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シューティング・スター  作者: 白石来
23/41

ー23ー 【現実世界~取調室】

 取調室には、岸の真向いに土御門、記録係として、鏑木が入った。

 「先刻はすまなかった。まずは冷静に、君の話を聞こう。話はそれからだ」

 土御門の謝罪に意外そうな顔をしてから、岸は口を開いた。

 「ありがとうございます。では、我々の世界の状況からお話します」

 岸は目を瞑って語りはじめた。


 ーはじめに異変に気づいたのは、私の師匠である、プロノス様でした。師匠は、未来に起こる出来事を、夢であらかじめ見ることができます。そんな師匠が、我々の世界が呪いによって滅びゆく夢を見たのです。

 しかし、救いがありました。師匠は「無から突然現れた、サトルと名の付く、首に3つの痣がある少年が、世界を救う」と仰いました。

 この暗示めいた言葉に、私はプロビデンスのことを連想しました。そして、師匠にプロビデンスを使って、こちらの世界から条件を満たす少年を捜し出し、我々の世界へ送り込むことを提案し、私がその役を果たすべく、こちらの世界へ来たのです。


 獣と化して暴れる者、右半身が動かなくなる者などが現れはじめ、我々の世界は、確実に呪いに蝕まれて始めていました。

 師匠は、我々の世界の時間で、6年後に世界が滅びると予言しました。随分猶予があるように聞こえますが、こちらと我々の世界を往き来して、我々の世界は、こちらの世界の10倍速く、時が流れていることが分かりました。こちらでの1か月が、我々の世界ではおよそ1年にもなるのです。


 私は「サトル」という名前が日本という島に多い名前だと調べ、日本語を覚え、岸輪久というフリーライターとして、サトル捜しを急ぎました。

 最初に見つけたのが、福岡の甲野くんでした。彼は我々の頼みを聞き流し、女性を襲ったり、盗みを働いたりと、やりたい放題でした。首の痣がタトゥーだと分かり、条件から外れたため、こちらの世界へ戻し、他言しないよう、私の力で記憶を消しました。

 次が、大阪の花菱くん。彼は真面目で優しく、我々の頼みを渋々ながら受け入れてくれました。しかし、呪いにより獣化した者に襲われ、重症を負ってしまい、彼の心は折れてしまいました。傷が完治してから、こちらに戻し、同じく記憶を消しました。

 3人目が、青森の水野さん。この方はそちらの調べでも判っているでしょうが、性別は女性で、見た目は男性という、性同一性障害の方であることが分かったため、すぐにこちらに戻し、記憶を消しました。

 そして4人目が日下くん。彼は我々の世界へ送った際に、時空が乱れ、脳に強い衝撃を受けたために、記憶を失ってしまいました。経緯を説明することもできず、これまでこちらの世界から見守っていたところです。彼は自らの意志で、着実に呪いを封じはじめています。このまま行けば、彼が我々の世界を救ってくれるに違いありませんー


 岸が目を開けた。話が終わったということだ。

 「つまり、君の師匠の予知夢を根拠に、救世主とおぼしきサトルくん達を誘拐し、無理矢理ではないにしろ、危険な行為に荷担させている、というわけだな」

 「仰るとおりです。本人の同意も、我々の世界に送ってからの事後的なもので、彼等に諦めさせて同意を取ろうという、計算によるものです」

 「やはり、君の行動には正義がない。それに、我々の世界の人間が救世主である絶対的な根拠が何もない。プロビデンスが関連する必然性もない。日下悟くんを戻すことを覆すだけの根拠が示せるか?」

 「・・・いや、無理ですね・・・」

 「君の立場なら同じ行動を取りたくなる気持ちも分かる。分かるが、無理だ。悟くんを返してくれるね」

 岸が返事をしかけた時、取調室のドアが開き、南田が入ってきた。

 「プロビデンスから声が・・・!」

 「何だと」

 岸も立ち上がる。

 プロビデンスを囲んで、土御門達は、次の声を待った。


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