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シューティング・スター  作者: 白石来
24/41

ー24ー 【異世界~オーム】

 星降山から、くたくたになって下山していると、麓から見える城下町ラグーンも、オメガ王の城も、全ての灯りが消えているのが見えた。夜明け前なので、活動している人間は日中に比べ少ないだろうが、灯りが全て消えているのはおかしい。


 登山口まで戻ると、ミコ・マコ一家が出迎えてくれた。2人の翼は元通りになり、羽根が美しく生え揃っている。

 「呪いを解いていただき、本当にありがとうございました。ミコもマコも生き返ったように元気になって。ほら、2人とも、お礼をしなさい」

 父に促され、ミコ・マコは少し照れながら、ありがとう、と口を揃えた。

 「お礼のしようもありません。そこでどうでしょう、ミコとマコを旅のお供に連れていってはくれませんか」

 アリマは目を輝かせているが、悟は慎重だった。

 「お父さんのお申し出は嬉しいんですが、せっかく呪いが解けた2人を連れていくのは、いささか気が引けるんですが」

 「2人から言い出したことなんです。傷の治癒や、解毒などの力も備えていますし、お役に立つと思います」

 悟はミコ・マコを見た。2人は悟を見返し、真剣な顔で頷いた。本気ということだ。

 「わかりました。厳しい旅になると思いますが、みんなで助け合って、必ずこの世界を呪いから解放します」

 「みなさんにこれを・・・」

 大人しいミコ・マコの母が、悟の手に何か握らせた。手を開くと、護符だった。

 「一生懸命お祈りしました。ガルーダの神が、きっとお護りくださいます」

 ありがとうございます、とみんなでお礼をし、各々が護符を身につけた。

 「ところで、町中の灯りが消えているようですが」

 悟の質問に、ミコ・マコの父は困り顔で答えた。

 「そうなんですよ。突然の停電で。近所の人達は、発電所で何か事故があったんじゃないか、って言ってましたが」

 「発電所ってどこにあるんですか」

 突然、アリマが尋ねた。

 「ここから西に進んだ先の、オームという村です」

 「オーム・・・臭うな。ウルマ様から、オームの地下にも呪いを封印した、と聞いたことがある。呪いが原因かも知れない」

 「調べてみる必要はありそうだね」

 悟達はさっそく、オームへ向かうことにした。


 1時間ほど歩くと、オームの村が見えてきた。村の中央に巨大な発電所があり、囲むようにバラックのような民家が建ち並ぶ。おそらくは発電所で働く人達の住まいだろう。

 オームの村は、真黒な雷雲で村中が覆われており、昼夜問わず薄暗い。ここの発電所は、雷を燃料にして発電しているのだ。悟達は発電所を調べてみることにした。

 発電所の裏手に回ると、ドラム缶が山のように積み上がっていた。ドラム缶には見慣れた標識のシールが貼られている。あれは放射能の標識ではなかったか。

 さらに驚いたことに、中の物質が洩れているドラム缶も散見できる。ここに長くはいられない、と悟は思った。

 「ヤバい物質が杜撰に廃棄されているみたいだ。ナギサ、作業用の粉塵マスクはある?」

 「あるわよ。でも、危険物用なわけじゃないから、一時しのぎにしかならないわよ」

 「わかってる。急ごう」

 その時、ドラム缶の下の地面が揺れはじめた。揺れは激しくなり、地面が山のように盛り上がる。

 「・・・おでましだぜ」

 溜まった廃棄物と呪いが融合して生まれた怪物が、地面から這い出してくるのを、アリマは睨み付けた。

 「こいつはポリュートの呪いだ。汚いものが好物の呪いで、すぐにくっついて怪物にしちまう。ゴミのモンスターだから、さしずめ『ゴミモン』だな」

 「ダサっ」

 ナギサのツッコミが入った。

 「私達の解毒の力が効くかも。やってみます」

 ミコ・マコは、両手を祈りの形に変え、念じはじめた。

 「ごおおおおおうううう」

 ゴミモンが唸る。身体の一部が蒸発し、穴だらけの身体になっていく。

 「効いてるぞ。よし、俺も」

 アリマは呪いの転化を試みる。しかし、元々が悪性の廃棄物なので、転化がうまくいかない。

 「があああああおおおお」

 ゴミモンが手を前に突き出す。五指が伸び、ミコ・マコを襲う。

 「危ない!」

 アリマが飛び出したが間に合わない。

 「きゃああああ!」

 ミコ・マコは叫び、目を瞑った。


 ミコ・マコが目を開けると、一匹の龍が2人の楯となり、ゴミモンの攻撃を受け止めていた。銀色の鱗をキラキラと輝かせ、龍は平然とした顔をしている。龍は大きな翼を羽ばたかせ、ゴミモンに突撃した。

 「ぐおおおうう」

 「双子のお二人、先刻の解毒を続けてください」

 龍は、ゴミモンの喉輪を前肢で締めつけながら、ミコ・マコに頼んだ。

 ミコ・マコも言われるままに解毒を再開する。

 龍は、ゴミモンを頭から噛み砕き、ボリボリと音を立てて食べ始めた。10分ほどでゴミモンを平らげると、龍は鱗を震わせ、若者に姿を変えた。

 「はじめまして、拙者の名はインロン。龍族の末裔です。拙者は毒が効かない身体だが、さすがに胃がヒリヒリしますね」

 振り向いた若者は、銀色の髪が風になびき、縁なしの眼鏡を掛け、端正な顔立ちをしていた。ゆったりした黒の民族衣装に身を包んでいるが、身体は相当鍛えあげられているのが、服の上からでも分かる。

 「あら、男前」

 タイガが思わず呟いた。

 「ここに留まるのは危険です。一旦離れましょう」

 インロンの提案で、悟達は発電所から退避した。


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