File93 惑星オルランゲアでの休日⑥ 不測の事態は誰にもわからない
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声を上げたジョルカスト嬢の方を見ると、上に載っていた煮卵をかじった跡があり。その煮卵を見ながらぷるぷると震えていた。
迂闊だった。
料理の顔がわかるドラコニアル人が、宝珠煮卵を間違えるはずがない。
あの交換の現場には、彼女自身がいかなくても、家族や周りの人が交換にきていただろうから、手に入れているはずだ。
ジョルカスト嬢は、
「貴方のお料理をみた瞬間、銀河ミルトシュランテのホームページの、第3258回の『取材記者のコラム』に載っていたものだと理解しました。
そして、これだけの腕を持つ人物なら、是非ともうちにスカウトしたいとも考えていました」
顔を伏せたままそう呟いたあと、俺の方を向いた。
「あー実はそれは…」
「貴方が作ったものですよね?『顔』をみればわかりますし、貴方がドラッケン一族に関わりがあるのは聞いていますから」
何とか誤魔化そうとしたが、誤魔化す前に笑顔で潰された。
以前乗せたヴルヴィア家の人達がそれとは気がつかなかったのは、俺とドラッケン一族との関わりを知らなかったのと、以前に食べた時から時間が経過していたのもあったのかもしれない。
あと、案外ドラコニアル人のいう『料理の顔』にも、似た味が居たりするのかもしれない。
「その宝珠煮卵ってなんなんですか?」
そのあたりの事情を知らないレイアナが、興味深そうに尋ねてきた。
「ドラコニアル人のお祭りで、ドラッケン一族が提供したお料理で、ものすごく人気になったのです。
ドラッケン一族が秘密にしていたため、ショウンさんが作ったものだとは知らなかったのですよ」
ジョルカスト嬢は、いい笑顔を浮かべながらレイアナに説明をする。
すると当然、
「私も食べてみたい!」
となるため、テグツシア執事と自分の分のロコモコもどきをつくり、それと一緒にテーブルに並べた。
そうして、他愛ない会話をしながらも食事がつづけられた。
そして、デザートの林檎とパイナップルのソルベとカスタードアイスクリームを出したときに、ちょっと気になっていたことを尋ねてみた。
「そういえば、あの時の故障の原因はなんだったんです?長距離通信が壊れるなんてよっぽどだと思うんですがね」
すると、ジョルカスト嬢は大きくため息をついた。
「壊されたのです。客を装った犯罪者共に」
そして忌々しそうに口を開いた。
それだけで、その場にいた全員。テグツシア執事は当然知っているだろう。が、犯人に心当たりがあった。
「スターフライト社…ですか」
「確たる証拠はありませんが、間違いはないと思います。あの会社は4代前はもっとまともな会社だったのですが、先代から怪しくなってきましたからね」
「内部分裂が起こってるらしいですね。そこに勤めている同級生が父親が大変そうだといってましたからね」
さすが副社長御嬢様だけあって、そのあたりの事情にも詳しいらしい。
「案外、例の帝国の海賊と繋がりがあったのかも知れませんわね」
「可能性はありますね」
自分が振った話ではあるが、デザートを食べながらも、色々ややこしくてヤバい話が始まったので、準備しておいた土産に追加をするべくキッチンにむかった。
ちなみにジョルカスト嬢とテグツシア執事の前には、小さなバケツをひっくり返したようなカスタードアイスクリームとソルベがあったが、みるみるうちに消えていくのが見えた。
そのうちに、デザートと難しい話は無事に終わり、食事会は終了となった。
レイアナ達には、ロコモコ2つとカスタードプリンを4つ。
ジョルカスト嬢たちには、煮卵あるだけと、切り分けられるカスタードプリン30㎝サイズを2つ。
それぞれを贈答用のボックスにいれて持たせてやった。
30㎝サイズのプリンに、レイアナが興奮して自分もと懇願したが、トーマスの「次回の身体測定での体重計が楽しみですね」というセリフに、すぐにあきらめた。
そして、それぞれの迎えの送迎用移動板に土産を載せたあと、ジョルカスト嬢が俺の前に立ち、
「ショウン・ライアットさん。私は商人として貴方に言っておかないといけない事があります」
と、いってから、真剣な眼差しで俺を見つめ、
「ショウン・ライアットさん。私の経営する客船のレストランで料理人として腕をふるってもらえませんか?」
この流れで、なんとなく予想できたセリフをぶつけてきた。
もちろん受ける気はない。
「悪いがお断りする。俺は料理人じゃなくて貨物輸送業者で、この船は貨物船だ。客船じゃないんでね」
そういって断った瞬間、テグツシア執事が俺の襟首を掴んできた。
「貴様!御嬢様の誘いを断るとはどういうつもりだ?!」
ドラコニアル人の成人男性の腕力で掴まれると、流石に苦しい。
むこうも武術は修めているだろうし、簡単にはいかない。
取り敢えず急所に一撃入れて、脱出してやろうと思っていると、
「じゃあきみが、『お前は貨物輸送業者に向いてるから直ぐに転職しろ』って銀河貨物輸送業者組合の組合長に言われたからって、『はいわかりました』って了承するのか?そこまでにしておきたまえよ。そういう行動は主人の恥になる」
「くっ…」
トーマスが、いつの間にかテグツシア執事の腕を掴み、普段は見せない真剣な表情をしていた。
すると、ジョルカスト嬢がテグツシア執事に近寄り、
「その手を離しなさいカミル」
と、命令した。
その言葉に従い、テグツシア執事は俺の襟首を掴んでいた手を離した。
その次の瞬間、ジョルカスト嬢がテグツシア執事に平手打ちを放った。
そして俺に向けて深々と頭をさげ、
「ライアットさん、当家の執事が大変失礼をいたしました」
と、謝罪をしてきた。
その様子を見て、テグツシア執事も慌て頭をさげ、
「ショウン・ライアット様!お招きいただいたにもかかわらず、無礼な言動の数々。さらには掴み掛かるなどの暴力行為をしてしまい、大変申し訳ございませんでした!」
と、さっきのキレ具合とは一変して、真剣な感じで謝罪をしてきた。
『御嬢様!そんな底辺の輩に謝罪などしてはなりません!貴様!よくも御嬢様を辱しめたな!』とかいわないだけましな感じだ。
「今後はこういうことの無いようにお願いしたいね」
まあ、忠誠心からなんだろうし、これ以上騒ぎたてなくてもいいだろう。
「フェイオスさんも、お手数をおかけしました。レイアナさん。せっかくのお食事会の最後にこんなことにしてしまって申し訳ありません」
そして、ジョルカスト嬢は申し訳なさそうな表情で、トーマスとレイアナにも頭をさげる
するとトーマスがジョルカスト嬢の手を取り、
「彼も貴女のためと思ってした事ですから、あんまり責めないでやってあげて下さい」
と、いつもの調子で声をかけ、
「貴女のような美しい方に悲しい顔は似合わない」
ジョルカスト嬢の手の甲にキスをした。
すると次の瞬間、
「恥ずかしいことをするんじゃないっ!」
「ぐあっ!」
レイアナの爪先がトーマスの脛に炸裂した。
こうして、変態執事が痛い目にあったところで食事会は終了となった
視点変換 ◇ジョルカスト嬢◇
送迎用移動板に乗り込み、しばらく進んでから、私の執事に声をかけました。
「やってくれたわね…」
「申し訳ございません!」
私のため息混じりの一言に、テグツシアは深々と頭をさげます。
「彼に好印象をもたれるために、貴方に少々失礼な態度を取らせ、私がそれを諫めるという方法を決めたのは私です。でもまさか掴み掛かるなんて…」
「しかし!不敬にも御嬢様の誘いを断ったんですよ?!やはり今からでも強引に…」
「やめなさい。あれはビジネスの持ちかけ。相手には拒否する権利があるわ。それに、彼はドラッケンの関係者。無理矢理契約したとなれば、あの一族を敵に回す事になるわよ。それに彼自身にも嫌われてしまうわ」
もう嫌われたかもしれないと思いながらも、興奮するテグツシアを諫め、彼をじとっとみつめます。
彼は忠誠心も高く、能力も申し分ない優秀な執事だけれど、その忠誠心が高すぎるのが悩みの種です。
「それから、レイアナさん達にもお願いしたけど、ショウン・ライアットが宝珠煮卵を作れることは秘密よ」
「かしこまりました」
これが知れ渡れば、彼に色々迷惑がかかってしまうので、最重要事項です。
それにしても、慣れないことをするものではありませんでした。
あの場に現れたショウン・ライアットさんに感謝しつつも、どこかのスパイかと疑いましたがそんなことはなく、
更にはリキュキエル・エンタープライズやドラッケン一族に関わりがあるのがわかり、
さらには、料理の腕前が素晴らしいと言うのを聞いていました。
そんな彼と、少しでもよい関係を構築出来たらと考え、私に好印象を持ってもらうために、テグツシアにショウンさんに少々失礼な態度を取らせ、私がそれを諫めるという方法を取りました。
あざとい感じがするので嫌だったのですが、スターフライト社からの攻撃が今後もあるかと考えると、味方が多いに超したことはありません。
そんな私の思惑は、おそらく全員に見抜かれてしまったことでしょう。
しかし、唯一の誤算は、彼が宝珠煮卵の制作者で、ミルトシュランテに載るほどの腕前だったことです。
そのため私が本気で勧誘をしてしまい、そのせいでテグツシアが過剰に反応してしまったために、あんなことになってしまいました。
慣れないことはするものではありませんでしたね。
幸い連絡先は交換してもらえたから、取り敢えず明日の昼過ぎにでも、謝罪の通信を入れておきましょう。
あと、不謹慎ではあるのですが、いただいたお土産をちらちらと見てしまいます。
宝珠煮卵も楽しみですが、あの大きなプディングも非常に楽しみです。
取り敢えずテグツシアには、食べさせてあげないことにしましょう。
視点終了
ジョルカスト嬢は悪い人ではありません。
テグツシア執事は代々ジョルカスト家につかえている一族の人です。
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