表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シューティング・スター  作者: 白石来
15/41

ー15ー 【異世界~天使】

 「港が見えたわ!」

 悟達一行は、クサリ島を後にし、ポエルトへと戻ってきた。


 帰りの船内では、タイガが、自身の生い立ちからズマイラの呪いにかかる経緯、罪に対する懺悔、生年月日、最近の趣味に至るまでを語ってくれた。

 アリマは、タイガが呪われた理由を尋ねた。

 「観光でたまたまクサリ島に寄った時に、迷っちゃって。気づいたら泉に着いてしまって、呪われちゃったの」

 ナギサは、悟達より先にタイガがクサリ島に着けた理由を尋ねた。

 「ポエルトから、丁度クサリ島を経由する観光客船があったから、それに忍び込んだの。大型船にはクジラザメも太刀打ちできないから」

 タイガの記憶は消えていなかった。タイガの全て包み隠さず語る姿勢は真摯で、悟達に信頼感を与えた。


 ポエルトに到着し、まずはウルマへ報告に向かった。

 ウルマは、タイガの姿を見て、ひっくり返るほど怯えたが、アリマが事情を話すと、驚きながらも状況を呑み込んだようだった。

 「アリマ、お前は末恐ろしい奴じゃのう。呪いを変化させるなど、聞いたこともない。もう見習いは卒業じゃ。今から、賢者として名乗るが良い」

 アリマは予想以上に褒め称えられ、感激に震えている。

 ウルマは続けた。

 「ズマイラの呪いの他にも、各地に呪いは封じてある。いずれの呪いも封印が弛みつつあるようじゃ。早急に手を打たねばならん」

 悟達は真剣な顔になった。

 「儂は、呪いの封印が弛みはじめた元凶は、地下世界にあるのでは、と考えておる。地下世界とは最近まで貿易や外交が行われていたが、ガクト王政になって以降、ぱったり関係が途切れてしまった。この情勢の変化と呪いの間に何か関連があると考えても、不自然ではなかろう」

 悟が小声でアリマに質問する。

 「ごめん、地下世界って何?」

 アリマは飲んでいたポッピーを思わず吹き出した。慌てて床を拭きながら答える。

 「お前マジかよ。学校で習うだろ?『私達の暮らす世界は、地上世界、地下世界、天上世界の3つで構成されているのであーる』ってよ」

 アリマは、先生の物真似に反応しないサトルに苛つきながら、レクチャーしてくれた。

 「3つの世界は、独立しながらも共生し合う関係にあって、たまに仲が悪くなったり、文化の違いが元でいざこざが起きたりはするけど、なんだかんだバランス取りながら、これまでやってきた、ってわけ。ガクト王の事は、正直俺も良くわかんないけど、ウルマ様がおっしゃるように、ガクト王政になってからは、かなり関係が悪いのは確かだよ」


 ウルマの家から出た悟達は、地下世界に向かうことに決めた。関係が切れたとはいえ、ガクト王政以前は交流があったのだから、その筋をあたれば何とかなるだろう、というのが、悟達の総意だった。

 まずは情報だ、ということで漁業組合に向かう途中で、事件は起きた。


 「海に女の子が落ちたみたいだぞ!」

 野次馬の声が前方から聞こえてきた。悟達も野次馬を追いかけるように港へと駆け出した。

 港には既に数人の人だかりができていた。隙間から覗くと、海から救助された女の子が2人、並んで仰向けに寝かされている。鏡で映したようにそっくりな双子で、薄い特殊な繊維で織られた羽衣を身に纏っている。背中には翼が生えているが、2人とも片方だけ翼がない。

 「天上世界の子みたいだな」

 「翼が片方だけもげちまってる。傷口が痛々しいな」

 野次馬が口々に話している。


 しばらくすると、双子は同時に目を覚ました。

 「ここはどこ?」

 質問の言葉もタイミングも同じだ。

 野次馬の一人が、地上世界の港町ポエルトであることを教えると、2人は堰を切ったように泣き出した。

 タイガが慌ててハンカチを差し出す。双子は少し驚いた表情を覗かせたが、ありがとう、と言って、涙を拭いた。

 野次馬達はタイガの姿に驚き、一人、二人と退散していった。


 「私達、天上世界に住む天使なの。お使いで雲の隙間を飛んでいたら、急に片方の翼が重たくなって。根本から翼が折れる音がして、気づいたら地上世界へ墜ちていたの」

 泣き止んだあと、双子の姉、ミコが説明した。

 「片方の翼だと、うまく飛べないわ。どうしよう、お家に帰れない」

 また泣き出しそうな声を出したのは、妹のマコだ。

 「まずは2人とも落ち着いて。一緒にお家に帰れる方法を考えましょう」

 タイガが優しく語りかける。双子は既に見た目とのギャップに慣れ、タイガの言葉に素直に頷いている。

 「どうやら私の出番かしらね」

 不敵な笑みを浮かべ、ナギサが切り出した。

 「私の船、アメノトリは、実は飛空艇にも変形できるのよ」


 飛空艇・アメノトリは、船体の左右から翼が生え、船尾には、プロペラが装着されていた。甲板には、強化ガラスのような素材の天井が張られ、空中でも甲板に出ることができる。

 飛空艇への変形はこれが初らしく、ナギサは興奮が覚めやらない。

 「くうー!空気抵抗を計算しつくした滑らかな曲線美、ガルーダの羽根ような崇高な翼、たまらないわ」

 涎を垂らしそうなナギサの横で、アリマはぼーっと一点を見つめている。その視線の先には、双子の姿があった。

 「なあなあ、サトル。俺、初恋かも知れない」

 視線は動かさずに、アリマは悟に話しかける。

 「2人とも可愛いよね。どっちがミコでどっちがマコか、見分けはつかないけど」

 「何言ってんだよ、サトル。マコちゃんの方が100倍可愛いだろ。あの、かたえくぼがたまらないぜ」

 どうやらアリマが惚れた相手はマコの方で、アリマには2人が見分けられるらしい。


 惚ける2人のことは放っておき、悟はセトの隣へ移動した。

 「何だかにぎやかになったよね。2人で星を見たのが随分昔に感じる」

 「確かに。サトルには人を引き寄せる力があるのかも。私もサトルにどんどん惹かれていったし」

 2人は皆から見えない角度で、キスを交わした。


 こうして悟達は、地下世界に行く方針を変更し、天上世界へと舵を切った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ