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シューティング・スター  作者: 白石来
21/41

ー21ー 【異世界~記憶】

 あの日は、多摩川の土手をロードバイクで帰る途中だった。日は暮れ始め、雲がうっすらとピンクに色づいていた。そこに、プロビデンスが現れたんだった。

 何だか気持ち悪い紫色の糸が耳から入ってきて、頭が激しく揺さぶられる感覚の後、僕は気を失ったんだ。

 父さん、母さん、姉ちゃん。僕が急にいなくなって心配してるよな。

 空研のみんな。同じクラスの拓海。あいつらも僕がいなくなったことを気にかけてくれているだろうか。

 僕がいなくなったのは、夏本番の、9月だったはず。こっちの世界は初夏だ。一体どれほどの時間が経っているんだろう。


 悟の胸には、数々の想い出が去来し、残してきた家族、友人に会いたい気持ちが溢れた。同時に、目の前の老人、プロノスが全ての原因と知り、怒りが込み上げてきた。

 「あなたのせいで、僕はみんなと引き離された。帰れる保証もない。違いますか」

 「君の言うとおりだ。巻き込んでしまったこと、家族や友人から引き離したこと、死んでも詫びきれん話だ」

 「あなたの予知夢が本当に起こるのかも分からない。そんなものに振り回される義理はない」

 「確かにそうだ。私の予知夢は、もはや絶対ではない。ましてや君はこの世界とは無関係で、巻き込むことに道理がない。リンクに連絡して、君を仲間達の元へ帰そう」


 仲間達。悟は、セトやアリマ、ナギサ、タイガの顔を思い出した。さらに、ジン、マキ、ヤナギ婆さん、トキ、この世界の家族。ミコ・マコ、ウルマ大賢者、ナルト達、ラムダ、旅の途中で助けてくれた人達。

 僕の「仲間達」はどうする。確かにプロノスがきっかけだが、自分で決めて、ここまで来たんじゃないか。こんな途中で投げ出していいのか。ミコ・マコの両親に、必ず呪いを解く、と約束したじゃないか!


 プロノスは立ち上がり、奥の部屋から黒い球体を持ってきた。

 「これはプロビデンスの一部で、あちらの世界と交信ができる。リンクに計画は終了したと伝えよう」

 「・・・いや、待ってください」

 「何だね」

 「この世界を救ったら、必ず帰してくれますか」

 「今すぐ帰すと言っただろう」

 「帰る時は、僕が決めます。この世界も、僕が救うと決めたんです」

 プロノスは絶句した。

 「・・・やってくれるのかね」

 「あなたのためじゃありません。僕のためにやるんです」

 「・・・ありがとう、ありがとう」

 プロノスは泣き崩れた。自分でも、罪の意識と、この世界を救いたい想いとの葛藤で、押し潰されそうになっていたのかもしれない。


 別れ際にプロノスは言った。

 「君ならこの世界を救えると確信した。デイタラボノスは手強いだろうが、元は守神だ。必ず、善き心、善き行いが道を拓くだろう」

 「ここで朗報を待っていてください」

 悟は笑って応えた。

 「そうだ、これは君に渡しておく」

 通信用のプロビデンスの一部だった。

 「私も歳だ。もし孤独死したら、誰もリンクに連絡できなくなるからな。保険だ」

 「そうはならないと思いますが、じゃあ預かります」

 プロノスの顔は憑き物が落ちたようだった。二人は笑顔で別れた。


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