ー18ー 【異世界~王立図書館】
城下町ラグーン。城に仕える人々が主に暮らしており、その人達を相手に商売する商人などが、織り混ざって生活している町だ。
ここには身分制度があり、住めるエリアも定められている。城に一番近いエリアは貴族、次が、執事や料理人、大工などの専門職、さらに向こうは、清掃や事務などの一般職だ。
王立図書館は、貴族エリアと専門職エリアの間に建てられていた。
まずはミコ・マコを自宅まで送ってあげた。ミコ・マコの両親は泣いて喜び、悟達を大量の料理でもてなしてくれた。ミコ・マコの家は神官をしており、式典、祭典を取り仕切ったり、教会でミサを行ったりしているらしい。ミコ・マコも、祭典の時などは、巫女として舞を奉納したりもするそうだ。
アリマは、マコの舞を想像してか、うっとりとしていた。必ずや、グルファの呪いを封じると約束し、家を後にした。
その後、みんなには束の間の休日として自由に過ごしてもらい、悟は単独で図書館に来ていた。王立というだけあり、図書館も立派だ。王族に纏わる書物が分類1、歴史・地理が分類2、といった具合に体系化されている。分類5に、呪いに纏わる書物がまとめられていた。ラムダが言っていた「封印大戦争」の本も気になるが、まずは「グルファの呪い」だ。
プロノスという作者の本を手にとる。細かい文字でびっしりと考察が記されており、悟は読むのを諦めそうになったが、巻末に図解が付いており、グルファの呪いの特徴がまとめられていた。
ーこの呪いそのものは、人に死をもたらすほどの威力は備えていないが、注意すべきはその拡散力である。風邪と同じで、免疫の弱い対象を狙い、確実に拡がっていく。
この呪いを解くには、やはり封印している星降山の頂上に登るほかない。星降山は、下図のとおり、守神「デイタラボノス」が護っている。デイタラボノスの正体は今も謎であり、精霊と動植物が融合した生物であろう、と考えられている。私の祖先は、このデイタラボノスの体内に、グルファの呪いを封じたと聞く。なぜそうしたかは不明だが、仮に封印が解け、再度、封印が必要となった場合、デイタラボノスを殺す必要が生じるだろう。私は、祖先の悪口を書くつもりはないが、この選択は誤りだったと言わざるを得ないー
文章の下には、デイタラボノスのデッサンが描かれていた。全体のフォルムは鹿のようだが、体長20mとあるので、間近では鹿には見えまい。身体はツルツルしており、半透明。伸縮性があり、一部を分裂されたりもできるようだ。目や口と言えるものはなく、全体で呼吸し、全体で視るらしい。
こんな得体の知れない、神と名のつくものと戦うなんて、本当にできるのだろうか。悟は大きな不安に駆られていた。
図書館を後にし、その足で、タウが教えてくれた大賢者の家に向かうことにした。アリマも一緒の方が話はスムーズだろうが、人となりを確認しておきたくもあった。賢者でない素人の悟に対し、どこまで話をしてくれるものだろうか。
大賢者の家は、狭い路地が入り組んだ、一般職エリアの隅にあった。大賢者ともなれば、王族からも重宝され、貴族と同列扱いされてもおかしくないと思うが、王に嫌われたのか、自ら進んでなのか、辺鄙な場所に住まいを構えていた。
玄関をノックするが応答がない。留守かと思い引き返しかけた時、扉が開き、しかめ面の老人が顔を出した。
「突然申し訳ありません。僕は、地上世界から来た、サトルという者です。グルファの呪いについてお聞きしたくて、参りました」
名乗った瞬間、老人が左眉を上げたのを、悟は見落とさなかった。何か隠している。
悟は中に入ることを許された。