表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シューティング・スター  作者: 白石来
11/41

ー11ー 【異世界~クジラザメ】

 アリマとナギサが加わり、ズマイラの呪いを封じる条件は整った。ナギサを中心に、クサリ島への航路を確認していた。

 「問題はクサリ島の手前にある岩場ね。この辺りは、殺人魚と呼ばれるクジラザメの縄張りなの。安全を考えるなら南に迂回するしかないわ」

 「迂回に賛成」

 アリマはナギサに服従を誓ったようだ。

 「その分もちろん時間が余分にかかるわけだよね」

 悟の質問にナギサは頷く。

 「最短コースなら3日、迂回コースなら5日ってとこね」

 「なら、私は最短がいいと思う。獣化した人間をこれ以上増やすわけにはいかないわ」

 ジンとマキを思い出してか、セトは悔しそうな顔で意見した。

 「クジラザメを大人しくする方法はないかな」

 悟の問いかけに、ナギサは思い出したように手を叩いた。

 「強い光に彼等は弱いの。ありったけの照明を一斉に焚けば、その間に通り抜けられるはず」

 「じゃあ問屋街で照明を調達してくる」

 アリマが腰を上げると、ナギサが手で制した。

 「待って。船のバッテリーが飛んじゃうかも・・・、あ、いい考えが浮かんだわ、アリマ、買い出しお願い」

 ナギサはウインクしてみせた。


 朝日が水面を反射し、悟達を容赦なく照りつける。荷物をアメノトリに積み込んだ頃には、もうすぐ冬にもかかわらず、全員汗だくになっていた。

 「かぁーーー!ポッピー飲みてえーーー!」

 アリマは海に向かって叫んだ。

 「何?ポッピーって」

 「はあ?サトル、ポッピー知らないの?どこの田舎者だよ」

 セトが口を挟む。

 「田舎者を馬鹿にしないでよ。私だってポッピーくらい飲んだことあるわよ。サトルは、なんていうか、特別なのよ」

 悟が記憶喪失であることへの配慮なのだが、特別、という響きが悟には妙にくすぐったかった。

 「ハイハイ、兄妹仲のいいことで」

 アリマとナギサには、年子の兄妹ということで説明していた。アリマは二人が恋人同士のように仲が良いことに半ば呆れていた。

 ポッピーとはこの世界の炭酸飲料で、若者は全員飲んでいると言っても過言ではない。様々なフルーツのフレーバーが季節毎に発売され、秋から冬にかけては、マロンやスイートポテトが売れ筋だ。

 「これでいつでも出航できるわ。忘れ物はない?」

 ナギサが確認する。キウイバードのグリとゴルは宿の納屋でしばらく世話してもらうことにした。

 アリマは両手で顔を平手打ちし、気合いを入れ直した。

 「よっしゃ、出発だ!」


 アメノトリはナギサが手がけただけあって、高性能で快適な船だった。

 多少の高波では船内で揺れを感じないほどで、エンジンの音は静かだが馬力があり、ポエルトを出て3時間ほどで、虹色珊瑚礁のエリアまで悟達を運んだ。

 海が七色に輝き、ミラーボールの中を進んでいるようだ。しばし眺めに見とれた後、ナギサが船内を案内してくれた。

 甲板のフロアを二階とすると、アメノトリは二階建ての構造になっている。

 甲板の先はダイニングキッチンになっていて、4人掛けの備え付けのテーブルと、簡単な調理が可能なキッチンがある。

 その先は運転席になっていて、ナギサの指定席だ。自動運転機能が付いており、波が穏やかなエリアなどで活用している。

 階段を降りると、寝室が二部屋。それぞれ二段ベッドが据え付けてある。その奥には、バス・トイレ、一番奥は機械室で、ここはナギサ以外立入禁止だ。

 「船というか、お家みたいね」

 セトが素直な感想を口にした。

 「長旅になることも考えると、やっぱり快適でないとね」

 ナギサが自慢げに答える。

 「寝室のペア決めは当然ジャンケンだよな」

 アリマの発言に、女子二人の冷たい視線が寄せられた。

 「・・・冗談冗談。サトル、俺、絶対二段ベッド上だからな!」

 悟は笑いながら、アリマは本気で言ってたな、と思った。


 航海は順調だった。夜は自動運転に切り替え、二時間おきに交替で海の様子を確認するようにし、睡眠もしっかり確保できた。そして、2日目の夜、悟達はクジラザメの縄張りである岩場に差し掛かった。

 「いよいよだな」

 アリマがひそひそ声で悟に話しかける。

 「もしかして、怖い?」

 「んなわけあるか、俺も賢者の端くれだぞ。馬鹿にすんな」

 そう言いながら、悟の袖を掴んで離さない。

 海は暗闇と同化して、真っ黒なひとつの生き物のようにうねっていた。その中に、蒼白い一対の眼が見えた。こちらを窺っている。一頭発見すると、その周りに何頭もいることが判った。どうやら知らぬ間に囲まれている。

 「いい?なるべく近くまで引き付けて、一発で全頭の目を眩ませるわよ」

 ナギサの問いかけに、全員頷いた。

 「アリマ賢者は、こちらへどうぞ」

 ナギサが奥へ手招きする。アリマは訳が判らないまま、ナギサに従った。

 そこには自転車が固定されており、何本もの配線が繋がれている。

 「・・・これを漕げってこと?」

 「そう。自家発電装置よ。思いっきり漕いでね、じゃないとクジラザメの餌になるわよ」

 ナギサは笑っているが、目の奥は真剣だ。

 「よし、ま、任せとけ」

 アリマは上着を脱ぎ捨て、サドルに跨がった。

 「サトルは前方、セトは後方を見張って。クジラザメがギリギリまで近づいたら手で合図して。そのタイミングで、あたしが照明を焚く」

 「了解」

 「わかった」

 各自配置につき、息を呑んだ。

 クジラザメはぐるぐると船の周りを旋回しながら、徐々に間合いを詰めてくる。悟の背後でセトが手を上げた。悟は躊躇った。いや、まだだ。

 やや小さめのクジラザメが、いきなり船に正面を向け、今にも飛びかかろうとした。

 「今だ!」

 悟も手を上げる。

 「うおおおおおおおおおお」

 アリマが必死の形相でペダルを漕いでいる。

 「点火ーーー!」

 船の周り一帯だけが昼になったかのように明るくなり、ランプの熱で火傷しそうなほど暑い。

 「ギャオオオウウウウウ」

 クジラザメ達は叫び声をあげ、胸鰭で海面を叩いて悶えている。

 「全速前進!フル・アヘッド!」

 アメノトリは雄叫びのような音を立て、クジラザメの間を縫って加速した。

 見る間にクジラザメの姿は小さくなり、危機を脱した実感が沸いてくる。

 「よくやったわ、みんな」

 ナギサが喜びの声をあげたが、アリマだけは自転車の脇に倒れたまま、灰になっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ