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心中。道  作者: gleaner
5/8

終わりを考えるなら、現時点で終わってないか?

山の中の橋の上で自電車を漕いでいると、険しい顔で手摺を掴み、河川を覗く女の子を見た。


何を考えて人気のないこんな山奥の橋の上に居るのか。


(あれか………?)


と、脳裏に浮かぶのはここから飛び降りる姿。


しかし、俺は声をかけなかった。


本当に最悪のケースかも分からないし、飛び降りだったとして、彼女がこの世の中で逃げ出したい程辛い思いをしてきて、決死の覚悟でそれを選んだのなら、この世に留めておくのは違うだろう。


家族や友人が悲しむだろうって?取り残された方もつらい?


なんとも身勝手な考えじゃないか。


この世を断つ事も助けを呼ばなかったのも彼女の選択だ。けれど、助けを呼べない環境を作ったのは彼女以外の人間だろう。


ただまあ、この世を断って楽になれるって考えは楽観的だと思うけどなぁ。


可能性、あくまで可能性として、あの世の世界があった場合。自ら余生を捨てて、人生を諦めた人間が、天国とか、極楽と言われる場所に連れてってもらえるだろうか。


前に霊感の強い人に聞いた話だが、遠い昔に戦場だった土地で、遥か昔に武士だった霊魂が、今でもまだ戦を行っていると聞いた事がある。


知らんけど、当時の念とか、感情の渦とか辛さとか、気?ってやつがまだ残ってたんじゃないのかな?知らんけど。


もし、彼女が飛び降りて、その武士さんと同じ様に、亡くなった後も一生飛び降りの出来事が永遠に繰り返されるとしたら?


飛び降りた時の苦痛や、その時の恐怖、その場で過去の事でも思い出そうものなら、今まで抱いてきた辛さや苦しみが一生続くんじゃないか?


結果、自殺した後の方が辛いんじゃなかろうか。


まあ実際、分からないけどな、亡くなった後の事なんて。てかあの女性がそうするとも限らないし。


ただの妄想話。


ただ、亡くなったら全てが終わる………………なんてことは考えにくいって思うだけさ。



俺は自分の目的地に着いた。


隠れ絶景スポットと呼ばれる場所。


「……そこまでじゃねえな」


二分くらい経過して、そのセリフを最後に下山した。


帰り道、あの橋の上に女性はいなかった。


橋の下も覗いたが彼女は見当たらない。


「あれ?」


ただ、橋の上に真っ白なハンカチの忘れ物だ。


おそらく女性のだ。


まあ、逢えたらいいな程度の気持ちで自転車を走らせていると、女性の後姿を捉えた。


俺はほっと胸をなでおろした。


「あの。すみません」


「は、はい!なんでしょうか?」


突然声を掛けられ驚きながらも女性は振り返る。


「これ落としましたか?」


「あッ!はい!!」


そう女性にハンカチを見せながら聞くと、女性は目が輝いていた。


「ありがとうございます!本当にありがとうございます」


女性は何度もお辞儀をしていた。


ハンカチを丁寧に折りたたみカバンの中へ入れ、また、感謝を述べる。


女性の顔立ちは明るく、花が咲いたようにパアッと可憐な笑顔を見せてくれた。


(いいもんが見れた)


届けてよかった。生きててくれて良かった。


だって、生きていなかったらこんな素敵な笑みをもらう事は出来なかったし。


今日は最高に良い一日だ。

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