File91 惑星オルランゲアでの休日④ セレブにはセレブなりの悩みがある
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デニスと、その高校時代の後輩であるリーナ・プレカ・ナルマルの2人が話に夢中になったために、俺は一言だけかけてその場をあとにした。
オーバーホールの契約書は俺が保管してるし、いずれ彼女との様子を、ササラあたりに詳しく話すとするか。
ともあれその翌朝。
俺は貨物配達受付に向かいながら、ある考えを巡らせていた。
それは、貨物配達受付に行って、いい仕事があれば受ける。無かったら1日休みという、南の島の王様みたいな考えだ。
もともと2日ほどは休むつもりだったから、いい仕事の線引きはかなり緩くなるだろう。
そんな緩い感じで貨物配達受付にたどり着くと、なぜかササラが手招きをしてきた。
なんだろうと思いながらも、ササラのところに行くと、
「やあショウン。いま呼び出すところだったんだよ」
「呼び出し?俺は何も悪いことはしていないし、問題も起こしてないぞ?」
「違う違う。君がここに戻ってきたら連絡するように頼まれたんだよ。
リキュキエル・エンタープライズ社副社長、レイアナ・リオアース様にね」
それを聞いた瞬間、軽く目眩を覚えた。
「要件はなんだって?」
「自分で話すってさ。はい。10時になったらここにいってね」
ササラが寄越してきたデータに、俺は大きくため息をついた。
俺が呼び出されたのは、1階層の旅客用停泊地にある、VIP専用個室ラウンジだ。
本来は旅客船の搭乗時間までの間、特別なパスを持った人間のみが使用を許可される、超豪華な待合室なわけだが、VIPが待ち合わせをする場所としても、使用されている。
以前、ジザン・ヤウサルがヤバい取引相手と会っていたところだ。
「この先はVIP専用個室ラウンジです。パスはお持ちですか?」
そのためか、警備が強化され、明らかにゴツイSP2人が、エリア入り口のゴツイ扉の前で待ち構えていて、簡単には入らせてもらえなくなっている。
ジザンの奴は本当に迷惑な奴だ。
とはいえ、俺にはここに入る正当な理由がある。
「あー。リキュキエル・エンタープライズ社副社長のレイアナ・リオアースにここにくるように言われたショウン・ライアットだ。確認してほしい」
「わかりました。少々お待ちを」
そういうと、SPの1人が備え付けの端末を操作しはじめる。
『お前なんかが呼ばれるわけないだろう!失せろ!』
とか言わないあたり、この人達は優秀な人達なんだろう。
「確認が取れました。7番のお部屋へどうぞ」
「ありがとう」
そしてすぐに確認がとれると、扉が開き、中へと案内された。
中はかなり幅の広い廊下で、壁や天井はダークブラウンで統一され、床には赤い絨毯が敷かれていた。
扉はいくつもが一直線に並んでいて、それぞれの扉にはナンバーレリーフが取り付けられていた。
そうして俺が7番の扉をノックしようとした瞬間、
「おいおい。明らかな貧乏人が、選ばれたものしか入ることが許されないVIP専用個室ラウンジに入り込んでるぞ?」
「本当だー。なんか貧乏臭がしてたまらないなー。おまけになにその格好ー?TPOを弁えた服装をしてくれないかなー?あ、貧乏人には不可能だよねー!」
「止めろ。修理か清掃の業者かもしれないだろう?薄汚れた格好をしてるんだから」
いやに派手な雰囲気の男。
童顔で、語尾を伸ばす男。
眼鏡で落ち着いた雰囲気の男という、大学生か高校生ぐらいの3人組に絡まれた。
俺は眼をうたがった。
なんだこのあからさまな、なんかのドラマにしかでてこないような嫌みな金持ち3人組は?
もしかしてこういうパフォーマンス集団がなにかだろうか?
ともかく、関わりたくないので、彼等が満足するセリフを吐いて、解放してくれることを祈ろう
「修理業者です。空調がおかしくなったとかで、チェックをするところなんです」
修理業者にしては工具箱を持ってないし、そういう業者はツナギがほとんどなのに対して、俺の格好はフライトジャケットだ。
明らかに違うことが分かりそうなものだが、
「ほら、やっぱりそうじゃないか。悪いな。仕事の邪魔をした。しっかりと下級労働に勤しみたまえ」
「でも気分悪いなー。貧乏臭を嗅いじゃったもんなー」
「ぼやくなよ。別荘に女呼んで気分転換しようぜ」
一切気づくことなく、そのままエリアをでていった。
おそらくどっかの御曹司達なのだろうが、あそこまでテンプレートな嫌みな金持ちを演出している時点で、パフォーマンス集団にしか見えない。
実に面白い3人組だった。
それはともかく、こっちの要件を済まさないといけないので、改めて7番の扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
中から声が返ってきたので、ゆっくりとドアを開けると、
俺を呼び出した、リキュキエル・エンタープライズ社副社長、レイアナ・リオアースと、
以前にSOSを受け、通信を貸した、フォトンクラウド社CEO、ファルナ・ジョルカストが、
高価そうなソファーに向かい合わせで座っていた。
そして、そのそれぞれのソファーの後ろには、雰囲気は違うものの、主を守護するように執事がたたずんでいた。
すると、ファルナ・ジョルカストが立ち上がり、
「お待ちしてましたライアットさん。いつぞやはありがとうございました」
丁寧なカーテシーを披露した。
画面越しでは分からなかったが、ずいぶん小柄な感じだった。
「間に合ってよかったです。これで頻繁なタダ働きとおさらばできますからね」
向こうも、俺がやって来たことに感謝しているだろうが、こちらもストライキの尻拭いをしなくて良くなるのだから、感謝をするのはこちらも同じだ。
だが一つ気になる事がある。
「ところで、どういう知り合いなんです?」
経済界のパーティーだかで知り合ったのであろうことはなんとなく想像できるが、ジョルカスト嬢がドラコニアル人なのを考えても、年齢差があるだろう。
「財界のパーティーで知り合ったんです。この前の調印式の後のパーティーでもご一緒して、その時にショウンさんの話が出たんですよ」
なるほどな。
でもそれなら、通信で事足りるはずだ。
なのにわざわざオルランゲアくんだりまでやって来たのには、なにか別の理由があるはずだ。
「それで?ジョルカストさんを案内するだけでついてきたわけじゃないよな?」
そのあたりを御嬢様に突っ込んでみたところ、
「実はですね。久しぶりにショウンさんのご飯を食べさせて貰えないかなーと。ファルナさんも一緒に。で、そのまま私の専属料理人になってもらおうと思って」
副社長はにこにこしながらそう答えた。
なので俺は、
「ではジョルカストさん。今後のご活躍を期待しております。私もこれから仕事がありますので、これで失礼いたしますね」
ジョルカスト嬢に挨拶をして、部屋をでるべく扉に向かった。
「あ…」
その時、御嬢様が残念そうな声をあげたが、無視して扉に向かった。
しかしそれを、レイアナの専属執事兼護衛であるトーマス・フェイフォスが遮った。
「ライアット様。少しだけお時間をいただけますか?」
普段はへらへらしている彼だが、今回はかなり真剣な表情をしていた。
「なんかあったのか?」
そして、小声で要件を話し始めた。
「はい。実は、最近学校の方でなにかあったらしく、御屋敷でもふさぎがちなんです」
いくら大企業の副社長といえどまだ子供だ。
家庭はともかく、学校でなにか悩んだりすることもあるだろう。
「いじめにでもあってるのか?」
最悪の事態も懸念したが、
「お嬢様ならいじめてきた相手を再起不能にまで、徹底的に追い込みますね。精神的に」
その心配は全く無いらしい。
「だとしたら、知らないうちに恨みをかってたりして、わからないように嫌がらせをされてるとかするんじゃないか?」
「それはあるかもしれませんが、私は学校内には入れませんし、尋ねてもお話になっては下さいません」
大企業の御嬢様ともなれば、知らないうちに恨みを買い、なんの面識もない人から恨まれたりすることもあるだろう。
すると、トーマスがいきなり頭を下げてきた。
「ライアット様。今回のことは、いいかたは悪いですが、今回ジョルカスト様をだしに、ライアット様に食事を作っていただき、少しでも御嬢様に元気を取り戻していただきたいと思い、私が画策しました。お叱りなら私がいくらでもお受けします。どうか、お願いできませんでしょうか?」
いつもの変態執事とは思えない態度に驚くが、それだけレイアナを大事にしているということなんだろう。
俺はため息をついてから、レイアナに向き直り、
「わかったよ。晩飯でいいなら食わせてやる。その代わり、材料費はそっち持ち。時間は午後8時までに船にこい。勧誘話は絶対にするな。あといっとくが、お前が行きつけの高級レストランみたいなサービスを期待するなよ」
夕食を提供することを了承した。
「やった!ありがとうございます!」
その俺の言葉に、レイアナは嬉しそうに返事をした。
レイアナは、毎度毎度勧誘をしてくるのがうざったくてしょうがない。
あれを止めてくれれば、食べたいから作ってと素直にいえば、作ってやることは嫌ではない。
それに、以前のミルトシュランテの口止め料の事もあるしな。
そしてジョルカストさんに視線をむけ、
「ジョルカストさんはそれでよろしいですか?なんか
勝手に頭数に入れてしまいましたが」
と、声をかけたとこ、
「最初からそのつもりでしたから大丈夫ですよ。よろしくお願いいたしますね」
と、彼女は少し笑いながら承知してくれた。
彼女の口に合うかは分からないが、しっかりともてなすことにしよう。
今回でてきた嫌な御曹司3人組は、
パフォーマンス集団にするか
マジで嫌な御曹司にするか迷ってます
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