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シューティング・スター  作者: 白石来
22/41

ー22ー 【異世界~星降山】

 タウから、星降山の登頂許可が下りたとの連絡が入った。悟達は、この一週間の間に、山登り用品を買い揃え、対デイタラボノス用の武器を調達し、できる限りの準備を整えていた。

 「いよいよね、サトル。あたしの造った武器がようやくお披露目できるわ」

 ナギサは武器の入ったケースを撫で回している。

 「この荷物持って山登りかよ。気が重いな」

 アリマが愚痴る。

 「私の虎の本能が山を欲してるわ」

 タイガは少し怖い。

 「デイタラボノスを殺すのは、私は反対だけど」

 セトはまだ納得していないようだ。

 「呪いと分離できない限り、殺すしかないと、プロノス大賢者が言ってたんだよ」

 「そうかも知れないけど」

 セトと同じく、悟もできることならそうしたい。でもそんな余裕すらないだろう。相手が巨大過ぎる。

 「ま、そん時にやれることをやるだけだろ」

 アリマの言うとおりだ。


 星降山の標高はさほど高くはないが、目前にそびえる山は、悟達の登頂を拒絶しているかのように、威風堂々としている。安全を見て、中腹のロッジで1泊することにしていた。

 登り始めると、雪解けの水が小川となって流れるせせらぎや、春の訪れに咲き誇る花々の香り、新緑の木々が風に揺れる音、全てが心地よく、心が洗われていく。タイガを除き登山初心者の悟達でも、山道も整備されていて、比較的歩きやすい山だった。

 「いい山ね。気持ちいい」

 セトが汗を拭いながら話しかける。

 「本当だね。レジャーなら最高なのに」

 悟は笑って返す。

 「分かってないわね、2人とも。山は山頂に近づくほど険しくなるのよ。明日は覚悟しといた方がいいわ」

 タイガの予言めいた忠告で、みんなの顔は引き締まった。


 夕方にはロッジに到着した。こまめに休憩を挟んだものの、1日山歩きした脚はさすがに疲労していた。ロッジの食堂で夕食をとり(予想どおりカレーだ)、シャワーを浴び、早々に床についた。


 2日目の朝は濃い霧がかかっていた。視界が悪くなるだけで、山登りが急にきつく感じられた。黙々と登り続けていると、ぼんやりとした光が点滅している。別の登山者の灯りだろうか。悟は無意識にその光を追っていた。

 辺りは深い森になっていた。また、遠くで光が点滅する。点滅の先はますます森が深くなっているようだ。

 何かおかしい。悟が気づいた時には、セトやタイガも気がついていた。

 「これって、山の精に惑わされてるわよ」

 タイガが口火を切った。

 「たぶん、チカチカの仕業ね。あの子達、いたずら好きだから」

 セトも同意する。

 「僕が見た光の点滅が、山の精ってこと?」

 悟が確認する。

 「そう。チカチカは身体を発光させて、登山者を誘導し道に迷わせるの」

 ナギサの方位磁石を確認したが、磁場が強く、使い物にならない。

 「まずい、このままだと遭難するぞ」

 アリマの焦った声が山にこだまする。

 「落ち着いて。太陽を頼りに進めば方向を間違うことはないはず」

 タイガが助言する。

 チカチカ達は、悟達が正体を知ったと分かると、なりふり構わず、姿を晒して服を引っ張ったり、目の前で発光して驚かせたりしてきた。その様子は小さな子供そのもので、鬱陶しいが、微笑ましくもある。


 チカチカ達を振り切り、ようやく森を抜けることができた。ここから先は木々はまばらになり、ゴツゴツした岩がメインだ。横風が強く、よろめきそうになりながら、山頂を目指す。

 「もう少しだ」

 悟は自分へも向けて鼓舞した。

 山頂が見えたと思った矢先、巨大な塊が、横たわっていた身体を起こし、四肢で立ち上がった。

 見上げても顔が確認できないほど高い。古代の首長竜が現れたらこんな感じだろうか。

 「まずは作戦どおり脚を狙う」

 悟の声を合図に、全員が散らばっていく。悟は右前脚、セトが左前脚、アリマが右後脚、タイガが左後脚の担当だ。斧やナイフで、脚を攻撃し、デイタラボノスを倒れさせる。

 悟がナイフで脚を斬ると、ゼリーのような感触で、手応えがまるでない。しかし、何度も斬りつけるうち、ボロボロと脚が崩れてきた。

 「よし!」

 四肢が崩れたデイタラボノスは、バランスを崩し、そのままうつ伏せに倒れた。デイタラボノスの頭が地面に叩きつけられる。立派な角が生えた牡鹿の顔を、待ち構えていたナギサが捉えた。

 「こいつを食らいな!」

 ナギサの機関銃が火を吹いた。鉄球のような弾が、デイタラボノスの頭に直撃する。

 閃光が走り、爆発音が轟いた。

 煙が消えると、デイタラボノスの頭は粉砕され、首から下だけになっていた。

 「呪いの核が必ずある!こいつは変形自由だ、頭とは限らない。一番淀んだ部分をぶっ飛ばせ!」

 アリマがナギサに叫ぶ。返事の代わりにナギサは特製ゴーグルを装着した。色素の強弱を自動で見分けるセンサーが内蔵された、対デイタラボノス仕様だ。

 首が伸び、新たな頭が形成された。ハズレだ。

 「脚への攻撃を止めないで。起き上がられると攻撃が届かない」

 ナギサ以外の4人は、汗だくになりながら攻撃を続けた。

 ナギサはデイタラボノスの頭を駆け登り、首から胴体へと、ゴーグルで確認しながら進む。鳩尾みぞおちの辺りでセンサーが反応した。

 「ここだ!」

 機関銃をデイタラボノスの背中に押し当て、そのまま発砲する。衝撃でナギサは後に吹っ飛んだ。

 腹に穴を開けたまま、デイタラボノスが沈黙する。すると徐々に、デイタラボノスの身体が縮みだした。

 「やったのか?」

 肩で息をしながら、アリマが声をあげる。

 デイタラボノスの身体はどんどん縮み、ミニバン程度の楕円の球体になった。

 「ナギサ、ゴーグル!」

 悟の声より早く、球体はナギサ目掛けて飛んでいった。

 「ナギサ!!」

 悟が叫んだ直後、ナギサから爆発音が轟き、球体は散り散りになった。

 「・・・危ない、危ない」

ナギサは冷汗を拭った。機関銃に装填された弾は残り1発だった。


 デイタラボノスを倒したことで、グルファの呪いは解けたはずだ。疲労感と達成感に悟達は包まれたが、デイタラボノスを生かせなかった、一抹の悔しさが残った。

 守神を失った星降山からは、精気が失せ、悟達をからかったチカチカ達も、主を失い、姿を消してしまったようだ。

 「・・・見て!」

 完全に消失したと思ったデイタラボノスだが、ナギサがトドメを刺す直前に分離していたらしい。サッカーボールほどの大きさしかないが、牡鹿の角を生やし、威厳を示してみせた。

 「ゴーグルでみてもセンサーは反応しない。呪いは解けてるわ」

 ナギサの声にセトが喜んだ。

 「小さくなっちゃったけど、守神は生き残った。大きくなれば、きっとチカチカ達も戻ってくるわ」

 星降山の山頂は夜になり、満天の星空に包まれていた。見上げると、一筋の流れ星が流れた。それは、あの日セトと見た流れ星と同じくらい輝いて見えた。


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