開いた。

 「記憶が戻ったのね。びっくりはしたけど、サトルはサトルよ。向こうのみんなと離れてるのにサトルは偉いね。私は家族と離れていつも寂しいもの」

 「僕ももちろん寂しいよ。ただ、今はやるべきことがあるし、一緒に旅する仲間もいるから忘れていられる」

 「俺も正直驚いたけど、サトルの力になるぜ。プロノス大賢者の予知夢は、賢者の中では有名だから、多分信じた方がいい。プロビデンスの話は、噂というか、おとぎ話レベルの話で聞いたことはあったが、まさか実在するとはね。それにしても、俺達の世界のためにそこまで腹括れるサトルは、やっぱ凄えよ」

 「同感です。拙者がサトルさんのお供をしたいと思ったのも、サトルさんのぶれない精神力に心惹かれたから。今の話を聞いて、ますます尊敬の念が強くなりました」

 インロンは感動で龍に戻りかけそうだ。

 「やめてくれ、2人とも。僕はみんなに助けられてどうにかここまで来たんだ。だからこそ、みんなのために行動したい、それだけだよ」

 腕組みを解いてナギサが口を開く。

 「仲間のためって美し過ぎじゃない?サトル、あんた、セトとデキてるでしょ」

 アリマとセトが慌てて立ち上がる。

 「えー!マジかよ!だって兄妹だろ。いや、えー!マジかよ!」

 「いやいやいやいや違うから!そういう関係じゃないから!」

 「ナギサ、僕とセトは付き合ってるよ。隠しててごめん」

 アリマとセトは、サトルがあっさり認めるのを見て、座り直した。

 「バレバレよ。あーあ、あたしも恋したいわー」

 その後、なぜかミコ・マコ、タイガを交えて、女子の恋愛トークがしばらく繰り広げられた。アリマはマコが何を発言するかに全神経が集中し、インロンはこの手の話が苦手らしく、無意味に筋トレを始めだした。


 「ところで、プロビデンスの一部をプロノス様から預かったんだ。僕の世界と通信できるらしい。リンク賢者に繋がったら、記憶が戻ったことと、改めて自分の意志でこの世界を救いたいことを伝えようと思う」

 「俺達も聞いてていいか?」

 アリマが尋ねる。

 「もちろんだよ。というか、このプロビデンスの使い方が良く分からなくて。アリマかナギサに聞こうと思ってたんだ」

 アリマではどうにも作動しなかったプロビデンスは、ナギサの手に渡った1分後には、繋がる準備が整っていた。

 「何だか緊張するわね」

 タイガが尻尾を震わせる。

 プロビデンスからは、ラジオの周波数が合わない時のようなノイズが聞こえていたが、徐々にノイズが消え、遠くで人が話しているような声が聞こえてきた。

 「もしもし、僕はサトル、日下悟です。リンク賢者、聞こえますか」

 遠くのざわめきが少し大きくなったような気がする。

 「日下悟です。リンク賢者、聞こえますか」

 悟は繰り返した。

 しばらくの沈黙の後、応答があった。

 「・・・私は警視庁の南田だ。悟くん、日下悟くんだね。そのまま、どうかそのまま待っていてくれ!」

 ガサガサと大きな音がする。おそらく向こう側のプロビデンスを持って移動しているのだろう。ドアを開ける音。

 「・・・プロビデンスから声が!・・・何だと!」

 「悟くん、もう一度話してくれないか」

 南田の声の後、ごとり、とプロビデンスを置く音がした。一度深呼吸し、悟はもう一度語りかけた。

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